表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/80

獣人は倒せる!

「東の村に、獣人を追い払った男がいるらしい」


 このような話を聞き、ピョンスロット一行は一路、東の村に向かった。


「それがほんとうならば、いっぱんのむらびとたちも、まじょの手下をやっつけられるかもしれませんな」


 ミルクレープの首筋に貼り付いているピョンスロットが、そんな事を言った。

 馬の首にくっついているのは、たてがみに埋もれて揺られていると、落ち着くかららしい。


「そうですわね! 村の人達も、みんな魔女に怯えていましたもの。かつてはボンボン王国もそうだったのでしょう?」


 ココア姫はピョンスロットのお腹をつつきながら、遠い目をする。

 寝物語に、母であるショコラーデ王妃から聞かされていたのだ。

 ボンボン王国は魔女の手に落ちたが、ウサギの騎士とのんびり屋の王女がそれを取り戻したと。


「とても、このもふもふしたものが伝説のウサギの騎士だなんて。今でも信じられませんわ」


 呟きながら、ピョンスロットの顔の辺りをもしゃもしゃ触る。


「むわー」


 ピョンスロットがもふられて声を上げている後ろで、ナーデが首を傾げた。


「昔のボンボン王国を占領した魔女と、その手下の魔物にも武器は通じなかったんでしょうか?」


「そうだと聞いていますわ。だから、お母様は国を脱出して、お父様がお生まれになった国、シュリンプ王国に助けを求めに行かれたのだそうよ。そして、そこでピョンスロット卿と出会った」


「いかにも!」


 ピョンスロットは、ココアのもふもふをするりと抜け出した。

 仰向けの体勢のまま、器用にミルクレープの首を登っていくと、頭の上にちょこんと腰掛けた。


「さきのたたかいは、私とあと二匹のどうぶつきしがたたかい、かつことができた。だが、つねに私たちどうぶつきしがいるとはかぎらない。人々がたたかえるほうほうがあるなら、見つけておくほうがいいのだ」


「一理ありますわね!」


 うんうん、とココア姫はうなずく。

 白馬ミルクレープは、そんな彼らを乗せてぱっかぽっこ。

 街道をどんどん行くと、東の村が見えてきた。

 先ほどの村からは、魔の森を囲んで反対側にあたる。


 大きな体格の白馬と、それにまたがった二人の女の子がやってきたので、村人たちは大層驚いたようだった。

 さらに、ぴょんと飛び降りたウサギが喋りだしたので、誰もが呆気に取られた。


「この村に、じゅうじんをおいはらった男がいるときいてやってきたのだ。だれがじゅうじんをおいはらったのか!」


「ピョンスロット卿。あなたが喋ると、必ず最初は混乱を呼びますわ。わたくしにお任せなさい」


 ざわつく村人たちの前に、毅然と立つココア姫。


「よろしいかしら? 獣人を追い払った方がおられると聞いてやって参りましたの! どなたですの?」


 今度は人間が喋ったので、村人たちは我に返ったようだ。

 きっと、さっきウサギが口を利いたのは、気のせいだったのだろうと誰もが思った。

 そのウサギは、今は黒い鎧を着た少女、ナーデが抱っこしている。

 

「いらっしゃいませんの? 噂は噂でしかなかったのかしら」


 ココア姫が少しがっかりしたような顔をする。

 そうすると、村人の一人が奥へ走っていった。

 少しして、村人が大柄な男を連れてくる。


「おおい、お嬢ちゃん。こいつだよ。こいつが魔女の手下を追っ払ったって言ってる、木こりのクルトンだ」


 ボサボサ頭で無精髭の男だ。

 彼は、どうして自分が呼ばれたのか分からず、目を白黒させていた。

 しかし、ココア姫がぐいぐい近づいて、


「あなたが獣人を追い払いましたの? どうやりましたの? これは大事なお話なのですわっ」


 と迫ると、合点が行ったらしい。


「おお、おお! 俺の話を信じてくれるのかい! みんな作り話だろうって言って、誰も信じてくれなくてなあ」


「そりゃあそうだ! 国の軍隊だって勝てなかったんだぜ! それがただの木こりにどうかできるもんかい!」


「嘘つきクルトン!」


 野次が飛んだ。

 これに対して、ナーデが抱っこしていたウサギが耳をつーんと立てて怒る。


「うぬ、なんというものたちだ! 村のなかまをあたまからうたがって、わるくちを言うとはゆるせん!」


「ピョンスロット卿、そう言うの嫌いですもんねえ」


「うむ。姫様、ここにいてははなしができませんぞ! おちついたはなしは外で!」


「そうですわね!」


 ココア姫もうなずいた。

 そして一行は、木こりのクルトンを連れて村の外に出た。

 クルトンは、いきなりの事に戸惑っている。


「いきなり連れ出して、どういうつもりだい? それに、俺には、そこのウサギが喋ったように見えて……」


「しゃべっているぞ」


「うわー!! ウサギが喋ったあ!!」


「喋るウサギなのですわ! お気になさらず! ということで、どうやって獣人を追い払ったか教えて欲しいのですわよ!」


 驚きかけたクルトンを、押し切るココア姫。

 彼女の勢いに押されて、クルトンは話しだしたのだった。


「お、おう! 俺が獣人に襲われたのはな、この間のことで……俺は必死になって逃げたんだけど、斧も何も通じなくてな」


 ここでナーデが質問する。


「それは魔の森ですか?」


「おうよ。魔の森も、外側は結構自由に木を切ったりできるんだ。だけどその日は運悪く獣人に会っちまってな。んで、俺は慌てて斧の他に、切り落とした枝を振り回した! そしたらだ。枝が当たった獣人が、ぎゃーんって悲鳴を上げたんだ」


「枝が!?」


 ココア姫とナーデが顔を見合わせる。

 二人とも意味がわからない。

 だが、ピョンスロットだけが、それが一体どういうことなのか、気づいたようだった。


「そうか、えだか! そう言うことか! ということはつまり、むむむ!」


「何がむむむですの!? 分かるように説明してくださいまし!」


 そして、一人合点したピョンスロットは、ココア姫にお腹を揉まれるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ