それから、それから
「それからそれから?」
「ピョンスロットはもう、戻ってこなかったの?」
「うふふ、それはまた、別のお話です」
わたくしがお話を終えますと、幼い王子と王女が、続きをせがんで来ます。
何度もお話をしているはずですけれども、全然飽きないみたい。
「お母様とピョンスロットのお話、もっと聞きたい!」
「ねえねえ、お城の階段にかいてある大きなウサギさんの絵って、もしかしてピョンスロット?」
「はい、その通りです! ボンボン王国では、それからずうっと、白いウサギさんを国の守り神として大切にしているんですよ」
「へえー」
「ほえー」
「あ、あの、お妃様……! そろそろそこまでに……」
子供たちの世話係が、申し訳なさそうな顔をして言ってきました。
わたくしのお話の後だと、彼女の読み聞かせる童話を、子供たちはあんまり聞いてくれなくなるみたい。
「やっぱり、本当の話は臨場感があるんでしょうねえ……。私、お妃様がシュリンプ王国にいらっしゃって、真夜中にピョンスロット様たちと行進しているお姿を拝見しましたもの。夢の中の景色だと思ったものです」
「ええ。わたくしも、あの時のことはずうっと忘れられません。ほんとうに、楽しかったです。色々大変でしたけどね? でも、今だって楽しいのですよ?」
「まあ」
わたくしとお世話係の侍女は、顔を見合わせてくすくす笑いました。
王子と王女はそれを見て、
「ええーお母様たちだけずるい!」
「なんのお話ー? 教えて、聞かせてー」
お話をせがんできます。
これはもう少しだけ、お話をしなくてはいけないかも。
その時です。
慌てた様子で、扉がノックされました。
「お入りなさいな」
「は、はい! 失礼します!」
入ってきたのは、一番上の王女、ココアの教育係。
シュリンプ王国から、夫についてやって来た、女性騎士のピスタ。
「ショコラーデ様! 申し訳ありません! とうとうやられました……! ココア王女様がお城を大脱走しました……!」
「あらあら。でも、あなたの娘のナーデも一緒なのでしょう? 二人で、いつも騎士の真似事をしてたではありませんか」
「は、はい。それで、実は、模擬戦用の鎧と剣もなくなっていまして……」
「あら! それじゃあ、あの娘ったら本気なのね? うふふ」
「うふふじゃありませんよ、お妃様! ああー! どうしましょう! 私の責任です! あううう」
ピスタが頭を抱えます。
わたくしの隣では、侍女もオロオロ。
そうしていますと、お城の窓から羽音が聞こえました。
「あっ」
王子が気付きます。
「真っ白なフクロウさん!」
王女が、彼女に駆け寄りました。
「まあ、ヴィヴィアンさん!」
「ホッホウ!」
「それじゃあ……あの方はいらして下さったんですね?」
「ホーウ」
「うふふ。はい。少しの間だけ、あの娘たちをお願いしますとお伝え下さい」
「ホホーウ!」
真っ白なフクロウは、わたくしの言葉にうなずきました。
そして、翼を広げてお城の外へ、飛び去っていきます。
「お妃様、これは……」
「もしかして、ウサギの騎士様が……?」
ピスタと侍女の言葉に、わたくしはにっこりと微笑んだのです。
「ブルル!」
「わっ、ミルクレープ、きゅうに止まらないで!」
「ひえーっ、姫様ー! やっぱり帰りましょうよう!」
「なにを言ってるのナーデ! わたくしたちは、騎士として旅をするの! お母様だって、旅をしたんだから!」
「そ、それはおとぎ話のお話で……きゃあ!」
ボンボン王国は、王都の外。
小高い丘の上に、一頭の馬がいる。
それは真っ白な毛並みの大柄な馬で、背中には二人の女の子がしがみついていた。
女の子の一人が悲鳴を上げた。
それは、馬の近くに、大きなイノシシが顔を出したからだ。
「ゴフー」
イノシシが鼻息も荒く、馬と女の子たちをにらむ。
「わわわ、だ、大丈夫よ! わ、わたくしたち、毎日、剣のおけいこしてるじゃない!」
「だだだ、だって姫様、あんなにおっきなイノシシ……ひえー」
「しがみつかないでナーデ!? う、うごけないー!」
どんどん近づいてくるイノシシ。
二人の女の子は、馬上で震え上がる。
その時だ。
「とあー!」
樹上から、可愛らしい声が響いた。
真っ白な影が、イノシシの上に飛び乗る。
「ゴフー!?」
「わるいが、そのむすめたちはやれんな! とう!」
それは真っ白なウサギ。
手にした大きな人参が、気合の声とともに、イノシシの鼻っ面をぽこんと叩いた。
「ゴフー!」
イノシシは目を回し、ふらふらになって逃げていく。
ウサギはその姿を見送ると、てくてくと馬の前に姿を表した。
「ブルル!」
嬉しそうに、馬が鼻を寄せてくる。
ウサギはそれを、前足でペタペタと撫でた。
「にくがついたのかミルクレープ! ひさしいな」
「ブルル」
親しげに触れ合う、馬とウサギ。
そもそも、ウサギが言葉を発している。
女の子の一人……。
ボンボン王国の第一王女、ココア姫は、おそるおそる声を掛けた。
「ねえ……。もしかして、しゃべるウサギさんということは……。お母様がお話してくださっていた、あの」
くるり、とウサギが振り返る。
彼は人参を背負うと、その真っ白な胸をぽふんと叩いた。
「いかにも、わがなはピョンスロット。ウサギのきし」
ピョンスロットは馬の足を伝い、ぴょんぴょんと跳ね上がると、ミルクレープの頭の上に着地した。
「わがしゅくんのめいにより、わかきふたりのきしを、みちびきましょうぞ」
真っ白なウサギの騎士の言葉に、二人の女の子は、目を丸くするのだった。
こうして、また新たなウサギの騎士の旅が始まるのだが……それはまた、別のお話。
~ピョンスロットとゆるふわ王女の冒険~ おわり
これにて、第一章、ピョンスロットとゆるふわ王女の冒険は終わりです。
次のどうぶつ騎士たちの物語は、少し経ってから始めようと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。




