2・てんたかくもふもふこゆるあき
王都が見えてきました。
ボンボン王国は、わたくしが飛び出したあの時のままなのでしょうか。
いつも明るく、わたくしを迎えてくれた城下町の方々。
あの方々の笑顔を思い出します。
ですが……。
「まあ、なんということでしょう!」
わたくし、びっくりです!
シュリンプ王国からボンボン王国まで、およそ三日かかりました。
今は昼日中のはずです。
だというのに、王都の周りは夜の暗がりに包まれているのです。
コウモリさんがあちこちを飛び回り、家々の軒先には、見慣れたカボチャ頭のランプが吊るされています。
道行く影は何も無くて、そこはまるで、悪夢の中の町のよう。
「こ……これが、魔女に支配されるということなのか……!」
オマール王子も動揺されています。
兵隊さんがたも、ざわざわ、と落ち着かない様子。
「よるだねー。カボチャおいしそうー」
「俺はカボチャのたねがすきだぜ」
「カボチャはうまいな。私はかわがこのみだ」
三騎士の皆さんも、ゴニョゴニョとカボチャの美味しさについて語らっていらっしゃいます。
明らかにもふもふなお三方は動揺していないので、なんだか心強いです!
どうやら、彼らの間で、カボチャの中身はカピバッドさん、種はパーシハムさん、皮はピョンスロット様が食べる方向でまとまったようです。
議論を終えて満足したらしく、ピョンスロット様が振り返りました。
「ではまいりましょう、ひめ」
「ええ! カボチャさんをたくさん食べられるとよいですね!」
「まったくです……!」
なんだか、力強いお答えです!
もしかしてピョンスロット様、おなかが空いてらっしゃる……?
「そう言えばピョンスロット様のおなかが凹んでいらっしゃるような……」
「あっ、ひめ、くうふくじのおなかをさわさわするとは、ごむたいな」
ピョンスロット様をもみもみしながら、王都の中に入るといたします。
わいわいと入っていきますと、都の住人らしき方と遭遇しました。
それは、首の据わっていないお人形さんです。
カクンと首を傾げたまま、わたくしたちを見ています。
兵隊の皆さんが、「きゃー」と甲高い悲鳴を上げました。
確かにこれは怖いです!
「こんにちはー」
そこへ、カピバッドさんがトコトコと近づいていきます。
そしてお鼻をお人形さんに、ぶちゅっとくっつけました。
「キャー」
積極的なボディタッチに、お人形さんがびっくりしました!
もしかして、いきなりお鼻をくっつけられると思っていなかったのでしょうか。
「ココハ、しゅねーけサマノクニ。シンニュウシャ、シンニュウシャ」
「違います! ここはわたくしたち、ボンボン王国に住むみんなの国です!」
わたくし、ついつい大きな声を出してしまいました。
そうしますと、お人形さんはカッと目を見開いてわたくしを見ます。
「し、しょこらーでヒメ、モドッテキタ! しょこらーでヒメ!」
キーキーとお人形さんが叫びました。
そうしますと、あちこちの家の扉が開き、同じようなお人形さんが飛び出してきます。
まるで見えない糸に操られているような動きで、どんどんとこちらに集まってくるのです。
ひええ、なんだか怖いですよ!
「ハッ……! ひめ、あのにんぎょう、わらをつめこんでつくられていますな。わらはおふとんにするにも、トイレにするにもいいのです」
ピョンスロット様の目がキランと光ります。
一瞬でお人形さんの正体を見切ったのです。
凄い観察眼です!
「ナイトリーダー、まずはカボチャではらごしらえだ!」
いつの間にか、パーシハムさんが軒先のカボチャの上にいました。
カボチャを吊るす紐を、カリカリかじってちぎります。
落ちてくる先にカピバッドさんが滑り込んで、その背中でカボチャをドシーンと受け止めました。
「オマール王子様! ピョンスロット様たちがお腹いっぱいになるまで、お人形さんを食い止めてください!」
「わ、分かった! 皆のもの、守りを固めよ! 武器は通じなくても、守りは通じるはずだ!」
わたくしのお願いに応えて、オマール王子が号令を発します。
兵隊の皆さんは、わーっとわたくしたちを守るように集まって、盾を構えて陣形を組みました。
パーシハムさんお一人、入ることができないくらいのみっちり詰まった陣形です。
お人形さんたちは、みんな箒のような武器を持ってきて、ばしばしと盾を叩いています。
兵士の皆さんは、この陣形を破られまいと必死になっておられます。
その中心。
「カボチャおいしいねー、もぐもぐ」
「たねはぶきにもなるな、チュッチュッ」
「しょくん、いまはだんしょうしている間はないぞ! カリカリ」
賑やかに、三騎士の皆さんが食事をしていらっしゃいました。
周囲は大変な状況ですが、この空間だけ、わたくしにとってのもふもふパラダイスです。
ほわ~んとしながら、この光景を見つめていました。
「ああっ、わたくしだけこんな幸せではいけないと分かってはいるのですがっ。もふもふした皆さんの食事風景は、どうしてこうも心を落ち着かせてしまうのでしょうか……!」
「ひ、姫、まだですか! 兵士たちはもう限界……!」
「あ、はい! ピョンスロット様! カピバッドさん! パーシハムさん!」
わたくし、オマール王子の切羽詰まった声を聞いて、心を改めます。
「腹八分目で参りましょう! 出陣です!」
「ぎょい!!」
わたくしの言葉と同時に、真っ白な旋風が駆け抜けました。
兵隊の皆さんの頭を、まるで海に浮かんだ飛び石みたいに、ぴょんぴょんと跳び移りながらピョンスロット様が前線に踊りだします。
「いくぞ! こよいのキャロンダイトはひとあじちがう。おまえたちはみな私のおふとんにしてやろう!!」
オレンジの輝きが唸ります。
お人形さんたちが、次々と打ち倒されていきます!
「とおしてー」
「わっ、股間を何かザワザワしたのが通っていった!」
兵隊の皆さんがガヤガヤ騒ぎます。
皆様の股の間を、カピバッドさんがくぐっていったのです!
最後に、盾の間からムリムリっとお鼻を突き出しますと、カピバッドさんは白いお芋の盾をかざして突撃しました。
「とりゃー!」
お芋の盾が、見えない壁を作り出します。
それが、お人形さんたちをまとめて弾き飛ばしました!
「す、凄い……! 私や兵士たちでは歯が立たない魔物を、次々に……!」
呆然とオマール王子が呟きます。
「いいえ、これは皆さんがいたからこそです! 皆さんが時間を作ってくれたから、わたくしの騎士たちはご飯を食べ終えて戦えるようになったのです!」
「姫……!」
「ショコラーデ姫様……!」
「ありがたいお言葉……!」
兵隊の皆さんが、わたくしを振り返って目をうるませます。
拝んでいる方までいます。
なんだか照れてしまいます。
と、そんなわたくしの胸元に、パーシハムさんが駆け上がってきました!
「まずい! ひめ、くびをひっこめろ!」
「はい?」
どういう事でしょう?
そう思った矢先でした。
首にちくりと、虫刺されみたいな感触。
「ぶぶぶぶぶ、やってやったぞい! この大臣ベジマイ様が、ショコラーデ姫に毒を流し込んでやった!」
虫のように小さな何かが、わたくしの首から離れていきます。
わたくしの意識はふらふらと遠くなり……。
「ちいっ、これはおおごとだぜ! おいおまえら、俺はひめといっしょにいく! あとはまかせるぜ!」
パーシハムさんの声を最後に、眼の前が真っ暗になりました。
と思ったら目覚めました!
おはようございます!
「おはようだぜ!」
わたくしの胸元から、パーシハムさんが顔を出しました。
なんでしょう。
この間の夢の中と言い、わたくしの胸に入り込む必要があるのでしょうか。
「そう、ゆめのせかいについていくには、ひめのしんぞうに近いところにいなくちゃならない。つまり、ここは」
「夢の世界……!? 夢の、ボンボン城!」
そうです。
ここは、以前シュネーケと会った、あのねじくれたお城の中だったのです。
そして、わたくしの手の中には、真実の鏡。
「げんじつのひめは、どくにやられていしきをなくしてる。だが、しんじつの鏡がひめを、ここにつれてきたようだな」
「ど、どういう事でしょう……!」
「げんじつのボンボン王国はナイトリーダーたちが、ゆめのせかいのボンボン王国は、ひめがすくわなくちゃいけないってことだ! たぶんな!!」
力強くパーシハムさんは言いました!
最後だけちょっと曖昧な表現です。
ですけど、これはちょっと燃えますね!
「わたくしでなければいけないのですね! それは、ショコラちょっとやる気になっちゃいます! おおー! やりますよー!」
さあ、わたくしとパーシハムさん、夢の世界の冒険の始まりです!




