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1・風雲ボンボン城

「あっ、パーシハムさん。鏡の中から、向こう側の光景が見えますよ!」


 わたくしは、途中にあった鏡を覗き込みました。

 向こうは、カボチャやお茄子や、色々なお野菜の頭をした兵隊たちが歩き回るお城の中。

 煌々と照らされた城内で、魔物たちは我が物顔です。

 ところが、彼らの動きが盛んになりました。

 声は聞こえませんが、わあわあ、どたばたと動き回っています。


「チュッ! どうやらナイトリーダーたちも、はじめたようだぜ」


 わたくしの肩の上で、パーシハムさんが腕組みしました。

 彼はいつの間にか、細い枝みたいなものをくわえています。

 その先には、炎がついていました。


「そくせきのたいまつだ。あついからきをつけるんだぜ、ひめさま!」


「はい! ちょっぴり明るくなって助かります!」


 元の世界では、ピョンスロット様たちが頑張っておられます。

 さあ、わたくしもこちらで頑張らないと!

 わたくし、腕まくりです。

 侍従長のイングリドが見たら、はしたない! と目を三角にして怒るに違いありません。

 ですけれど、今ははしたないなんて言ってられないのです。

 わたくしがやる気にならないと、この夢の世界を抜け出すことはできませんからね!


 鼻息も荒く、わたくしはてくてくと、夢の中のボンボン城を歩きます。

 周囲では、燭台が歩き出し、美術品はわたくしの顔を覗き込んできます。

 飾られた絵画の中の人や動物たちが、じっとわたくしを目線で追います。


「こんにちは!」


 ちょっと形は変になっていますけれど、みんなわたくしのお城にあったものたちです。

 いつもお城を飾ってくれてありがとう!

 わたくしはにこやかに挨拶します。

 すると、燭台や美術品たちは、一瞬目を丸くした後、『コニチワ!』『ショコラーデ姫、コニチワ!』と挨拶を返してきました。

 挨拶はとっても大事です!


「チュチュー! すげえな。まものどもからどくけがぬけちまった」


「あら、だってこの方々は、ずーっとお城にあったものなんですよ? こちらの絵画も、壺も、あら、あちらからはお皿さんにナイフにフォーク。みんなみんな、見覚えがあるんですもの」


 わーっと集まってくる、手足が生えて顔ができた、食器や装飾品の皆さんです。

 その後ろから、慌てた様子で野菜の頭をした兵隊が走ってきます。


「こ、こらお前たち!! シュネーケ様はここに来たショコラーデ姫をだな! おい、話を聞けー!」


『ショコラーデ姫サマー!』


「げえ! ここまでショコラーデ姫がやって来ている!」


「落ち着け! たかがふわっふわのお姫様一人とハムスター一匹! 食器どもが従わなくても、俺たちで抑えてしまえばいい!」


 野菜の兵隊たちが、わたくしを囲もうと廊下を走ってきます!


「チュチューイ!」


 パーシハムさんが飛び出しました。

 彼を支えるように、グーッと燭台さんが身を乗り出します。

 パーシハムさんはろうそくを掴むと、くるんとそこで回転しながら、迫る兵隊たちに向けてひまわりの種を飛ばします!


「うわーっ!?」


「気をつけろ、これはただの種じゃない!」


「うわわーっ!」


 ひまわりの種を全身に浴びた兵隊が、次々に野菜に戻っていきます!

 種は小さいので、武器や盾でも防げないのです。


「チュッ! 今だ、いそぐぜひめさま! あんたがこのゆめのせかいによばれたってことは、ここでやることがあるんだろう!」


「はい! それは多分、シュネーケが持つ鏡をどうにかすることだと思います! 見てください!」


「しんじつの鏡に、べつの鏡がうつっている……! おそろしいひかりだぜ。だが、これがゆめのせかいにしかないなら、ひめさまがやるしかないな!」


 そうですとも!

 わたくしは頑張るのです!

 シュネーケの鏡は、鏡の悪魔と言う名前で、彼女の部屋にあります。

 そこはお城の最上階。

 よく、お勉強を抜け出してお城の中を逃げ回っていたわたくしは、お城の隅々まで知っています。


「ちいっ、ひめさま、こっちの道はだめだ! やさいがぎゅうぎゅうにつまってるぜ! ハムスターの入るすきまもねえ!」


「お任せです!」


 わたくし、パーシハムさんを頭に載せたまま、最上階に向かう抜け道へ急ぎます。

 後ろを、バタバタと兵隊たちが追いかけてきますが、わたくしに味方をしてくれる、食器や燭台の皆さんが邪魔をしています!


「ええい、邪魔だ!」


「うわっ、足に箒が引っかかって!」


「こうして命を与えた器物にも裏切られるとは、本当にシュネーケ様は人望がない……」


「あっばか」


「夢の中で焼き野菜になってしまった」


「何は無くとも悪口だけは聞き逃さないシュネーケ様だぞ!」


「無言で追いかけるんだ」


「オーケー」


「りょ」


 野菜の皆さんも苦労しているみたいです。

 ですけれど、これは弱肉強食の勝負なのです!


「てーい!」


 わたくしは真横にあった絵画をカタッと斜めに動かしました。

 そうしますと、壁がぐるんとひっくり返って通路になります。


「とう!」


「こんなところにぬけみちが!?」


「古い時代に作られた、お城の抜け道です! イングリドから逃げるために、こういうのをたくさん知っているんです!」


「にげるって。ひめさま、あんたしろで何やってたんだ」


 パーシハムさんの疑問には黙秘します!

 わたくしは抜け道をもとに戻すと、人一人が通るのがやっとくらいの、細い道を走ります。

 このところ、ずっとピョンスロット様たちと冒険をしていたので、わたくし大変に体力がついているようです。


「げえ! 隠し扉だ!! なんでこんなもんあるんだこの城!」


「まずいぞ! あの王女、俺たちよりも城のことに詳しい! というか占領して長いくせになんで中身を把握してないんだうちの魔女は……」


「あっばか」


「恐るべき圧政……」


 野菜の兵隊たちが追いかけてきます!

 わたくし、どんどん逃げますよー!

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