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2・真・どうぶつ無双

 二階を飛ぶ、私とヴィヴィアン。

 そこは、城に勤める人々の生活の間になっているようだった。

 だが、人間の気配が全くない。

 やはり、マーチンが言ったように、みんな夢の世界に閉じ込められているのだろう。


「ゆめの世界のことは、ひめさまにまかせるしかないな」


「ホーウ」


 人気(ひとけ)がない城の通路は、不気味なものだ。

 遠くで、恐らくカピバッド卿が暴れている音が聞こえてくる。

 後ろから迫る足音や羽ばたきは、サルミックとベジマイが追ってきているのだろう。


「しまった。私はボンボンじょうのこうぞうをしらないぞ」


「ホウホウ」


「ヴィヴィアンも知らないだろう」


「ホーウ」


「なにっ、そとからあやしいへやがみえた!?」


「ホウホウ」


 ヴィヴィアンはフクロウだ。

 とても目が良く、暗い中でも遠くを見通すことができる。

 私たちがお城に飛び込む直前に、彼女は最上階の塔で怪しく輝く部屋を見たのだという。


「ホホホウ」


「ふむ、ほうがくもわかるか! では、たのむぞヴィヴィアン!」


「ホホーウ!」


 お城の中をぐんぐんと飛ぶ。

 近づいてくる天井の照明は、私がぽいーんと蹴飛ばして方向をコントロールする。

 ヴィヴィアンが飛ぶ速度はとても早いので、我々が通過したことに気づいて慌てて飛び出してくる野菜兵士たちは、全く間に合わない。


「こりゃお前たち! わしが追っているのに邪魔だ!」


「貴様ら! 俺がウサギを追っているのだ! 邪魔だ!」


 ベジマイとサルミックの怒号が響く。

 野菜たちとも連携が取れていないようだ。

 これは好都合だ。

 私はキャロンダイトを振り回して、そのへんの絵や壺を地面に落っことしていく。

 城のみんなには悪いが、今は緊急事態だ。

 障害物として使わせてもらおう。


「うわーっ! 割れた壺が足の裏に刺さったー!」


「いたーい!」


「卑怯だぞウサギィー!!」


 効いている効いている。

 ぐんぐん進む我々の耳からは、足音が遠ざかっていくように聞こえる。

 反面、羽ばたく音は距離を詰めつつあった。


「わっはっは! やはり空を飛ぶわしの方が早かったな! そして、フクロウもウサギを運んでいる以上、わしよりは遅かろう! そりゃあ、後ろから攻撃じゃあ!」


 ベジマイだ!

 空飛ぶ石の悪魔、ガーゴイルである彼は、その手にメイスを握って振り回してくる。


「そりゃっ! そりゃっ! 落ちろ! 落ちろ!」


「むむっ! ヴィヴィアンをねらうとはひきょうなおとこめ!」


 繰り出されるメイスを、キャロンダイトで次々に受け止める。

 だが、空の上では自ら飛んでいるベジマイに、一歩劣るか……!


「ホーウ!」


「上に? わかった!」


 ヴィヴィアンが私に目配せする。

 廊下が終わり、螺旋階段に到達したのだ。

 ここから、お城の塔の中を貫く吹き抜け構造になっている。

 目的の部屋は最上階だ。


「なにっ!! そ、そこはシュネーケ様の寝室! ならーん! いかせんぞー!!」


 ベジマイは血相を変えて飛び込んできた。

 これを、私はヴィヴィアンに掴まり、ぴょーんとフクロウのボディを飛び越えることでやり過ごす。

 目標であった私を見失い、ベジマイがヴィヴィアンの下を通過した。


「消えた!? ウサギめ、どこだ!」


「私はここだ! とあー!」


 ベジマイの上に着地する私だ!

 そして、キャロンダイトで彼の頭をポカポカ叩く!


「うぎゃあー!! ま、まさかわしに飛び移るとは! うぎゃあー! に、逃げ、逃げ場が!!」


「おわりだベジマイ! キャロンダイトのつゆと消えるがいい! そしてキャロンダイトはひとまわりおいしくなるのだ!」


「ぎ、ぎえー!! シュネーケ様、おたすけえー!!」


 私を乗せたまま、すごい勢いで吹き抜けを上がっていくベジマイ。

 ここは三階建てくらいの高さがあるのだが、その行き止まりに大きな扉があった。

 扉の前に、黒いドレスの女が立っている。


「そのままでウサギを掴まえておいで、ベジマイ!! ベルベル、バルバル、ニャンニャンイリュージョ……!」


 魔女シュネーケ!

 私の毛皮が、ざわっと逆立った。

 私はベジマイのお尻を蹴飛ばすと、「ぎゃわーっ!」吹き抜けに身を躍らせる。

 それを、下から来たヴィヴィアンがキャッチした。


 その直後だ。

 魔女が手にしていた杖が、猫の形になり、ぐいーんと伸び上がって巨大化、ベジマイがいたところを、パクリと食べた。


「ぎょわあっ」


 それがベジマイの最後の声だった。

 魔女が握りしめた猫の杖は、すぐに小さなサイズに戻ってしまう。


「ええい! 使えぬ男よ! せっかく私の力を分けてやったというのに!」


 そう言いながら、魔女は私をじろりと睨んだ。

 私は空を飛びながら、キャロンダイトを構える。


「ここでしょうぶといくか、まじょよ!」


「ここで会ったが百年目! お前がいなければ、今頃ショコラーデ姫はこの世にいなかったものを! シュリンプ王国も動かなかっただろうさ!!」


「ショコラーデひめは、ひとをみちびくさいのうをもったお方だ! このけっかをうんだのは私ではない。かのじょのどりょくだ! 私がいなくても、いつかかならず、お前はひめにやぶれていただろう!」


「お黙り!! ベベル、ババル……!」


 呪文の詠唱が始まる。

 私はこれをさせまいと、キャロンダイトを真っ直ぐに構えて、ヴィヴィアンに突進の指示を出した。


「いくぞシュネーケ!!」


 その時だ。

 魔女の背後にあった扉が、何の前触れもなく、いきなりパカーンっと開いたのだ。

 扉に背中を押されて、魔女が螺旋階段から落っこちる。


「えっ!?」


 魔女もびっくりしているようだ。

 一体何が起こって……。


「ホウホーウ!」


「なにっ、かがみのなかだって!?」


 私は部屋の中を見やった。

 そこには、びっくりした顔のまま石になったらしい王様と、その横に悪魔の彫像が。

 彫像のお腹には、鏡がついている。

 映っているのは、今まさに、真実の鏡を振り上げているショコラーデ姫だったのだ。


「ひめ! おまちください! かがみでかがみをたたいてはいけません! われてしまいます!」


 今ここで、私と姫は、同時に鏡の悪魔へと辿り着いたのだ!

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