3・ウサギの騎士は月に跳ぶ
「ええい、ウサギが騎士になった!? 今さら、騎士の一人増えた所で……! やっておしまい、お前たち!」
「へーい」
「うーい」
残った野菜の兵隊たちが、ピョンスロット様に飛びかかっていきます!
ですが、彼は少しも慌てません。
ニンジン色の輝きを宿した剣を構えると、周りをなぎ払うように振り回しました。
すると、ニンジン色の光が輪になって、周囲に放たれたのです。
「あっ、なんだこれ」
「どーれ……ヒェッ」
「あっ、野菜に戻った! みんな、この光はやばいぞ! 触れるな……ヒェッ」
「逃げろ逃げろ! ヒェッ」
「ま、間に合わヒェッ」
剣の一振りで、たくさんいた野菜の兵隊たちが、残らず元の野菜に戻って転がっていました。
「す、凄いです!!」
魔女シュネーケの顔は、真っ青です。
きっと、人の姿になったピョンスロット様が何者なのか気づいたのでしょう!
わたくしは彼が何者なのか分かりませんけれども。
あっ、でもあの方がピョンスロット様だということはわかります!
マントの色が、ピョンスロット様の毛並みと同じ色なんですもの!
「お、お前はぁ……!! お前は、グレイゴーア様を、魔王様を倒した、あの……! 呪いが、なぜ解けて……!」
「ほんの一時だけの奇跡だ。私の肉体を蝕む呪いは、まだその力を弱めていない。だが、ショコラーデ姫から賜ったこの一時だけで、国を救うには事足りる」
「おのれっ! おのれえーっ! 立て、立つのよ、猫ーっ!!」
『ぶにゃ……』
シュネーケに命令されて、起き上がろうとした大きな猫さん。
ピョンスロット様と目があうと、ピタリと止まりました。
そして、しゅるしゅると小さくなっていきます。
「猫までもが……! ああ、おのれおのれ! なぜ、あの騎士が王国に近くにいたの! しかもあんなウサギに姿を変えて……! 分かるわけがない!」
猫さんは、ちょっと大きな猫サイズになると、ピョンスロット様にもふもふのお腹を見せて、降参のポーズをしました。
ピョンスロット様は、ちょっとしゃがむと、猫さんの顎をナデナデしました。
猫さん、ゴロゴロと喉を鳴らします。
「猫さんはわたくしが回収します!!」
ここで躍り出るわたくしです!
素早い動きで、ピョンスロット様から猫さんを受け取りました。
もふもふしますと、猫さんは脱力してしんなりとされます。
「魔女よ。お前の喉元に切っ先を突きつけたのは、私だ。だが、全ての勝敗はショコラーデ姫様……彼女がお前の正体を見切り、城を抜け出した時に決していたのだ」
「おだまり!! 忌々しい騎士! 魔王殺しの騎士! 妾がもう一度、ウサギに戻してやるわ!! ババル、ベベル……!」
魔女の周りに、紫色の光が生まれます!
何か魔法を使おうとしているのです!
「ピョンスロット様危ない!」
「ご心配、ありがたく。然らば、ご覧ください。我が聖剣の冴えを」
ピョンスロット様はゆっくりと、剣を振りかぶりました。
そして、放たれる魔女の魔法!
ピョンスロット様に向かう、紫の光。
それに対して、彼は自ら突き進み、剣を強く振り下ろしたのです。
ニンジン色の輝きが、ひときわ強くボンボン王国を照らし出します!
聖剣は放たれた魔法を切り裂き、その向こうにいる魔女の体に届いていたのです。
「あ、あああっ……、ばかな……! 妾は、この王国を支配して、魔王様なき世に君臨しようと……」
「させません! ボンボン王国は、みんなの国なのです!!」
わたくしは、どーんと胸を張りました。
魔女は最後に、わたくしを見て、なんだか情けない顔をしました。
「ああ……お前さえいなければ……妾は……」
そして、ぼわんっと音を立てて紫色の煙に変わります。
その時、風が吹いてきて、魔女であった煙をあっという間に散らしてしまいました。
ボンボン王国を自分のものにしようとしていた、魔女シュネーケはこうして滅びたのです。
「やり……ました……」
わたくし、ちょっと呆然としています。
ぽつりと呟きましたら、周囲の家々の扉が開きました!
そこから、わーっと国民の皆さんが溢れ出してきます。
「やった! やった! 魔女は倒された!」
「王国は救われた!」
「ばんざい! 騎士様ばんざい!」
「ばんざい! ショコラーデ姫様ばんざい!」
あっという間に、わたくしもピョンスロット様も抱え上げられて、胴上げです!
わたくし、ぽーんと宙に浮かびながら、隣でびっくりした顔のピョンスロット様に手を伸ばしました。
「ピョンスロット様、ありがとうございま……」
その言葉の途中で、ぼふんっと音がしました。
気がつくと、騎士様はいつもの、可愛いウサギさんに戻っていたのです。
「ここまでがげんかいだったか! あっ、ひめ、なにかおっしゃいましたかな」
ぽーん、ぽーん、と胴上げされる中を、ウサギさんは器用にこっちに飛び跳ねてきます。
ウサギさんなので、ジャンプすることには慣れているみたいです!
「えいっ」
「うーわー」
わたくし、近づいてきた所で、ピョンスロット様をぎゅっと抱きしめました!
ふわっふわでもこもこ。
いつものピョンスロット様です。
でも、さっきのかっこいい騎士様と同じ方なのだと、なんとなく分かるのです。
「ありがとうございます、ピョンスロット様! これで、わたくしたちは、王国は救われました!」
「すべては、ひめさまが、ゆうきを出してこうどうしたからですよ。われらどうぶつきしは、それに手をかしただけです」
「いいえ、いいえ! でも、やっぱりピョンスロット様がいたから……!」
「ぶにゃー」
そこへ、猫さんが胴上げされながら飛び込んできました。
わたくし、とっさに猫さんをキャッチです!
その隙に、ピョンスロット様はころりと転げて、わたくしのもとから離れました。
「ピョンスロット様?」
「さて、わがすばらしきしゅくん、ショコラーデひめさま。わがけんは、あなたのてきをうちたおし、あなたはくにをすくった。──ここで、おわかれです」
わたくし、頭が真っ白になりました。
今、ピョンスロット様はなんとおっしゃったのでしょう!?
「えっ、ピョンスロット様、今、なんて……?」
「まじょシュネーケのように、まおうがのこしたわざわいは、せかいにみちているでしょう。私はこれをさがし、たおすたびに出ねばなりません。そして、ちりぢりになったなかまをあつめるのです」
わたくしは、ピョンスロット様と離れるなんていやです。
できれば、ずうっと一緒にいて欲しい。
ですけれど、その言葉を口にできませんでした。
口にすれば、ピョンスロット様は留まってくださるでしょう。
でも。
「ピョンスロット様? どこかで困っている、わたくしみたいな人たちを、助けに行くのですね?」
「はい。わがキャロンダイトによって、まよえる、ただしきひとびとのみちゆきを、てらすために」
この人を、止めてはいけない。
だからわたくし、精一杯笑顔を作って、彼を送り出すことにしました。
「いってらっしゃい、ピョンスロット様……!」
でも、最後に一言だけ。
「また、会えますか?」
すると、ウサギの騎士様はピョーンと飛び跳ね、家々の屋根に着地しました。
「あなたが私のたすけをひつようとするならば、いつでも。かぜのはやさでかけつけましょうぞ! ヴィヴィアーン!」
「ホッホーウ!」
白い翼が、ボンボン王国の空を舞います。
跳び上がったピョンスロット様を、白フクロウのヴィヴィアンさんが受け止めると、彼らはすごい速さで遠ざかっていきます。
その行く先には、大きくて真ん丸な月。
満月です。
わたくしは、いつまでも、満月の中で小さくなっていく影を見つめていました。
本編が終わり、次回、ピョンスロット&ショコラーデ編のエピローグです。




