2・ニセモノ王女、現る現る
「この騒ぎは一体なんなんですの!!」
突然声が響き渡りました!
わたくしが立ち上がりますと、門番の皆さんも、困惑したお顔で立ち上がります。
どうやら、門番さんの一人が、誰かを連れてきたようです。
「お待ち下さい、ショコラーデ姫様! はあ、はあ……! お一人では危険……」
あら。あらあら。
わたくし、びっくりして目を見開きます。
向こうからやって来るのは、わたくしをお城から逃した騎士のポールではありませんか。
そして、ポールの前をのしのしと歩いて来るのは……。
「シ……ショコラーデ殿下が、二人……!?」
「そんな馬鹿な……!」
「だが、どちらも殿下に見える!」
「ほう、あれは、ショコラーデひめのにせものですな」
門番の皆さんが戸惑う中、ピョンスロット様が呟きました。
短いお手手で腕組みをなさっています。
あら、なんだか、もこもこの眉間にシワが寄ってるみたいな。
「もしかして、ピョンスロット様は怒っていらっしゃいます?」
「はっ、このピョンスロット、まだまだしゅぎょうが足りませんな。ひめのにせものを前にして、いきどおりがおさまりません!」
ピョンスロット様、ぷんぷんです!
わたくしの手から、スポーンと飛び出すと、ウサギさんは地面に降り立ちました。
「なあに、あなた? わたくしを、ボンボン王国王女、ショコラーデ・ボンボンだと知って、偽物をしようと思ってやってきたのかしら?」
わたくしだと自称する女性が、剣呑な目つきで睨んできます。
うーん。
あれ、わたくしでしょうか?
「ひめにしては、目がつりあがって、耳とあごがとがってますな。あきらかなにせもの」
「ウ、ウサギが喋った……!?」
わたくしだと自称する女性が、ピョンスロット様を見て驚きます。
驚いたのは、ポールも一緒のようです。
「そ、そんな馬鹿な……! 自分は確かに、ショコラーデ姫様をお守りしてシュリンプ王国までやって来たはず……! だ、だがあちらの女性、放つオーラのようなものが、どう考えてもショコラーデ姫様としか思えない……!!」
わたくし、首を傾げました。
「それはおかしいです、ポール。わたくし、ポールが御者をした馬車から、ぴょーんっと飛び出しました。ですから、ポールと一緒にこちらに来ることはできないのですよ?」
すると、わたくしだと自称する女性が、勝ち誇った微笑みを浮かべながらわたくしを指さします。
「語るに落ちましたわね、ニセショコラーデ! ポールと別行動したと言うなら、どうしてわたくしがポールとともに、この国に到着してるものですか。そんなみすぼらしい格好をして、顔だけ似せてもバレバレですわよ!!」
「まあ!!」
わたくしも、頭に来ました!
ぷんぷんです!!
「あなた!! このお洋服は、ピョンスロット様が用意してくださった、とても素敵なお洋服なのです! みすぼらしいなんて、例えピョンスロット様が許しても、わたくしが許しません! ごめんなさいをなさい!」
「えっ、服のことを怒るの……!?」
わたくしだと自称する女性が、表情を引きつらせました。
「にせものめ。ショコラーデひめさまは、あいてのことをお前のようにわるくいったりしないのだ。くちをひらくだけ、じぶんがにせものだと言っているようなものだ!」
わたくしの足元で、ピョンスロット様がニンジンを抜き放ちます。
今朝のキャロンダイトは、とても色艶がよくて美味しそうです。
「ええい、もういいわ! お前たち、こんなウサギと、顔だけそっくりな偽物の話を聞くつもり? こら、門番! 兵士長! ああ、もう! ポール、やってしまいなさい!!」
「やるって……あの、何をです?」
「そのぶら下げている剣は飾りか何かかしら? それで、このウサギと偽物をやっておしまいなさいな!」
「む、むむむ」
ポールは少しの間悩んだようですが、とても苦しそうな顔をして剣を抜きました。
わたくし、むむむっと唸ります。
「ポールが苦しそうです。これはどうにかしてあげないといけません!」
「うむ、それでこそひめです! ここは、あなたのきしにおまかせ下さい。なやめるわかものを、かるくなでてやりましょう」
ぴょこぴょこ、とピョンスロット様が前に進み出ました。
とん、とニンジンを地面に突き刺します。
「わこうどよ。はじめのいちげきをゆるそう。さあ、そのなやめるけんを私にたたきつけるがいい」
「う、ウサギに若人って言われた……!! くっ……こ、このぉーっ!!」
剣を抜いて斬りかかるポールです!
ボンボン王国でも、五本の指に入る剣の使い手であるポール。
心は迷っていても、剣筋にはよどみがありません!
ですけれど、これをピョンスロット様、目をきらーんと光らせて見切りました。
こてん、と横に倒れて、真横に振り下ろされた一撃をかわします。
「なにっ! だがっ!」
流れるような、ポールの連続攻撃です!
ですけれど、これをピョンスロット様、地面をころころ縦横無尽に転がって、全く当てさせてくれません!
「はぁっ、はぁっ、そ、そんな馬鹿な……! 俺の剣が、ウサギに通用しない……!?」
「けんをふれば、おのずとなやみはかるくなるだろう。どうだ。君のむねのつかえはとれたかね?」
「はっ……! そ、そう言えば、俺は今、何もかも忘れて夢中で剣を……」
「それでいい。君はよききしだ」
ピョンスロット様は、笑いました。
表情は変わってませんけれど、わたくしには分かります。
そして、無造作にニンジンさんを引き抜いたのです。
「だが、俺は騎士! ウサギよ、覚悟してもらう!」
「では、君にきょうじゅしよう」
迫りくる、ポールの剣。
今度のピョンスロット様は避けようともしません!
「まっすぐな、よいけんすじだ。ゆえに、あしきものにもつけこまれやすい」
するり、とニンジンさんが突き出されました。
赤いお野菜が、剣を真っ向から受け止めます!
受け止めたかとおもった瞬間、ポキっと剣の方が折れました!
「わこうどよ。だれもおることができないほど、つよくなるのだ!」
ぴょーんとジャンプしたピョンスロット様が、ポールの頭をポコポコポコっとニンジンさんで叩きました。
「うっ、や、やられたっ……!」
ポールはふらふらとして、そのまま膝を突き、倒れてしまいました。
「ポール!」
「ごあんしんください。みねうちです。頭がわれてないでしょう」
「ほんとうです!」
流石はピョンスロット様!
ちゃんと手加減をして、迷えるポールを導いて下さったのです!
「何という茶番だ!! ポールとやらも、この程度の使い手か! かくなる上は、我が力で姫を葬り、ショコラーデ姫と成り代わってくれる!」
大声で叫んだのは、わたくしを自称する女性でした。
目がさらに釣り上がって、なんだか顔が真っ赤になっています。
いいえ、あれは、顔が別のものに変わっていっているのです!
あれは……!
「パプリカか!」
そう、それはパプリカ頭の女の人だったのです!




