3・ロックンロール・シュリンプキャッスル
はて、ところでピョンスロット様は、わたくしの膝上くらいまでの背丈しかありません。
どうやって踊ればいいのでしょう……?
「おまかせくださいひめ。こうすればよいのです」
「ナイトリーダー、たちあがるよー。きをつけてー」
カピバッド様が一声掛けた後、立ち上がりました。
なるほど、その鼻先に立ったピョンスロット様が、ちょうどわたくしの顔の位置に来ます。
彼は、カピバラさんの鼻先で、くるりと回ってみせました。
そして手を差し出します。
え、わたくしも?
「えいっ!」
わたくしも、ピョンスロット様を真似てくるり。
すると、カピバッド様がわたくしの周りを二本足で、トコトコと歩きはじめました。
この光景を見て、演奏の方々が笑顔を浮かべています。
指揮者の男性は、スッと手を振り上げると、今までとは違った指揮を初めます。
音楽が、スローなクラシックから、ちょっとポップでリズミカルなものに変わりました。
ステップを踏んで踊りたくなるような、そんな音楽です。
踊りだしたピョンスロット様とわたくしを、ちょっと呆気にとられて見ていた周りの方々も、アップテンポな音楽に誘われて肩を揺すり、リズムを刻みだします。
気がつくと、皆さんが踊りだしていました。
輪の中心には、わたくしとピョンスロット様!
小さなウサギさんの下には、彼をカバーして動き回るカピバラさんがいます。
「ひめ!」
ピョンスロット様が、わたくしに合図しました。
カピバッドさんがぴょーんとジャンプします。
それに合わせて、ピョンスロット様が宙を舞いました。
わたくしは彼を、しっかりとキャッチ。
そのままの勢いでくるりと回ります。
「楽しい! 舞踏会って、こんなに楽しいものだったのですね! わたくし、いつもの踊りより、今の踊りのほうがずっと好きです!」
「しょうしょう、レディがおどるには品がないですがね? たまにはなにもかもわすれ、こんなダンスもよろしい」
ピョンスロット様は、わたくしの腕からぴょんと飛び出し、そこまで来ていたカピバッドさんの鼻先に着地します。
素晴らしいコンビネーションです!
「な、なんということだ。余の開いた舞踏会が……!」
ロブスタ一世陛下が呆然としていらっしゃいます。
でも、お妃様は楽しげに肩を揺すっておられて、ちょんちょん、と陛下の肩をつつきます。
「たまにはいいじゃありませんか。わたくしたちも踊りましょう、陛下?」
国王夫妻が壇上から降りて、踊りの輪に加わります。
「今宵、ここでオマールとそなたの婚約の話をするつもりだったが……」
わたくしの隣に、陛下が肩を並べました。
「何であろうな。ショコラーデ姫、そなたの楽しそうな姿を見ていると、それはもう少し先でもいいのでは無いかという気持ちになってくる」
「高らかに歌い、飛ぶ鳥を籠に閉じ込めるのは、気が引けますものね。ショコラーデ姫、貴女が跳び、歌う楽しさ以外のものに目を向けられるようになった時、またこのお話をしましょう」
お妃様が囁きます。
なんでしょう。
わたくしが、うじうじと悩んでいたこと、お二人はお見通しだったのです。
でも、どういう心境の変化なのか、今はまだオマール王子との結婚はしなくてもいいみたいです。
遠くでは、ピョンスロット様を着替えさせたらしい女性騎士のお三方が、手を振っています。
壁際では、オマール王子が壁の花になっていらっしゃいました。
少しむくれているのが、可愛いです。
「ひめ、クライマックスですよ!」
ピョンスロット様が、わたくしの動きをサポートします。
わたくしはくるくるっと回りました。
音楽はそれに合わせて、盛り上がって盛り上がって……。
じゃーん、という感じで終わりました。
わたくしは、体重を殿方に預けるように傾いて……。
はっ。
傾いた先にいらっしゃるのは、ピョンスロット様ではありませんか!
いけません!
ウサギさんがぺちゃんこになってしまいます。
わたくし、よく食べる子なので、体重はそれなりにあると自負しているのです!
「いくぞカピバッドきょう!」
「はいさナイトリーダー!」
ところが、二人の騎士は、力を合わせてわたくしをガッチリと受け止めました。
ぴたっと、わたくしは斜めになった姿勢で止まります。
これを見て、会場の皆さんが、わーっと盛り上がりました。
「だ、大丈夫ですかお二人とも! わたくし重いでしょう?」
「そんなことはありません。レディはつねに、風にまう羽のようにかるいのですよ」
「ナイトリーダーおーもーいー」
ピョンスロット様は涼しげにおっしゃいます。
とっても紳士です!
カピバッドさんは正直者ですね。
わたくし、とーうっ! と気合を入れて体勢を立て直しました。
汗が、頬をつたいます。
とっても運動をしてしまいました。
窓から吹き込んでくる夜風が、心地いいです。
「いや、余も、年甲斐もなくいい汗をかいてしまった……。ショコラーデ姫。そなたの申し出を受けよう。ボンボン王国に、すぐに軍隊を出すというわけにはいかんが、騎士を派遣して様子を見ようではないか」
「ありがとうございます!」
「だが、オマールとの件はあくまで保留。そなたの父上、ウイスキー王を助け出してから、改めてするとしよう」
「あはは、そ、それは~」
わたくし、笑って誤魔化す作戦です。
まだ、その話はピンと来ないのですよね。
と、そんな踊りの後で、皆さんちょっと疲れていらっしゃるところにです。
窓際から、一陣の強い風が吹き込みました。
窓にほど近いところにいた御婦人が叫びます。
「あっ、丸い!」
「青くて丸いものが!」
「丸いものが入ってくるわ!」
青くて、丸いもの……?
わたくしに、心当たりは一人しかありません。
「マーチン!」
ピョンスロット様がその名を呼びました。
そこには、チンチラの魔法使い、マーチンさんがいらっしゃったのです!
「ショコラーデ姫、ピョンスロット卿。君たちの新たな運命を伝えに来たよ」




