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1・夢の中で

 鏡を手に入れたわたくしたち。

 これを、馬車の後ろの方にほいっと乗せます。

 落ちないように、村の方々が手伝ってくれました。


「あれまあ、魔女と戦うんだってねえ」


「気をつけてねえ」


「とうもろこし食べるかい」


「いただきます!」


 とうもろこしや、騎士の皆さんが食べるお野菜などをたくさんいただきました。

 パーシハムさんなど、他にご自分と同じくらいの大きさの袋を担いで、頬袋にも何かをたくさん詰め込んでいます。


「パーシハムきょうなにたべてるのー」


 横からカピバッドさんがつつきますと、パーシハムさんは口からぷぷぷーとヒマワリの種を吐き出します。

 そして、「チュチュー!!」と飛び上がって怒って、カピバッドさんに抗議します。


「ひめ、ここは私がむすびましょう。きしのむすびというものがあり、これはけんでなければ切ることができないのです。とあーっ!」


 村の方から紐を受け取ったピョンスロット様。

 気合を入れながら飛び上がります。

 真っ白なもこもこボディが、空中でくるくると回りました。

 すると、あっという間に鏡が馬車の後ろに固定されていきます!


「おおー!」


 村人の皆さんが、やんややんやと盛り上がります。

 おひねりまで飛んできました。


「ホッホーウ」


 おひねりは、主にお野菜を切ったものだったり、干し肉の詰まった袋だったり。

 これを、夕方になって元気になったヴィヴィアンさんがキャッチして回ります。


「それにしても……馬車が随分重くなってしまいましたねえ」


 わたくしは、馬車を振り返ります。

 馬車と言っても、荷車を改造したもので、それにお尻が痛くないよう、クッションを敷いて幌を被せています。

 中身は、わたくし一人が横になれるくらいのサイズです。

 横に広さがありますから、カピバッドさんを抱きまくらにするくらいは大丈夫なのです。

 ですけれど、心配なのはスペースではなく。


「カタカタ?」


「大丈夫ですか、ミルクレープさん? ちょっと重労働すぎやしませんか?」


「カタカタ!」


「かれはだいじょうぶだといっていますな。ひめの前では、くちがさけてもむりとは言えぬこころいき。いや、骨だからさいしょからくちがさけていますな」


 ピョンスロット様、何やらミルクレープさんにシンパシーを感じていらっしゃるようです。

 男の友情というものでしょうか?

 わたくしには良くわかりませんが、ちょっとうらやましいです。

 ひょっとすると、ピョンスロット様とオマール王子の間にもそういうものが生まれたりするのでしょうか。

 そんな事を考えていましたら、出立の準備が終わったようです。


「朝にやって来て、夕方には行っちまうのかい! 大変だあ」


 村のおばあさんが心配してくれます。


「大丈夫ですよ。わたくしは若いのでへっちゃらです! 何より、ボンボン王国が心配なのです!」


「おおー、その心がけ! あんたは本当に国を思ってるんだねえー。ウサちゃん、お姫様を守っておやりよ?」


「むろんだ。私のこの剣は、ひめのためにある」


「剣ってあんた、それニンジンじゃないかい」


 おばあさんに向かって、わたくしは胸を張りました。


「ええ。炎の剣よりも強い、すごいニンジンさんです!」






 旅立ったのは、すっかり日も暮れた頃合いでした。


「ひめは少しねむられるとよろしい。ここからは、われら三きしがかわりばんこで見はりをしましょう。もっとも、ヴィヴィアンの目があやしいものをのがしはしないでしょうが」


「そうですか? わたくしも起きてて頑張りたいのですけど!」


「ひめは私たちのあるじですぞ。きちんとねむり、いざというときにれいせいなはんだんをできるようでなければ」


「なるほどです!」


 わたくしは納得しました!

 ということで、カピバッドさんを抱きまくらにしてまた寝ることにします。


「ひめさまいいにおいがするー」


「カピバッドさんもお日様の匂いがしますねえー。ふわわわ……眠くなってきました。わたくし、横になっちゃうとすぐに寝てしまうので……ぐう」


 わたくし、夢の世界へと沈んでいくのでした。






 ハッと飛び起きると、そこはなんだか、ぐにゃぐにゃとした場所でした。

 見覚えがある柱や床、燭台があります。

 多分、ここはボンボン城。

 ですけれど、こんなにぐにゃぐにゃだったでしょうか。


『ついに真実の鏡を手に入れたねショコラーデ!』


 おどろおどろしい声が響きました。

 忘れもしません。

 継母で、魔女のシュネーケの声です!


「そうですよ! 手に入れました!」


『むむむっ! 城にいた頃は、あんなぽややんとして子供っぽかったお前が! 今は目に強い輝きを宿している! 忌々しい!』


 廊下の先の暗闇から、シュネーケが姿を表しました。

 青白い肌に、紫色のアイシャドウとルージュ。

 真っ黒なドレスを着て、手には黒猫を縦に伸ばしたような、ヘンテコな杖を持っています。


『お前が真実の鏡を使えぬうちに、夢の中から攻撃してしまおうとしたのだけれど……。ええい、相変わらず、あの動物どもが邪魔をする!』


 夢の中から攻撃ですって!

 恐ろしい話を聞きました。

 ですけれど、今までわたくし、毎晩ぐっすりと熟睡でした。

 悪夢なんか全く見たりしません。

 あれはもしかして、ピョンスロット様たちが守ってくださっていたのでしょうか。


『このっ、これでどう!?』


 シュネーケは、猫の杖を掲げました。

 そこから、ニューっと半透明の大きな猫が現れ、わたくしに向かって伸びてきます。

 爪を伸ばして引っ掻こうと言うのです!


「チューッ」


 そこへ、なんとわたくしの胸元から、パーシハムさんが飛び出しました。


「ちょうど俺がみはりをしているばんだったからな。うちのあるじをやらせはせんぜ!」


 わたくしの胸の上で、どーんと腕組みして構えるパーシハムさんです。

 ハムスターさんなのに、猫が怖くないのでしょうか!


『ネズミかい!? 妾の猫魔法に食べられるのが落ちよ!』


「ふん、俺はパーシハム。もともとは、なげやりにすぐれたきしでな!」


 パーシハムさんは、夢の中にまで袋を持ち込んでいました。

 そこからひまわりの種を取り出すと、もりもりと頬袋に詰めます。

 あっ、危ない!

 猫魔法の爪が迫ります!


「チュチューイ!」


 その瞬間です。

 パーシハムさんが飛び上がりました。

 そして、頬に詰め込んだひまわりの種を、物凄い勢いで吹き出します。

 コツコツコツコツッと、ひまわりの種が猫魔法に炸裂しました。


『ミギャァァァァ!?』


 目と鼻先に連続で種を打ち込まれ、猫魔法が悲鳴を上げます。

 正確な狙いです!


『おのれ! おのれ!』


 シュネーケは顔を真っ赤にして、次なる魔法を使おうとしました。

 ですが、それはかないません。


「ひめ! しんじつのかがみですぞ!!」


 ピョンスロット様の声が響きました。

 ぐにゃぐにゃ歪んだお城の中の風景が、ピカーッと明るく照らされます。

 気がつくと、そこは真っ直ぐになったお城の中。

 シュネーケは真実の鏡が放つ光に照らされて、苦しんでいます。


『おのれぇぇぇぇ!! 覚えておいで! 絶対に許しはしないんだからね、ショコラーデェェェ!!』


 彼女は叫ぶなり、猫の杖の口に飛び込みました。

 シュネーケはしゅるしゅると、小さくなりながら猫の口に吸い込まれていきます。

 やがて、杖も自分の尻尾を飲み込むと、そのまま自分を丸呑みに。

 ポンッと音がして、消えてしまいました。


「ふん、口ほどにもないやつらだぜ」


 パーシハムさんはチュッチュッと鳴くと、まったりひまわりの種を食べ始めたのでした。

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