燃えよ村人
「ということで! このえだをつかえば、しょくんもじゅうじんをやっつけられるのだ!!」
ピョンスロットが枝を構えて大きな声を出す。
ウサギの騎士はナーデにお尻を支えられ、掲げてもらいながら、村人を見渡した。
「いや、枝って言っても……」
「だけど、しゃべるうさぎが言ってるんだよ?」
「うさぎがしゃべるんだもんなあ。枝で獣人をやっつけられるとか、ありそうだよなあ」
ざわざわする村人たち。
ココア姫は彼らを見て、ふむふむとうなずいた。
「ピョンスロット卿の姿そのものが、説得力になっていますわね。というかこの方、枝がなくても背負ったニンジンでみんなやっつけてしまいますのに」
それでも、村人がやる気になるのはとてもいいことだ。
魔の森を囲む村々では、誰もがみんな、無気力になっていた。
国の軍隊は魔女の手下にかなわないから、魔女たちは暴れほうだい。
生け贄は取られるし、獣人たちは近くの村にやってきては狼藉をはたらく。
畑はあらされ、野菜は食べられ、冬のための食料は持って行かれる。
誰もがくたびれ果てて、しかし逃げるところはなくて、しょんぼりとしながら暮らしていたのだ。
「やっつけられるのだ! 木こりのクルトン殿!!」
「へい!!」
ウサギの呼びかけに応じて、いそいそと後ろからむくつけき大男が現れる。
木こりのクルトン。
偶然、枝で獣人をやっつけた男だ。
「俺が獣人をやっつけたクルトンだ!」
クルトンが名乗ると、村人はざわざわっとした。
「クルトンって、あのほら吹きクルトンか?」
「なんだ、クルトンかよ」
村人のふんいきが微妙になった。
これはいけませんわね、とココアがうなる。
「ミルクレープさん、お願いしますわ!」
「ヒヒーン!」
ココアの合図を受けて、白馬ミルクレープは魔の森にお尻を向ける。
そして、うーんとがんばって、出すものを出した。
たくさん出た。
草を食べている馬とは言え、出すものはそれなりにくさい。
そして、くさい臭いは森の中に流れ込んでいくのだ。
「こ、こらー!! 森の入り口で馬糞をしちゃいかーん!」
大変に怒りながら、アナグマの獣人が飛び出してくる。
「ひい、獣人だあ!」
「にげろー!」
村人はおびえて、散り散りになりそう。
「まつのだ! クルトン殿!! 枝でやつをたおすのだ!」
「わ、わかったぜウサギの旦那!!」
太い枝をにぎりしめて、走ってくるクルトン。
アナグマ獣人は彼に気付いた。
「なんだ、大男! このおれとやる気か! ははは! おれは無敵の魔女の獣人だぞ!」
「え、えりゃー!!」
「クルトンが行ったー!」
「クルトン、しんだな……」
「獣人になんか勝てるはずがないのに!」
誰もが、クルトンが獣人にやられると思った。
だけど、状況はぜんぜん違う方に。
「おりゃあ!」
「いたい!!」
クルトンが握りしめた枝が、アナグマの頭にぽかんと炸裂したのだ。
これには村人、文字通り跳び上がって驚いた。
「うわー!!」
「通じた!」
「獣人がいたいって言った!!」
驚きが、村人たちの間に広がっていく。
そして、驚きが希望に変わる。
「いけるんじゃないか」
「あたしたちも枝をにぎれば!」
「でもなんで枝なんだ?」
「ばっか、わかんないけど枝が弱点だったのよ!」
「そうかあー」
口にする言葉は色々だが、みんな手に手に枝を拾い上げる。
「よーし、みんなでかかれー!」
「ですうー!!」
ピョンスロットの号令と、それにあわせたナーデのかけ声で、村人たちは「うわーっ」と走り出した。
逃げる方とは逆だ。
「な、何だお前らー!! うわーっ!!」
村人たちにポカポカと叩かれて、アナグマ獣人は悲鳴を上げた。
そして、ぼわんと煙をあげて、割れたビスケットに戻ってしまう。
「……よ、よし!!」
一瞬みんな呆然として、先に我に返ったのはクルトンだ。
「や、やったぞー!!」
「やった……やったー!!」
「うおー!!」
「いやったー!!」
村人たちも、どうやら理解したらしい。
獣人を枝で叩いてやっつけたのだ。
みんな、うわーっと盛り上がる。
なにしろ、お城の完全武装した軍隊でもかなわなかった獣人を、村人たちがみんなでやっつけたのだ。
「これ、いけるんじゃないか?」
「俺たちで獣人をやっつけられるぞ!」
わいわいと騒ぐ村人たち。
そこに、ナーデの頭に乗ったピョンスロットが近づいていった。
いや、正しくはピョンスロットを頭にのせたナーデが歩いて行った。
「そういうことだ! しょくんは、じゅうじんをやっつけられるのだ! これはとてもまじょにとって、ぐあいの悪いじょうほうなので、ひみつだったのだ!」
「そうだったのか!」
「魔女汚い!」
「秘密よくない!」
村人たちは、すっかりウサギの騎士の言葉を信じる気になっていた。
彼の言葉どおり、獣人はやっつけられたし、何よりこのウサギ、ふしぎなカリスマがある。
「これはとってもいいじょうほうだ! しょくんはこれを、ほかの村のひとにつたえなくてはいけない!」
「言われてみればそうだ!」
「そうだそうだ!」
「ちょっと俺、近くの村まで言ってくる!」
村人たちは、生き生きとした顔になって動き出す。
「やりますわね、ピョンスロット卿……!!」
「姫様、ピョンスロット卿を頭に乗せてると、ふんわり暖かいんですよ!」
こうして、魔女をとりまく世界が大きく変わり始める。




