3・ウサギの数だけ抱きしめて
ここは謁見の間です。
わたくしの申し出は、国と国の間のことですので、公の場で明らかにすることになったのです。
先頭を、テクテクとピョンスロット様が歩いておられます。
今回のピョンスロット様は、お洒落さんです!
可愛いサイズの、黒い蝶ネクタイをつけていらっしゃって、とても可愛いです。
これから謁見でなければ、抱きしめてしまいたい!
「ひ、姫、ちゃんと前を見て下さい……!」
後ろにはポールがいます。
ポールの肩には、ヴィヴィアンさん。
この、二羽と一人がわたくしと共に歩く全員なのです。
「心強いです!」
むふー、とわたくしは鼻息を荒くしました。
「ひ、姫ぇ! 鼻息はちょっと……!」
「あら、ごめんあそばせ」
堂々と道を突き進みます!
大きく開け放たれた扉を抜けますと、謁見の間に出ます。
「あれがショコラーデ殿下……!」
「なんとお可愛らしい……!」
「しかも、可憐なばかりではない」
「ええ、特別な何かを感じますわ」
ざわざわと、わたくしを評する声が聞こえてきました。
お父様もおっしゃっていたのですが、ここは王にとって演出を行う場です。
たくさんの人を集めて、ここで重要なお話をすることで、国王としての威厳を印象づけるのだとか。
「よくぞ、わずかな伴でここまでたどり着かれた。まずはそなたの無事を喜ぼう、ショコラーデ姫」
シュリンプ国王、ロブスタ一世陛下です。
正しくは、スピニロブスタとおっしゃるそうです。
「はい。ですが、心強い騎士に守られておりました」
「ほう……。騎士ポールがそこまで」
「ピョンスロット様です!」
「ん!?」
ロブスタ一世陛下の目が、わたくしの足元で、ちょーんと立っていらっしゃるピョンスロット様に向けられました。
ピョンスロット様、おひげをシュッと可愛いお手手でしごくと、ちょっと斜めに傾いた風に見える礼をしました。
謁見の間に集まっていた人々が、みんなそれを見てぽわーんとした感じになります。
「お初におめにかかります、ロブスタいっせいへいか。私はウサギのきしピョンスロット。ここまで、ショコラーデひめさまをまもりやってまいりました」
「ウ、ウサギが喋った!! いや、話には聞いていたが、真であったのだな……」
「陛下、落ち着いて。段取り段取り」
隣に座るお后様が、王様の汗を拭きます。
「う、うむ! では、そのピョンスロットなるウサギの騎士が、そなたを守ってこのシュリンプ王国までやってこられたと言うことか。荒事など知らぬであろう、王女の身で、どうしてこのような過酷な旅を……。理由を聞かせて欲しい」
過酷……だったでしょうか?
わたくしの記憶にあるのは、ピョンスロット様との楽しい日々です。
畑のお野菜、釣り、マーチン様、水浴び、焚き火、国境突破……。
みんな楽しかったです。
「ひ、姫! 戻ってきて下さい姫ー」
あっ!
いけませんいけません!
ポールに言われなければ、しばらく思い出の世界にいるところでした。
わたくしは気を取り直すと、ロブスタ一世陛下に向かって、この国にやってきた理由を告げます。
「申し上げます、ロブスタ一世陛下。わたくしの国、ボンボン王国は、今や魔女シュネーケによって支配されています。ボンボン王国を取り戻すために、お力添えいただけませんか」
この言葉に、一瞬だけ謁見の間が静まり返りました。
国王様は、うむむ、と唸られます。
「こうして聞いただけでは、恐らく信用はできなかっただろう。この平和な時代に魔女など、おとぎ話のような話だ。だが……我らが迎え入れた最初のショコラーデ姫が、偽物の魔物だったという報告は受けている。恐らく、そなたの話は真実なのだろう」
「はい。父に嫁いできた継母、シュネーケは、始めはおとなしかったのですが、すぐに本性を現しました。恐ろしい魔物の手下と強大な魔法で、今は国を支配しています」
「うむ。とても見逃せぬ事態だ。だが……それも、また隣国の出来事に過ぎぬのだよ。我が国がそんな危険な相手と戦うには、理由が必要だ」
なんだか、ロブスタ一世陛下がむつかしいことをおっしゃられています!
確かに、兵隊さんをたくさん動かして、シュネーケと戦うのは危険ですものね。
ですけれど、わたくしもはいそうですか、と引き下がることはできません。
「では、戦えるようになる理由をお聞かせ願えますか? わたくしにできることなら、何でもいたします!」
「なんでもとおっしゃったか。では、ショコラーデ姫。そなたには、我が子オマールの妻となっていただこう。そうなれば、そなたは我が身内。シュリンプ王国にとって、ボンボン王国は親族となる。我が軍を動かす理由となろう!」
「まあ」
わたくし、目を見開きました。
ちょっと、頭が真っ白になります。
玉座の下に控えたオマール様が、わたくしにウィンクしました。
うーん。
黙ってしまったわたくしですが、ロブスタ一世陛下は話を進めます。
「宴を催そう。そなたも我が国へやって来たばかりで、疲れも溜まっておろう。このような形式張った場ではなく……そうだな、舞踏会を開き、そなたも我が王子、オマールを知ると良い。それから、返答は聞かせてもらうとしよう」
国王様はそれだけおっしゃると、パンパンと手を鳴らされました。
これにて、謁見は終わりという合図です。
この場に集まっていた、貴族や騎士の方々が、わいわいと帰っていかれます。
「オマール殿下が、ショコラーデ殿下とご結婚か!」
「おめでたいことですわ! お二人なら、きっと素晴らしい王と妃になられるでしょうね」
むむむー。
わたくし、ピョンスロット様がもふもふされた時のように、唸ってしまいました。
そこへ、オマール様がいらっしゃいます。
「ショコラーデ姫。私は必ずや、姫の国をかのにっくき魔女めから解放するつもりです。そして、二人の力を合わせて二国を治めましょう!」
「むむむー」
わたくし、頭が混乱していて、オマール様に答えられません。
そうでした……。
大きなお願いをするということは、こういう見返りを要求されて仕方ないのでした。
オマール様は、わたくしの返事を期待して、目をキラキラさせて待っておられます。
どうしましょう。
「でんか」
そこへ、スッと白くてもふもふしたものが入り込みます。
わたくしと、オマール様の間に、ピョンスロット様が立っていらっしゃるのです。
「ひめはおつかれです。また、ぶとうかいの時にでもおはなしをされるとよろしいかと」
「あ、ああ」
「このウサギ、オマール殿下に無礼ではないか!」
騎士の方が、声を上げます。
ですが、彼はピョンスロット様にひと睨みされると、「ヒェッ」と言って黙りました。
「このみも、ウサギであったとしてもひめのきしです。ごぶれいはどちらかな? ではでんか、しつれいします。ひめ、まいりましょう」
ピョンスロット様はぴょーんとジャンプをして、わたくしの手を取りました。
ですけど、ウサギさんなので、わたくしの手からぶらーんとぶら下がる格好になります。
あーっ、シルクの手袋を通して伝わってくる、ふんわりもふもふな温もり……!
「ええ、参りましょうピョンスロット様!」
「あっ、ひめさま、ドレスで私をもふもふすると毛が、むむむー」
もう、ドレスだなんだと気にはしません! わたくし、気の済むまでピョンスロット様をもふります!!




