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1・騎士団長ころし

 大きな猫さんが、お城を背に立ち上がります。

 ものすごい……ものすごいもふもふです!!

 可愛いトラ猫なのですが、この大きさだと、ペルシャ猫もかくやと思わせるほど、もっふもふなのです。

 わたくしの手が、わきわきと動きました。


「こ、これは……! 姫、危ないです。下がっていてください……!」


 オマール王子が、私をかばって立ちます。

 ちょっと声が震えてらっしゃいますけれど、勇気を振り絞っているのです。


「お前たち! あれに見えるは魔女の大猫! たとえ巨大な怪物だろうと、姫に近づけてはいけないぞ!」


「おーっ!」


 王子が、声も枯れんばかりに大きく叫びました。

 これに、兵隊さんたちも士気が上がったみたいです。

 そんなわたくしたちを、大きな猫さんは首を傾げてじいっと見ています。

 すると、猫さんの後ろからシュネーケがピョーンと飛び降りてきて、その背中に乗りました。

 トテトテトテっと猫さんの頭まで駆けてきます。


「ショコラーデ!! もう終わりだよ!!」


「魔女シュネーケ!」


「妾はね、お前のそのどんな時にも輝きを失わない生き方が目障りだったのよ!! お前が笑うだけで、周りの人間がみんな笑顔になる。お前が口を開けば、みんな耳を澄ませる。ああ、忌まわしい! それでしかもその健康美が一番忌まわしい! 国で一番美しいのは妾だけでいいのよ!!


 シュネーケが叫ぶと、下の方でわいわいと騒いでいた、野菜の兵隊たち。


「なーんだ。シュネーケ様、ショコラーデ姫が可愛いからヤキモチ焼いたのか」


「まあね、魔物の俺たちも、ショコラーデ姫にはグッと来るからね。キャワユイ」


「シュネーケ様は不健康で、ショコラーデ姫は健康美だからねー」


「おおおおお、お前たちぃーっ!!」


「「「ぎゃわわーっ!」」」


「あっ、ヤキモチならぬ焼き野菜になってしまった!」


「恐ろしいお方よ」


 前から思っていたのですけれど、シュネーケの部下はしょっちゅう、魔女に対する不平不満を口にしているような?


「もういいわ! 妾一人で片付ける! おどき!」


 シュネーケが手を振ると、同じ形で大きな猫さんも前足を振り回しました。

 野菜の兵隊たちが、一気に掻き分けられていきます。


「うわーっ」


「おやめくだされーっ」


 これはもう、敵も味方もあったものではありません。

 シュリンプ王国の兵隊さんたちも、この猫さん大暴れを見て、真っ青になっています。

 そこに追い打ちをかけるように、お城から炎に包まれた騎士が現れました。

 あれは、シュリンプ王国を襲おうとした、騎士団長のサルミックです!


「シュネーケ様! このサルミック、どこまでもお供しましょう! さあ、まずは王女を守る邪魔な兵士どもめ! サルミックの炎の剣で焼き尽くしてくれよう!!」


 頭は、炎を吹き上げるドクロ。

 そして、熱で真っ赤に変色した鎧が恐ろしい姿です!

 前にいた兵隊さんが、一人、また一人と腰を抜かし始めました。


「あわわわわ、で、殿下。あれはダメです。あれは、凄い怪物です……!」


「申し訳ありません! わ、私は戦えそうにありません!」


 サルミックの、恐ろしい気迫みたいなものに呑まれて、兵隊さんは戦意喪失です!

 これは大変……!


「おい、ひめさま! ナイトリーダーをよぶんだ!」


 その時、パーシハムさんがわたくしの耳元で囁きました。

 そう、そうです!

 わたくしの騎士。

 ピョンスロット様ならば!


「ピョンスロット様ーっ!!」


 わたくしは、ありったけの大声で叫びました。

 はしたなくったっていいんです!

 この声が、ピョンスロット様に届くことが、何よりも大事!

 そして、声は確かに届きました。


「おりゃー!」


 可愛い声とともに、カピバッドさんがお城の壁を破って走ってきます。

 頭の上にお芋の盾を被っていて、そこ目掛けて、何かが落っこちてきました!


「ここだよ、ナイトリーダー! とーう!」


「いいタイミングだ、カピバッドきょう! とあーっ!」


 真っ白な毛並みが、お芋の盾を蹴ってジャンプします。

 お城の最上階から飛び降りてきたのです。

 そして、盾をステップにして、今まさにわたくしたちへ襲いかかろうとする、サルミックへと飛び込んでいきます。


「な、なにい!! ウサギだと!?」


「そう、私だ!」


「ぬおおー!!」


 慌てて振り返るサルミックが、炎を吐きます。

 これを、ピョンスロット様がニンジンさんで切り払いました!


「ほのおは、わがキャロンダイトに、つうじぬ!」


「な、ならば炎の剣……!」


「それもまたほのお!!」


 ピョンスロット様は、空中ですごい速さでくるくる回ります。まるで白とニンジン色の円盤みたいです!

 ニンジンの円盤は、炎の剣に触れた途端、ポキーンとへし折ってしまいました。

 それどころか、くるくる回転しながらサルミックに突き進みます。


「ぬ、ぬわーっ!?」


「きしだんちょうサルミック、せいばい!」


 炎を切り裂きながら、ウサギの騎士様がサルミックの後ろへと着地します。


「おおおーっ! ウ、ウサギの騎士!! お、お前の名はーっ!」


「たおれゆくきさまに、わが名をおくろう。私はピョンスロット!」


「ピョ、ピョンスロット……! お前は、俺のーっ!!」


 サルミックが、両手を上げ、あっという間に燃え尽きていきます。

 最後には、空っぽになった鎧だけが残されていました。


「サ、サルミックまで!! おのれ、おのれ! どれもこれも、何もかも、お前のせいだよ、ショコラーデ!」


『ぶにゃあああああ』


 怒ったシュネーケに合わせて、猫さんが鳴きます!

 大きな前足が、にゅーっと伸びてきました。

 兵隊さんが、わあわあと一生懸命に、剣やら槍やらで防ごうとしますが、ぽいーんっと肉球で弾かれます。

 そして、その大きな爪が、わたくしを引っ掛けようとしました。


「あっ!」


「させるか! ショコラーデ姫は私が守るのだ!!」


 そこへ飛び込んだのが、オマール王子です!

 猫さんの爪は、わたくしではなく、オマール王子の鎧に引っかかりました。

 そのまま、王子が持っていかれてしまいます。


「うわーっ!?」


「ひえー! オマール王子様ー!!」


「やばいぜ、これじゃあ、おうじはねこのオヤツになっちまう!」


 パーシハムさんの言葉に、わたくしむむむっと唸りました。

 それはいけません!

 猫さんは可愛いですが、だからといって、オマール王子をオヤツにさせるわけにはいきません!


「このじょうきょうをきりぬけられるのは……おそらく、ひめさまだけだぜ!!」


「カタカタカタ!」


 ミルクレープさんが歩み寄ります。

 体を沈めて、背中に乗れと言っているようです。


「ひめさま! 僕がたてで、ミルクレープごとうちあげるから!」


「カタカタ!」


 わたくし、ハッとしました!

 なるほど、ここで戦うべきなのは、わたくしなのですね!


「ショコラーデひめ! あなたのもふもふのわざを、見せてやりましょうぞ!!」


 わたくしの前に、ピョンスロット様が飛び乗りました!

 そうです!

 わたくし、もふもふするテクニックだけは誰にも負けないのです!

 いざ、オマール王子を取り返しましょう!


「最後に、ショコラーデ姫。清らかなる者の口づけは、大いなる呪いをほんの一時だが退ける。これを覚えておいてくれたまえ」


 ふと、耳にそんな言葉が聞こえてきました。

 マーチン様……?

 でも、振り返っている暇なんてないのです!


 眼の前には、大きな猫さん。

 その前足には、オマール王子。


「行きましょう、みなさん!! オマール王子様を助け出します!」

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