1・舞踏会前のおさんぽ
あっ!
……と言う間に舞踏会の日になってしまいました!
わたくしはと言いますと、なんとなく悶々として、ピョンスロット様をもみもみしたり、ヴィヴィアンさんをむぎゅむぎゅしたりして暮らしておりました。
「ひめ、外にでなければけんこうにわるいですぞ」
ピョンスロット様がこうおっしゃるので、気分転換で外に出かける事にしました。
今夜の舞踏会のことは、ひとまず考えないでおきます。
わたくしたちが泊まっているのは、お城の客間です。
扉から出ると、護衛の女性がぱたぱた走ってきました。
女性の貴賓を守るための人たちなのだそうで、びしっと男装っぽく決めている姿がかっこいいです。
わたくしも着たい!
「ショコラーデ姫様、外出ですか? では我々もお供を」
「ごあんしんください。ひめにはだいいちのきしたる、私がついている。だが、しょくんにもしょくぶんがあるだろう。まんいち私のめがとどかないことがあれば、しょくんのはたらきにきたいさせてもらう」
女性騎士たちに向かって、ピョンスロット様がもこもこの胸をぽいーんと叩いて見せました。
女性騎士たちは、あっと叫ぶと、ピョンスロット様の勇姿にほっこりした笑顔を浮かべます。
彼女たちは三人組。
主に、わたくしの外出のお供をします。
ピスタ、カーシャ、アモンデの三人で、夜になるとおうちに帰ります。
「ショコラーデ姫様、どちらへ? ずっとお部屋の中だと、たいくつですものね」
わたくしの動向に興味津々なのは、小柄なピスタ。髪をお団子に結った、同い年くらいの女の子です。
「ショッピングでしたら、素敵な小物を扱っている出店がやって来ていますよ」
わたくしへお買い物の誘惑を投げかけてくるのは、細身のカーシャ。褐色の肌で、南方の血が混じった女性です。
「今夜のドレスがもうすぐ納品されますけど、いいのですか?」
わたくしの事を案じているのは、真面目なアモンデ。三人のリーダー格で、一番年上の女性です。
「しょくん、ショコラーデひめさまのお耳もお口もひとつしかないのだ。じゅんばんにたずねたまえ」
「「「はい、ピョンスロット様!」」」
共通点は、皆さん、ピョンスロット様を気に入ってらっしゃること。
むむむ!
ライバル出現です。
「お気になさらず。わたくしは、中庭をお散歩します。噂に聞いたのですが、中庭の噴水からお湯が出るのでしょう?」
「はい、実はそうなのです。これは、オンセンなるものだと、城の識者が申しておりました」
「あれ、入りたいですよねー。絶対お肌がピチピチになりますよ」
「そんなの入らなくても、ショコラーデ姫様のお肌はすべすべですもんね! あ、私、そのうちお背中お流しします! 王族の方のお肌が気になる!」
「これ、ピスタ! 不敬ですよ!」
「いいのですよアモンデさん! わたくし、年の近い女の子のお友達がいなかったので、とても嬉しいです! でもピスタさん、一つだけ注意して下さいね!」
「はい!」
「ピョンスロット様はわたくしの騎士ですので!」
「アッハイ」
ササッと、ピョンスロット様を抱き上げるわたくしです。
ふふふ、これでわたくしの騎士は確保しました。
絶対貸してあげません!
わたくしたちは、きゃあきゃあとお喋りしながら、中庭に到着します。
何分、わたくしがドレスですから、歩く速さが遅いのです。
女性騎士の皆さんは合わせて下さっていますが、思ったよりも時間が掛かってしまいました。
「やあ、ショコラーデ殿下! オンセンをご覧になると聞き、万一が無きよう、このオマールも同席させていただきますよ!」
オマール王子が先にやって来られています。
いつの間にお話が漏れてしまったのでしょう?
カーシャさんがそっぽを向いて、口笛を吹いてらっしゃいます。
「ピスタさん、アモンデさん。カーシャさんの両手を抑えてくださいまし」
「「御意!」」
「ひ、ひぃー! 無礼討ちですかーっ!? こ、これはオマール王子から前々から依頼されていてー!」
裏切り者には、くすぐりの鉄槌です!
わたくしの、もふもふで鍛え抜かれたくすぐり術をカーシャさんにお見舞いしました。
結果、笑いすぎでカーシャさんがダウンします。
「おそるべきもふもふの技……!」
なんでしょう。
ピョンスロット様が戦慄しておられます。
「強い」
オマール王子のその感想はなんでしょう?
ともかくです。
オンセンとは、温泉に違いないでしょう。
シュリンプ王国は、ボンボン王国よりも低地にある国ですから、温泉に馴染みがないのです。
わたくしは噴水に向かって行きます。
なるほど、湯気がもくもくと上がっていて、とても暖かそうです。
……はて、どなたか、温泉に入ってらっしゃるような……?
「おんせん、あったかーい」
声まで聞こえました。
もくもくとした湯気の奥、何か、たわしのようにもじゃもじゃと毛を生やした、大きな動物さんがいらっしゃいます。
「むっ、いかん! ひめ、お下がり下さい! とあーっ」
わたくしの横を、猛烈な速度でピョンスロット様が走っていきます。
抜き放たれる、必殺のニンジンさん!
「なにものかは知らんが、うごけなくさせてもらうぞ!」
「ほえーっ」
ピョンスロット様が湯気に飛び込むと同時に、ほんわかした声が響き渡りました。
ニンジンさんと何かが、ぶつかる音がします。
ピョンスロット様のニンジンさんを受け止めました!
魔女の手下たちも、誰も受け止められなかったニンジンさんをです!
一体、何が起こっているんでしょう。
ニンジンさんと何かがぶつかった勢いで、風が起きたみたいです。
湯気がパーッと晴れ渡ります。
そこには、濃い茶色の、たわしみたいな毛皮をした大きな動物さんがいました。
手には、真っ白なものを……そう、お芋を持っています!
半分にスライスされたお芋が、まるで盾のようです。
これが、ニンジンさんを受け止めていました。
……あれっ?
この動物さん、どこかで見たような……。
確か、旅の途中の水浴びで……。
「あっ、おぬしはー!」
「ほわー、ナイトリーダーだー。ひさしぶりー」
これが、ピョンスロット様に続く、どうぶつ騎士のお一人、カピバッドさんとの出会いだったのです。




