獣人は倒せる!
「東の村に、獣人を追い払った男がいるらしい」
このような話を聞き、ピョンスロット一行は一路、東の村に向かった。
「それがほんとうならば、いっぱんのむらびとたちも、まじょの手下をやっつけられるかもしれませんな」
ミルクレープの首筋に貼り付いているピョンスロットが、そんな事を言った。
馬の首にくっついているのは、たてがみに埋もれて揺られていると、落ち着くかららしい。
「そうですわね! 村の人達も、みんな魔女に怯えていましたもの。かつてはボンボン王国もそうだったのでしょう?」
ココア姫はピョンスロットのお腹をつつきながら、遠い目をする。
寝物語に、母であるショコラーデ王妃から聞かされていたのだ。
ボンボン王国は魔女の手に落ちたが、ウサギの騎士とのんびり屋の王女がそれを取り戻したと。
「とても、このもふもふしたものが伝説のウサギの騎士だなんて。今でも信じられませんわ」
呟きながら、ピョンスロットの顔の辺りをもしゃもしゃ触る。
「むわー」
ピョンスロットがもふられて声を上げている後ろで、ナーデが首を傾げた。
「昔のボンボン王国を占領した魔女と、その手下の魔物にも武器は通じなかったんでしょうか?」
「そうだと聞いていますわ。だから、お母様は国を脱出して、お父様がお生まれになった国、シュリンプ王国に助けを求めに行かれたのだそうよ。そして、そこでピョンスロット卿と出会った」
「いかにも!」
ピョンスロットは、ココアのもふもふをするりと抜け出した。
仰向けの体勢のまま、器用にミルクレープの首を登っていくと、頭の上にちょこんと腰掛けた。
「さきのたたかいは、私とあと二匹のどうぶつきしがたたかい、かつことができた。だが、つねに私たちどうぶつきしがいるとはかぎらない。人々がたたかえるほうほうがあるなら、見つけておくほうがいいのだ」
「一理ありますわね!」
うんうん、とココア姫はうなずく。
白馬ミルクレープは、そんな彼らを乗せてぱっかぽっこ。
街道をどんどん行くと、東の村が見えてきた。
先ほどの村からは、魔の森を囲んで反対側にあたる。
大きな体格の白馬と、それにまたがった二人の女の子がやってきたので、村人たちは大層驚いたようだった。
さらに、ぴょんと飛び降りたウサギが喋りだしたので、誰もが呆気に取られた。
「この村に、じゅうじんをおいはらった男がいるときいてやってきたのだ。だれがじゅうじんをおいはらったのか!」
「ピョンスロット卿。あなたが喋ると、必ず最初は混乱を呼びますわ。わたくしにお任せなさい」
ざわつく村人たちの前に、毅然と立つココア姫。
「よろしいかしら? 獣人を追い払った方がおられると聞いてやって参りましたの! どなたですの?」
今度は人間が喋ったので、村人たちは我に返ったようだ。
きっと、さっきウサギが口を利いたのは、気のせいだったのだろうと誰もが思った。
そのウサギは、今は黒い鎧を着た少女、ナーデが抱っこしている。
「いらっしゃいませんの? 噂は噂でしかなかったのかしら」
ココア姫が少しがっかりしたような顔をする。
そうすると、村人の一人が奥へ走っていった。
少しして、村人が大柄な男を連れてくる。
「おおい、お嬢ちゃん。こいつだよ。こいつが魔女の手下を追っ払ったって言ってる、木こりのクルトンだ」
ボサボサ頭で無精髭の男だ。
彼は、どうして自分が呼ばれたのか分からず、目を白黒させていた。
しかし、ココア姫がぐいぐい近づいて、
「あなたが獣人を追い払いましたの? どうやりましたの? これは大事なお話なのですわっ」
と迫ると、合点が行ったらしい。
「おお、おお! 俺の話を信じてくれるのかい! みんな作り話だろうって言って、誰も信じてくれなくてなあ」
「そりゃあそうだ! 国の軍隊だって勝てなかったんだぜ! それがただの木こりにどうかできるもんかい!」
「嘘つきクルトン!」
野次が飛んだ。
これに対して、ナーデが抱っこしていたウサギが耳をつーんと立てて怒る。
「うぬ、なんというものたちだ! 村のなかまをあたまからうたがって、わるくちを言うとはゆるせん!」
「ピョンスロット卿、そう言うの嫌いですもんねえ」
「うむ。姫様、ここにいてははなしができませんぞ! おちついたはなしは外で!」
「そうですわね!」
ココア姫もうなずいた。
そして一行は、木こりのクルトンを連れて村の外に出た。
クルトンは、いきなりの事に戸惑っている。
「いきなり連れ出して、どういうつもりだい? それに、俺には、そこのウサギが喋ったように見えて……」
「しゃべっているぞ」
「うわー!! ウサギが喋ったあ!!」
「喋るウサギなのですわ! お気になさらず! ということで、どうやって獣人を追い払ったか教えて欲しいのですわよ!」
驚きかけたクルトンを、押し切るココア姫。
彼女の勢いに押されて、クルトンは話しだしたのだった。
「お、おう! 俺が獣人に襲われたのはな、この間のことで……俺は必死になって逃げたんだけど、斧も何も通じなくてな」
ここでナーデが質問する。
「それは魔の森ですか?」
「おうよ。魔の森も、外側は結構自由に木を切ったりできるんだ。だけどその日は運悪く獣人に会っちまってな。んで、俺は慌てて斧の他に、切り落とした枝を振り回した! そしたらだ。枝が当たった獣人が、ぎゃーんって悲鳴を上げたんだ」
「枝が!?」
ココア姫とナーデが顔を見合わせる。
二人とも意味がわからない。
だが、ピョンスロットだけが、それが一体どういうことなのか、気づいたようだった。
「そうか、えだか! そう言うことか! ということはつまり、むむむ!」
「何がむむむですの!? 分かるように説明してくださいまし!」
そして、一人合点したピョンスロットは、ココア姫にお腹を揉まれるのだった。




