2・響け! もふもふのわざ
「カタカタカタ!」
ミルクレープさんが勇ましく骨を鳴らします!
出発の合図です。
すぐ先には、カピバッドさんが待機して、お芋の盾で私たちを空に打ち上げる構えをとっています。
「いきましょう! ゴーです!!」
わたくしが号令を出しますと、ミルクレープさんは骨の音も勇ましく、駆け出しました。
「わーっ、やらせるかー!」
「あんなのでも一応俺たちの主人だからな!」
野菜の兵隊たちが、わたくしたちの行く手をさえぎろうと、押し寄せてきます。
そこに、さっきまでへたりこんでいた、シュリンプ王国の兵隊さんたちが立ち上がります!
「ウ、ウサギだって頑張っているんだ!」
「俺たちにだってできるぞ!」
「魔物たちを食い止めろー!!」
「ショコラーデ姫様! オマール殿下を頼みます!!」
「まかされました!!」
兵隊の皆さんが、野菜の兵士たちを必死に食い止めます。
その横を、わたくしたちは駆け抜けるのです。
「ふふふ、ショコラーデひめさま。ブルーブラッドにふさわしき、おかおつきになられてきましたな」
わたくしのお腹の辺りにいるピョンスロット様。なんだか満足そうにおっしゃいます。
はて、何のことでしょう?
「さあ、ひめさま! たづなをにぎって下さい! ちょっとしたしょうげきがきますぞ!」
「しょうげき!? は、はい!」
わたくし、慌てて手綱を握りしめます。
今まで、こうしてミルクレープさんに乗ったことはありません。
向かい風がびゅんびゅんと吹き付けてきます。
お尻の下から伝わるのは、ミルクレープさんの足が石畳を蹴りつける響き。
目線を上げると、大きな猫さんの爪に引っ掛けられたオマール王子。
ぐったりとしていて、気絶されているのでしょうか。
「今、わたくしが助けますから……!!」
わたくし、決意をあらたにします!
「カピバッドきょう! いくぜーっ!」
「よしこいー!」
いつの間にか、ミルクレープさんの頭の上にいたパーシハムさんが声を張り上げます。
それに合わせて、カピバッドさんは盾を斜めに向けました。
「カタカターッ!」
「ほいきた! おりゃー!」
ミルクレープさんの前足が浮かび、後足が盾を蹴りつけます。
その瞬間、カピバッドさんが思いっきりお芋の盾を、空に向けて突き上げました。
「ほわ、わわわわわー!?」
今まで感じたことがない感覚です。
ぎゅーっと、上から押しつぶされるような、これはー!
「とと、と、飛んでるー!?」
「カターッ!」
「ショコラーデひめさま! さらにとびますぞ!」
「えっ、ええ!?」
周りはボンボン王国の町並み。
お城からは見知った光景が、わたくしの周り360度に広がっています!
夢から醒めた町は、家々の窓から、軒先からこぼれる灯りが幻想的。
これが、王子様を助けるため、空に昇って行っている最中でなければ、いつまでも眺めていたいです。
ですけれど……。
「うん、行きましょう!!」
わたくし、覚悟を決めました。
「カタカタ!」
ミルクレープさんが空中で、首を落とします。
わたくし、彼の背中を滑り降りるみたいにして、先を飛ぶピョンスロット様に続きます。
夜空に飛ぶ、真っ白なウサギの騎士様。
「ま、まさか!! こんなところまで飛んでくる!? そんな馬鹿な!!」
すぐ近くに、魔女シュネーケの顔がありました。
あまりの驚きに、目が見開かれています。
「ええい、大猫魔法! その爪で王女を叩き落としておやり! この高さなら……!」
『ぶにゃあああああ!!』
オマール王子を引っ掛けているのとは別の、長くて大きな爪がわたくしに向けられます。
「させるか! 私がここにいるのだぞ! とあー!!」
白くてもこもこの影が、ニンジンさんを抜き放ちます!
オレンジ色の光が夜空を切り裂きます。
大きな猫さんの爪が、ガチン! と音を立てて弾かれました!
『ぶにゃ!?』
「今ですぞひめー!!」
反動で、大きな猫さんから遠ざかるピョンスロット様。
ですけれど、彼が作ってくれたこの機会はとっても大切なもの。
「ミルクレープさん、ごめんなさい!」
「カタ!」
わたくしは、ミルクレープさんを蹴って、猫さん目掛けて思いっきりジャンプしました!
視界いっぱいに、トラ猫さんのもふもふ毛皮が迫ります。
手をのばして、空を掻くと、指が長い毛に引っかかりました。
「こ、これは……太いですけど、素晴らしい毛並み……!」
『ぶ、ぶにゃ!?』
わたくしがムフフと笑うと、大きな猫さん、一瞬たじろぎました。
今から、わたくしが持つ全てのもふもふ力を解き放ちます!
両手で猫さんの首にしがみつき、もふもふ、もふもふもふもふ……!!
「な、何をやっているんだい、ショコラーデ!! あっ、ね、猫が!」
『ぶ、ぶにゃ、ぶにゃ……ふにゃぁぁぁ』
「馬鹿な! 猫が骨抜きに……!? これは一体、どういう魔法だい!?」
「これが、ピョンスロット様お墨付きの、わたくしのもふもふの技です!!」
大きな猫さんは、ゴロゴロと喉を鳴らすと、ゆっくりと脱力しながら、倒れていきます。
「ひめさまやったー! さすがのもふもふ!」
「あのもふもふのわざ、せかいにつうようするな……!」
猫さんが倒れていくので、随分下にいたはずのカピバッドさん、パーシハムさんの声が聞こえてきました。
そして、猫さんの体勢が変わったということは……。
「オマール王子様!」
オマール王子が、引っかかっていた爪から落っこちようとしています!
どうしましょう……!
わたくし、今このもふもふの手を休めたら、猫さんがまた復活しそうで……。
いえ、わたくしが今もふもふしているのは、王子を助けるためなのです!
「オマール王子様! 目を覚まして!」
「う、うう……」
「オマール王子様!」
「シ、ショコラーデ姫……!?」
わたくし、必死に彼へと手を伸ばします。
彼もまた、手を伸ばしました。
もふもふされた猫さんが丸くなって来たので、わたくしとオマール王子の距離が近づいたのです。
わたくしと王子の指先が絡みました。
「離しません……!!」
ぎゅっと握りしめます。
「す、すまない、ショコラーデ姫……! だが、ありがとう……!」
「ひめさま、きをつけてー! まじょがー!」
カピバッドさんの声がします。
頭の上に、影が差しました。
そこに、シュネーケが立っています。
「お前さえ……お前さえいなければ、ショコラーデ……!!」
「む、むむむー!!」
わたくし、精一杯怖い顔をして魔女を睨みます。
でも、なんでしょう。
魔女のほうが、わたくしを怖がっているような気がしました。
「よーし、打ち上げるよ、ナイトリーダー!」
「うむ!!」
「どーん!!」
一瞬、倒れようとしている猫さんが震えました。
カピバッドさんが、また盾を打ち上げたのです。
そして、一度は落ちていったはずの真っ白な影が昇ってきました……!
「ショコラーデひめ! 手をはなしてください!」
「ピョンスロット様!? でも、手を離したら、落ちる……」
「われらきしがうけとめます!」
「わかりました!!」
ピョンスロット様がそうおっしゃるなら、信じるしかありません!
わたくし、勢いよく手を離しました。
同時に、オマール王子も手を離します。
落下し始める、わたくしたち。
そんなわたくしの胸の上に、いつもわたくしを守ってくれていた真っ白な騎士が降り立ちました。
「ピョンスロット様……!」
ピョンスロット様が振り返りました。
「このけんは、わがきみのために」
「はい。魔女を……やっつけてしまってください!」
わたくし、彼をぎゅっと抱きしめました。
わたくしの唇が、彼の額に触れます。
その時です。
突然、真っ白な輝きが溢れ出しました。
わたくしの目が眩みます。
「な、なんだいこれは!?」
『ぶにゃあ!?』
この白さは、まるで雪のような、ピョンスロット様の毛皮のような輝きです。
わたくしとオマール王子の落ちていく速さが、ゆっくりになりました。
光に包まれているような……?
いえ、これは……。
光が止んだ時、わたくしたちは地上に降り立っていました。
わたくしたちの前にいるのは、白銀の鎧に身を包み、白いマントを翻す、一人の騎士様。
「あなたは……」
「これは一時の夢でしょう。我が身に掛けられた呪いは強大。だが……姫が我が身を思ってくださる気持ちが、この奇跡を呼んだ」
「ピョンスロット様……!」
騎士様は振り返ること無く、ですけれど、その言葉に笑みの色を宿されました。
「この剣は、我が君のために。お任せあれ、我が主君」




