3・唸れ、キャロンダイト
ピョンスロットの語りです。
パプリカ王女とでも呼ぼうか。
ショコラーデ姫様を騙った偽物は、ついにその正体を現した。
頭は真っ赤なパプリカ。
体だけは姫様の姿を取ってはいたが、さっきより一回りは大きくなっている。
「あははははは! 黙って森の奥に隠れていればいいのに、私の前に現れたのが運の尽きだったね、ショコラーデ姫!! お前を殺し、シュネーケ様の命に従って成り代わってやるよ!」
「まあ! やっぱり魔女シュネーケの陰謀でしたのね!」
魔族の高笑いに、わが君ショコラーデは、敢然と立ち向かう。
ちょっと膝小僧が震えていても、その瞳は強い光を宿していた。
うむ、彼女こそ、人の上に立つ器だ。
私は、ショコラーデとパプリカ王女の間に立つ。
「おまえのもくろみが、はたされることはない。私がそれをうちくだくからだ!」
キャロンダイトを掲げ、言い放つ。
パプリカ王女は、これを鼻で笑おうとした。
だが、できない。
そう、我が身は野菜の天敵、ウサギである。
これを無視できる野菜などいない。
「お前は何だ? ただのウサギではない! 何者なんだ!? シュネーケ様からは何の指示も届かない。魔法の鏡を通して、いつもなら私に命令をくださるのに!」
「そのかがみは、この剣でわった」
「そのニンジンで!?」
パプリカ王女、たじろぐ。
完全に、私に押されているようだ。
これを見て、門番や兵士長たちはいけると思ったらしい。
「今だ! 魔物を退治せよ!」
オキアミス兵士長が叫ぶ。
ショコラーデ姫の信奉者である彼は、強面な見た目に似合わず、王国を守る兵士としての矜持を持っていた。
彼の言葉に、門番達が忠実に従う。
たくさんの槍が、パプリカ王女に突き立てられた。
だが……。
「ほほほほほ! ほほほほほほほ! 無駄無駄! 私の身を、そのようななまくらで貫くことなどできはしない!」
槍は、ドレスの布地一枚、切り裂くことができないでいる。
「そうです! シュネーケの操る兵士たちは、ただの武器では傷をつけることができないのです! 皆さん、下がって下さい!」
「し、しかし! うわーっ!」
兵士の一人が、パプリカ王女の攻撃を受けて地面に転がった。
奴め、パプリカを投げつけてくるのか。
野菜は投げるものではない。食べるものだぞ!
「みなさん! 下がって下さい!!」
強く、我が君は言葉を発した。
門番達は、びくりと身を震わせた。
姫の言葉が持つ力だ。
「かしこまりました、姫!」
パプリカ王女に殺到していた彼らは、波が引くように下がっていった。
そこに唯一立つのは、私だ。
「ウサギめえ……! お前がいなければ……!」
「私のなは、ピョンスロット。このたたかいのしょうりを、わがあるじ、ショコラーデひめにささげる!」
私は、キャロンダイトを胸の前に掲げた。
「抜かせ、ウサギめえ!」
パプリカ王女が激昂した。
その両手から、次々にパプリカが投げつけられてくる。
正直、ウサギとなってからパプリカはあまり好きな野菜ではない。
だが、それでも野菜を投げつけるなど言語道断。
「やさいをたいせつにせよ!!」
私は大地を駆けた。
迫りくるパプリカを、キャロンダイトで次々に貫く。
一つ、二つ、三つ!
「な、何だと!?」
「パプリカを頭としながらもパプリカをなげつけるさま、ゆるしがたい! なにより、とうときショコラーデ王女のなをかたったこと、それがきさまのおかしたさいだいのあやまち!」
我が身が、シュリンプ王国の空に跳躍する。
「ええい!」
苦し紛れに、パプリカ王女がもう一つ、パプリカを投擲した。
これを、私は前歯でキャッチする。
むしゃむしゃ食べる。
「もぐもぐもぐ! もぐもぐー!!」
キャロンダイトが、オレンジの軌跡を描いて振るわれた。
「シュ、シュネーケ様、申し訳ありませんーっ!!」
パプリカ王女は一声叫ぶと、色鮮やかなパプリカ頭を真っ二つにされ、野菜に戻ってしまったのだった。
一瞬の静寂が、周囲を包み込む。
門番達は、ショコラーデ姫様を守るように立ちながら、目の前で起こった出来事を理解できずにいる。
だが。
「流石です、ピョンスロット様!」
涼やかで可愛らしい、我が君の声が響き渡る。
これが、門番達の呪縛を解き放った。
「うおお!」
「おおおおおー!!」
「ウサギの騎士!」
「ウサギの騎士ピョンスロット!」
「ピョンスロット! ピョンスロット!」
門番達の口が、私の名を称える。
私はキャロンダイトを背中に収めると、ショコラーデ姫に向けて、跪いた。
手足が短いので、ウサギが斜めになったような姿勢になった。
「見事です、我が騎士よ」
「こうえいのいたり」
背後からは、遅れて事態に駆けつけてきた、シュリンプ王国の兵士達の足音がする。
だが、今この時だけは、私は我が君の前で、捧げた勝利に酔うのだった。




