2・シャル・ウィ・ダンス?
楽団の方々が、指揮者の振りに合わせて優雅な音楽を奏で始めます。
舞踏会が始まりました。
わたくしとしては、このボンボン王国が大変な時にー、と思うのですが、そう言えばボンボン王国も、何かある度にパーティを開いてわーっと騒ぐ文化がありました。
「さあて、どういたしましょう?」
わたくし、壁際で考え込みます。
だって、これはどうやら、わたくしとオマール王子の婚約を祝う集まりです。
壁の花でいられる気がしません。
集まっている貴族の方々は、皆シュリンプ王国に連なる方。
誰が先に挨拶しようか、なんだか目線で牽制し合っているみたいで、いやな感じです。
「むむむ」
こんな時、ピョンスロット様がおられると気持ちが和むのですが……。
パーティが始まる前に、女性騎士の皆さんが、彼を連れて行ってしまいました。
ピョンスロット様らしい衣装があるのだとか。
どういう衣装をお召しになるのでしょう?
わたくし、ちょっと楽しみかもしれません。
「初めまして、ショコラーデ殿下」
ああ、ついに貴族の方が挨拶にやって来てしまいました!
わたくし、ちょっと引きつった笑顔でお出迎えです。
こういうやりとり、苦手なのです。
次々にやってくる、貴族の皆さん。
相手をするだけで大変です。
手にした飲み物が、温くなっていきます。
ああ、もう。
こんな事をしている場合ではないのですけれど。
というか、舞踏会の場で、こうやって貴族の方と挨拶をしていても、ボンボン王国は救われないのです!
ここは、やはりわたくし、腹を決めるしかないのでしょうか……!
「失礼!」
と、次々に訪れる貴族の挨拶に、割り込んできた方がいらっしゃいます。
誰あろう、オマール王子です!
今日は、白を基調とした礼服に身を包んでいらっしゃます。
わたくしのドレスも白ですから、これはたぶん、オマール王子に合わせたものなのでしょう。
ドレスは胸元が開き、肩にはスズランが連なる衣装が刺繍されています。
花弁の中には真珠を編み込み、チラリと見える輝きが綺麗なドレス。
「ショコラーデ様。こちらへ」
オマール王子はわたくしの手を取ります。
そして、貴族たちの中から連れ出してくれました。
ちょっとだけ、彼に感謝です。
だって、貴族の方々、わたくしに挨拶をしながら色々含みのあることをおっしゃって、相手をするととっても疲れるんです。
それよりは、表裏のないオマール王子のほうが、ずうっとマシです。
「せっかくの舞踏会です。美しい白い花が、壁際でひっそり咲いていてはもったいないというものではありませんか?」
「まあ、お上手」
「本心です。ショコラーデ様。私は、再会した貴女を見て、恋に落ちたのです」
「ありがとうございます」
そう言われて、嬉しくないわけはありません。
少し、わたくしの気が晴れました。
それに、オマール王子と踊っている間は、貴族の方々に話しかけられないで済みそう。
ああ、でもちょっと、気乗りがしません。
天井からは、きらびやかなシャンデリア。
丸テーブルには、白いテーブルクロスと、数々の料理。
礼服の給仕が走り回り、お酒や食べ物を運びます。
着飾った、紳士淑女。
優雅な音楽。
開け放たれた窓からは、気持ちの良い夜風が流れ込んできます。
だと言うのに……。
わたくしには、ピョンスロット様と共に過ごしたこの数日間の方が、豪華な舞踏会よりもずっと輝いているものに思えるのです。
「ショコラーデ様」
わたくしをエスコートするオマール王子。
脚さばきも巧みで、わたくしが動きやすいように踊ってくださいます。
「スズランの花言葉は、無意識の美しさ、純粋、そして平穏。貴女によく似合う花です。どうか、私とともに、二つの王国を美しく、平和な国として治めて行ってくれませんか」
囁きかける言葉は、謁見の間で伺ったものと同じです。
これは、オマール王子の本心なのでしょう。
わたくしも、それが成ればどれだけ素晴らしいかと思います。
ですけれど……。
「オマール殿下」
わたくしは、わざと距離を取るような呼び方をしました。
「今は、その話をする段階ではないと思います。ショコラは、ボンボン王国が心配なのです」
誰も彼も、ボンボン王国のことなど考えていないように思えてきます。
皆、わたくしがシュリンプ王国の妃になると思って、声を掛けてくる。
自分のことしか考えていらっしゃらないのではないでしょうか。
なんだか、泣きたくなってきます。
スズランの花言葉が、何だというのでしょう。
美しさも、純粋さも、平穏もいりません。
わたくしが欲しいのは……。
「ひめ。もうひとつございますな。スズランのはなことばは……“再び幸せが訪れる”」
わたくしの耳に、今一番、望んでいた方の声が聞こえました。
ハッとして振り返ります。
ざわめきが起こりました。
誰もが注目していたのは、わたくしとオマール王子のダンス。
それは、国王陛下とお妃様も例外ではありません。
ですが、その注目が、全く別の場所に移っていったのです。
「まあ……!」
わたくしは、思わず顔を綻ばせてしまいます。
そこには……。
ウサギさいずのタキシードを纏った、ピョンスロット様がおられたのです!
そして、彼を支えるように、下にはやはり礼服姿のカピバッドさん。
カピバラさんは、トコトコトコっと、ピョンスロット様を頭に載せたままこちらに近づいていらっしゃいました。
「オマールでんか。わが君をダンスにおさそいしてもよろしいですかな?」
「あ、ああ。構わないよ」
オマール王子も呆気にとられます。
わたくしの体から、するりと手が離れました。
「それでは、ショコラーデひめさま」
小さくて、もふもふした手がわたくしに差し出されました。
「私とおどっていただけますか?」
「喜んで!」
シルクの指先を、もふもふの手指が優しく包み込みました。
さあ、踊りましょう!




