3・ききゅうそんぼうのあき
ピョンスロット語りです。
外から見た、ショコラーデ姫の今とこれからの説明。
「ひめ!」
「ショコラーデ姫!」
なんたることだ!
魔女の手下め、やってくれた!
私はカボチャの兵士たちをなぎ倒し、飛び散る野菜の破片を跳び移りながら、我が主君の下へと戻る。
オマール王子に支えられたショコラーデ姫は、顔色を真っ白にし、まるで眠っているようだ。
「くっ、このピョンスロット、いっしょうのふかく……!」
私は魔女の動きを読めなかった、自分の不甲斐なさに、頭の毛をもしゃもしゃとかき回した。
気持ちを落ち着けるために、キャロンダイトをカリカリと食べる。
むむっ、ニンジンの栄養が脳に回ってきて、少し落ち着いた。
そこへ、どこからか声がかかる。
「諸君、待ちたまえ。ショコラーデ姫が抱いた鏡をご覧」
「このこえは……マーチン!」
「マーチン殿だって!?」
オマール王子が、声の主を探してキョロキョロとする。
私は、チンチラの魔術師の気配を感じ、鼻をひくひくとさせた。
風に乗り、チンチラと彼が持ってきたお野菜のにおいが漂ってくる。
そこは……ショコラーデ姫の馬車の中だ。
「流石はピョンスロット卿。僕はここだよ」
すうっ、と姿を現す青いチンチラは、馬車の荷物台の中にいた。
「まさか、ずっとにもつの中に!?」
「うん、実は最初から荷物の中に紛れ込んでいたんだ。ちょうどジャストフィットする隙間があったので、そこで野菜を食べながらずっと寝てた」
チンチラの魔術師マーチンは、己のもふもふした毛皮をぺちぺち叩き、ほこりを落とす。
「それでマーチン、まてとはどういうことなのか。これはいちだいじだぞ」
「言葉の通りさ。ショコラーデ姫様は確かに、魔女の毒によって眠りの底に落ちた。だが、彼女は今は真実の鏡の主だ。覚めない眠りの中にあることを利用して、その魂はもう一つの魔女の城にいる」
マーチンはお尻を振りながら歩き、ショコラーデ姫の膝に飛び乗った。
そして、姫が抱きしめている鏡を、前足でぺちぺちする。
私は鏡の中を見て、あっと声を上げていた。
「こ、これは……! ひめー! あとパーシハムきょう、またも君はひめのむなもとに! はれんちな! じちょうしたまえ!!」
「ピョ、ピョンスロット卿、落ち着きたまえ。どうやらパーシハム卿は、夢の世界に潜り込む術を知っていたようだ。今の姫様の護衛として、彼以上の逸材はいないだろう!」
「むむむー」
私は唸りながら、しわが寄った眉間を前足でモミモミする。
落ち着け、ピョンスロット。
鏡の中のショコラーデ姫様は、ぐねぐねとねじ曲がった城の中を歩いている。
それはまるで、現実とは思えぬ光景だ。
燭台が、額縁に収まった絵が、飾られた壺が、人の顔を生やして姫を見つめている。あるいは、話しかけてさえいる。
明かりは少なく、あの中も、昼なお暗い魔女の世界のようだ。
こんな世界に、姫が一人で行かなかったことを、幸いと思うべきだろう。
「たのむぞ、パーシハムきょう。だがもどってきたらおしりをたたく」
「ナイトリーダーこわーい」
戻ってきていたカピバッド卿が、あわわ、と震え上がるのだった。
「ではマーチン。私たちはどうすればいい? このままひめをおいてはおけぬ。おまもりせねばだろう」
「あ、ああ」
マーチンはなぜか、短い手足で自分のお尻を押さえていた。
私の言葉を受けて気を取り直すと、彼は咳払いした。
「夢の中の世界。そこが魔女の世界の裏側さ。ここを、ショコラーデ姫が進んでいく。君とカピバッド卿は、表の世界を攻略していくんだ」
「おもてと、うらか……!」
「そう。魔女は表向き、新たなお妃として城に嫁いできた。だが、陰謀を裏の世界である夢の中で張り巡らせていたのさ。どうして町に人の姿がないか分かるかい? みんな、こちらでは姿を変えられて眠らされている。本当の町の人々は、夢の中にいるのさ」
「なるほど……! こっちでは、くにのにんげんと、まじょのてしたが入れかわっているということか! ならば、たしかにわれわれしか行けないな!」
私の目に、しっかりとした行動の指針が見えてきた。
マーチンが言うには、裏の世界でショコラーデ姫様が行ったことは、こちらの世界にも影響を及ぼすらしい。
それは表の世界で、私が行動することで、ショコラーデ姫様を助けることができるという意味でもある。
「よし、では行くぞ、カピバッドきょう。われわれは正面から、あのまじょのしろにいどむのだ!」
「ほーい! わかりやすいね!」
カピバッド卿がバンザイをする。
私は彼の腕の上に、ぴょーんと飛び乗った。
「ピョンスロット殿! 私はどうすれば……!」
オマール王子だ。
この若き王子は、心の底からショコラーデ姫様を案じている。
この場は、彼に我が主君を預けても良かろう。
「ひめをたのみますぞ」
「わ、分かった! 私が必ずや、ショコラーデ姫を守ってみせる!!」
「ピョンスロット卿。狙うは城の中にある、魔女の鏡……通称、鏡の悪魔だ。これを完全に壊してしまえば、魔女が国にかけた魔法が解ける。表の世界で壊すだけでは足りないぞ。夢の世界で、ショコラーデ姫も鏡を壊す必要がある。そして鏡が壊れた瞬間、オマール王子は姫様をこちらの世界に呼び戻して欲しいんだ」
「呼び戻す……?」
「夢の世界をたゆたう彼女の肉体は、眠りの毒に侵されている。毒は消せても、毒の魔力が彼女の目覚めを許さないだろう。これに打ち勝つのは、彼女を思う者の愛が必要だ。それはこの場で、君が一番強く持っているものだろう?」
「な、なな……」
オマール王子は赤面した。
うむ。好ましい反応だ。
「オマール王子、その時が来たならば、ショコラーデ姫様に口づけをしたまえ。それで彼女を侵す毒は消え、姫はこちらの世界に戻ってくる」
「わ、分かった。だが、同意もなく口づけは……」
「ほっぺや額でもいいよ」
「そ、それなら」
「なんとフェアなおとこであろう」
私はちょっとジーンと来た。
彼にならば、ショコラーデ姫を任せておける。それに。
「カタカタカタ!」
ミルクレープが、骨の体を勇ましく鳴らす。
彼が、王子や兵士たちとともに姫を守るのだ。
魔女の魔力で作られたミルクレープならば、例え魔女の手下がやって来ても、戦うことができるだろう。
「まかせたぞ、みんな!」
「ああ! 魔女との戦いは頼むぞ、ピョンスロット卿!!」
「ひきうけた!」
私とオマール王子は視線を交わすと、己の戦いへと向かうのだった。
「ホッホーウ」
気づくと、青白い羽のふくろうが、カピバッド卿のお尻に止まっている。
ヴィヴィアンもまた、ともに行くつもりなのだ。
「頼りにさせてもらうぞ、ヴィヴィアン!」
「ホーウ!」
我らは行く。
一路、ボンボン王国城へ!




