ふたご、リスの騎士と出会うこと
この辺は、魔の森っていわれてます。
ぶきみな馬車に連れられてきた、あたしとお兄ちゃん。
「ここが終点だよ。じゃあな、たっしゃでな」
顔をかくした御者さんは、そんなことを言ってあたしたちを下ろしました。
「たっしゃでな、なんてひどいことを言う! 魔の森に入った子どもは、だれももどって来ないなんて僕でも知ってるよ!」
お兄ちゃんは、ぷりぷりと怒って見せました。
「でも大丈夫だよ! 僕がグレーテを守ってあげるからな!」
「うん、ありがとうお兄ちゃん。でもお兄ちゃんあたしより腕ずもうよわいんだから無理しないでね……」
「う、うん」
あっ、急に元気がなくなりました。
あたし、何か言っちゃいけないことを言ったみたいです。
「ごめんねお兄ちゃん。元気だして」
「うん、がんばる……。僕はきたえて、グレーテに腕ずもうで勝てるようになる……」
「お兄ちゃん。今は魔の森の前にいるんだから、これからきたえてとか、間に合わないよ」
「う、うん」
しょんぼりとした、兄のヘーゼル。
こうなると、立ち直るまでちょっとかかります。
私はその間に、周りを確認することにしました。
目の前には、大きな森が広がっています。
これが魔の森。
四つの国のまんなかにある、広くて大きな森です。
それぞれの国が行き来するには、森はとてもじゃまなんです。
だけど、この森に道を通そうとか、木を切ってしまおうとかなんて、だれも考えません。
それは……。
「がっはっは! 新しいいけにえが来たようだな!」
すごく大きな声を出しながら、森のおくからだれかやって来ます。
あたしはビクッとして、お兄ちゃんの服のそでをつかみました。
お兄ちゃんもビクッとしたんだけど、むりしてファイティングポーズをとります。
お兄ちゃん、村では下から数えたほうが早いくらい腕っぷしがよわいです。
だけど、こういう時、すっごく勇気を出してがんばってくれる人です。
「な、な、なんだおまえはあ」
震える声で、お兄ちゃんが聞きました。
すると、森のおくから来ただれかが、顔を出します。
あたしたちは、アッと叫んでびっくりしました。
それは、毛むくじゃらで、クマの頭をした大男だったのです!
「俺か。俺はなあ、魔女フォクシー様の手下だよ。いけにえをフォクシー様にとどけるためにやってきたんだ。へえ、今回はふたごか。うまそうじゃねえか」
クマ男は、ぺろりと舌なめずりしました。
「い、妹はやらないぞ!!」
「やらないじゃねえんだ。お前たちがいけにえにならなきゃ、周りの国が見せしめで襲われるんだよ。フォクシー様が決めた、そういう約束なの。お前たち二人がだまっていけにえになれば、周りの国は平和なんだよ」
「そ、そんなあ」
お兄ちゃんが泣きそうになりました。
あたしだって泣きそうです。
お父さんとお母さんは、さいごまであたしたちを、いけにえにされないようにがんばりました。
だけど、これは国がくじ引きで決めることなのです。
今までも、こうやって子どもたちが、いけにえとして魔の森につれてこられていたのです。
「いけにえは、食べられちゃうんですか」
あたしは勇気をふりしぼって、ふるえる声で聞きました。
そうすると、クマ男はニヤニヤしながら言います。
「そうだぞ。頭からチョコレートペーストをつけて、ばりばりと……」
「きゃあー」
「お、おどかそうとするなんて、ひきょうだぞ!」
「ははははは。魔女フォクシー様は大の甘党でな。なんでも砂糖やチョコをつけて食べるのだ。おかげで俺たちのご飯も甘くて困っている……。いや、そんなことはいい。さあ、いけにえの子どもたちよ。こっちに来い!」
クマ男がやって来て、あたしの腕を掴みました。
痛い! すごい力です!
「このー! 妹をはなせ! はなせよー!」
お兄ちゃんが、ポカポカとクマ男の腕を叩きます。
だけど、クマ男が鼻息を吹き付けたら、お兄ちゃんはころころ転がってしまいました。
「わっはっは、騎士様気取りか? だけど、それにはもうちょっと上背と筋肉をつけないとなあ」
ああ。
こんな時、あたしが好きな物語だったら、正義の騎士様が助けにきてくれるのに。
現実とお話は、やっぱりちがうんでしょうか。
あたしは、泣きそうになりました。
もう、あと一秒くらいで泣くところです。
そうしたらです。
「うわぜいときんにくだと? しょうし」
可愛い声がしました。
ぴこぴこと足音がします。
誰かが、街道のほうからやってくるのです。
「うん? なんだぁ? 誰もいねえのに声がするぞ?」
「せっしゃは、おぬしの足もとだ。うわぜいがありすぎて、見えないようだな」
「なにっ」
あたしには見えました。
あたしの隣に、ちょこんと立っている茶色くてふわふわした姿。
大きな尻尾をくるんとさせて、彼はどうどうとクマ男を見上げています。
言葉をしゃべる、リス。
「リス!? リスがしゃべっただと!?」
「おぬしもクマなのにしゃべっているでござろう」
「確かに。……じゃねえ、何者だ、てめえ! 俺が、魔女フォクシー様の子分だと知って、舐めた口を叩いてるのか!」
「ほう、フォクシーの手下か。これはよいことをきいた」
リスさんは、あたしの靴にぴょんと飛び乗ると、ちょこちょこちょこっとあたしの体をかけあがって来ます。
そして、肩の上に乗っかりました。
「むすめよ、今たすける」
彼はそうささやいたあと、あたしをつかんだクマ男の腕に、飛びかかりました!
「えいやー!」
それは見事なジャンプキックです!
小さなリスさんなのに、そのキックはクマ男の腕をはねとばします。
「ぎ、ぎょえーっ!?」
蹴られた腕を腫らして、クマ男はふらふらと下がりました。
「な、なんだお前、お前はー!!」
「せっしゃか。せっしゃの名はボーリス。リスのきし」
ボーリスさん……!
「ボーリス、かっこいい……!!」
あっ、お兄ちゃんがふっかつしました。
「しょうねん、木の実をもっておらぬか?」
「木の実? あ、あるけど。はい!」
お兄ちゃんが、ボーリスさんにポケットのドングリを投げました。
ボーリスさんは、「えいやー!」とジャンプして、ドングリをキャッチします。
これをクマ男めがけて、キックします。
「な、なにぃーっ!?」
クマ男は避けられません!
すごい速さでとんできたドングリが、クマ男の頭に命中しました。
そうしたら……。
「あ、あぎゃ、あぎゃぎゃぎゃ」
クマ男の頭から、ぱりぱりと粉みたいなのが落ちてきます。
そして、ドングリが当たったところが割れて、体中にひびが……!
「ぎゃあー!」
一声さけぶと、クマ男はパリーンと割れてしまいました。
そして、消えてしまいます。
茂みに何かが、ポサッと落ちました。
「ふむ、これがクマめのしょうたいか」
ボーリスさんがひろいあげたのは、割れたクッキーでした。
クマ男と同じいろのチョコレートがかかっています。
「おっこちたら食べられないね……」
お兄ちゃんが、なんだか残念そうに言いました。




