魔女と魔人のお話
魔の森の奥深く。
獣人に連れてこられなければ、誰もたどり着けないようなところに、とても変わった家があった。
赤や白、黄色の砂糖細工で飾られたビスケットの屋根。
輝くほどに蜜を塗られた、パイの壁。
窓や扉は板状のチョコレート。
見ているだけで、甘さが匂ってきそうな、それはお菓子の家だった。
「うえー、見てるだけで虫歯になりそうだぜ」
「おい、フォクシー様に聞こえたらビスケットに戻されちまうぜ」
「俺たちも元々は菓子だからな。だが、なんでフォクシー様は俺たちを獣人の姿にしたんだろうなあ」
城の周りを歩き回る獣人の歩哨が疑問を口にする。
彼らは魔女に作られた、お菓子細工の魔物だ。
獣に見えるが、その毛の一本一本は飴細工のようで、心臓の部分には核となったビスケット。
「それで、朝っぱらからフォクシー様は何をしてるんだ? あの人、夜行性だろう」
「お前は先週作られたばかりだから分からないだろう。あの方の他に、魔物の長みたいなのが何人もいるんだよ。でな、こうして月に一度遠くの連中と連絡を取り合うんだ」
「ほえー。あの人みたいな化物が、他にもいるのかよ」
「おい馬鹿、聞こえるぞ」
「おっと」
獣人は慌てて口を抑えた。
さて、彼らが守るお菓子の家の中では……。
上等な真っ赤なビロードのコートを纏う、大柄な女の姿がある。
彼女は立派な椅子に腰掛けていて、目の前で燃え盛る暖炉と向かい合っていた。
暖炉の炎は揺らぎ、その炎の中にたくさんの顔を浮かび上がらせている。
「それで、どうなのかえ? 見つけた地図とやらは、確かなのかい?」
彼女は、燃えるような赤毛で、釣り上がった目を炎に向けている。
炎の中で、浮かび上がった顔の一つが笑った。
『わははははは! 確実に宝が見つかる地図なんてものがあるわけがねえだろうが。だから、物事は面白れぇんだ』
「シルバー。事は遊びじゃないんだよ? そのお宝が強い力を持ったものなら、魔王様の復活に一歩近づくんだ。あんたはそんな有様だから、船員たちにも愛想を尽かされるんじゃないかえ?」
『船員なんざ、人間で十分。それに全員が俺の下から離れちゃいねえ。ビリー・ボーンズの野郎は俺を信じてついてくるとよ。まあ見てろ。手柄は俺が一番乗りさ』
「はっ、不確かな事に命を賭けるなんて、魔人はこれだから分からないのさ。アテは用心深い魔女だからね。子どもたちの魂を積み上げて、少しずつだが近づいているよ。あと千人分も集めたら、魔王様が蘇る手がかりが見つかるかもね」
『気の長い話だなぁ、おい! ゆっくりやるのはいいけどよ、何者かが俺たちを付け狙ってるって言うぜ。シュネーケのやつは、国まで盗ったが、それでやられちまった。俺たちが人間に負けるはずはねえから、恐らく人間じゃねえ何かが動いてる』
「随分と心配性だねえ。シュネーケは残念だったけれど、魔物のくせに城なんぞに憧れるからだめだったのさ。魔物は魔物らしく、暗闇の中にいるのがお似合いさね」
『俺はまっぴらごめんだな! がははははは!!』
「話が合わないとは思っていたけれど、本当に合わないねえ」
魔女フォクシーはしかめ面になった。
無意識にか、そのお尻から金色のフサフサした尻尾が飛び出し、ゆらゆらと揺れる。
『ま、お前も気をつけるこった。一箇所に根を張ってると、俺たちを狩ろうとしてる連中に狙われやすくなる。退き時を見誤るなよ』
「ふん」
フォクシーが鼻を鳴らすと、暖炉に燃え盛っていた炎は消えた。
「余計なお世話さ。アテは上手くやっているんだ。人間どももアテに屈し、生け贄を次々に送ってくるだけ。何が怖いっていうのかねえ。人間じゃなければ、魔王様を討った騎士たちかい? いやいや、あれらは魔王様の呪いで、けだものに変えられてしまったからねえ」
フォクシーは落ち着かなげに尻尾をぶんぶん振りながら、家の中を移動した。
行き先は台所。
大きく作られたそこは、まるでお菓子の工房とでも言えるような見た目で、大きな窯があった。
「さあ、気持ちを落ち着けたい時は、お菓子を焼かなければねえ……。今度はどんなお菓子にしようか……」
うっふっふ、と笑いながら、お砂糖、小麦粉、卵などを正しい分量用意し、正確にお菓子作りを始めるフォクシーなのだった。




