1・チンチラ魔法使い、かく語りき
「君たちに運命を伝えに……伝え、伝えにっ」
「きゃあっ、なんですのこの可愛い生き物は!」
「喋ってるー!」
「もふもふー!」
「うわー」
あっ!
マーチン様が、ご婦人方の人波に呑まれていきます!
あんなにまんまる、もふもふしていたら、触りたくなっても仕方がありません。
「あのようなもふもふの身で、ごふじんがたの間をぬけられるとおもっていたのか、マーチン」
ピョンスロット様が、悼ましそうに呟きました。
「ナイトリーダー、ちょっとたすけに行ってくるね!」
「たのむぞ、カピバッドきょう!」
「カピバッドさん、頑張って!」
「がんばるー!」
カピバッドさんが、勇ましくご婦人方の中に飛び込んでいきます。
タワシのように、ごわごわした毛皮で、ちくちくさせながら人混みを掻き分けます。
「ひえー」
「ちくちくするわ!」
ピョンスロット様のお友達で、一番体が大きなカピバッドさんは、立ち上がるとわたくしのお腹までくらいの大きさがあります。
その分パワフルで、可愛い手足をバタバタさせながら、マーチン様に向かって突き進むのです。
「がんばれ、がんばれ!」
わたくし、手を振り回して応援します。
本当ならジャンプして応援したいのですけれど、ドレス用の靴ではヒールが高くて、ちょっと厳しいのです。
ですけれど、わたくしの気持ちは伝わったみたいです。
「もごごごー!」
カピバッドさんの声が聞こえました。
お口に、もみくちゃにされた、もこもこしたものをくわえていらっしゃいます。
マーチン様は、あちこちもふられて、丸い毛並みがぼさぼさになっていました。
「ひいー、ひどいめにあった。ありがとうカピバッドきょうー」
カピバッドさんが口を離すと、マーチン様はしんなりと床に横たわりました。
いつもより、口調がたどたどしくなっています。
今は余裕がないので、チンチラモードなのですね!
「ぶじか、マーチン」
ピョンスロット様が、マーチン様をニンジンさんでつつきます。
すると、彼はハッと我に返ったようです。
転がったまま、しきりに咳払いをしました。
「おほん、おっほん! えーと、私は君たちの運命を伝えに……」
「そこまではきいた。その次を」
「厳しいねピョンスロット卿……」
「はい、マーチン様。わたくしが抱っこして差し上げますね」
「おお……。ショコラーデ嬢は女神様のようだ……」
ああ、抱っこしますと、マーチン様はもふもふしていて大変柔らかいです!
ですが、わたくしが欲望に任せてもふると、あっという間にマーチン様が行動不能になってしまいます。
ここは我慢、我慢ですショコラ!
「では、私が読み取った運命を伝えよう。これを読み取るために、しばらく千里眼に力を注ぎ込み、頭がチンチラモードの生活をしていたんだ。大変だった……」
マーチン様が遠いものを見る目をしました。
「いいかね、よく聞きたまえ。魔女シュネーケは、魔法の鏡を復活させた。彼女はこれから、本気で来るぞ。君たちを、自分の目的に立ち塞がる障害だと認めたのだ。これまで国境線までを己の領域にして閉じこもっていたが……」
わたくしたちの周りに、国王陛下にお妃様、オマール王子もいらっしゃっています。
「シュネーケは、兵士を送って、魔女の領域を広げ、侵攻してくるぞ。猶予はない!」
「まあ……!」
「あの鏡がある限り、シュネーケは望む場所を自由に覗き見ることができる。まずはあの、魔法の鏡に対抗するんだ。シュリンプ王国の西の果てにほこらがある。そこに祀られている、真実の鏡を手に入れるんだ」
「しんじつのかがみ。きいたことがある。手にしたものの、しんのすがたをうつしだすかがみ……!」
「ああ。そして、ほこらを守る村に、もうひとりの騎士がいる。彼を仲間にし、鏡を手に入れ、シュネーケと戦うんだ」
もうひとりの騎士様!
それはつまり、ピョンスロット様と、カピバッドさんの仲間ということです。
「マーチン様、それは一体、どういうお姿の方なのですか?」
「実はあまりにも動きが早すぎて、私の千里眼では捉えきれなかったのだ。だが、名前は分かる。彼の名は、パーシハム卿……!」
「パーシハムさんですね!! わかりました!」
わたくし、やる気満々で立ち上がります。
フスーッと鼻息を吐き出しました。
「ま、待つんだショコラーデ姫! 君はまさか、自分で行くつもりなのか!?」
慌てて声を掛けてくるのは、オマール王子でした。
「わざわざ、そんな危険な旅に君が出る必要はないじゃないか! 君は王女なんだぞ。誰か、他の者を行かせれば……! 君に何かあったらどうするんだ!」
「ご心配ありがとうございます、オマール王子様。ですけれど、これは、ボンボン王国を救うための旅でもあるのです! ですから、わたくしが行かなくてはいけません!」
「だ、だが、しかし……!」
むむっ、オマール王子、食い下がって来られます。
何か譲れないことでもあるのでしょうか。
ですが、わたくしだって負けてはいられないのです!
負けじと見つめ返します。
そうしたら、オマール王子がポッと赤くなりました。
?
「そこまでにせよ、オマール。ショコラーデ姫の意思は堅かろう。それに、この国まで伴も連れずやって来られたのだ。生半可な兵士がつくよりも、この可愛らしい騎士たちと共にある方が安全かもしれぬ」
ロブスタ一世陛下が、わたくしの意思に賛同します。
「はい! ピョンスロット様は、最高の騎士様ですから!」
わたくしがグッと力を込めてこぶしを握りますと、そこにピョンスロット様が、もふもふの手のひらを重ねました。
「そのとおり。ひめの身は、このピョンスロットが必ずやおまもりしよう。……さて、まねかれざる客がきたようだ」
マーチン様がいらっしゃった窓の外は、夜の世界。
ですけれど、遠くの方で、ぽっ、ぽっ、と明かりが灯ります。
王都の外から、何かが近づいてくるのです。
ついに、魔女の反撃が始まったのでした!




