3・夜の森のおしゃべり
ミルクレープさんが、夜闇を切り裂いて走ります。
速い速い!
あっという間に、チーズさんたちは見えなくなってしまいました。
あの方々、もしかして国境からこちらには来られないのでしょうか?
「まじょは、どうやら手下をきまったところから、いどうできないようにしているようですな」
「どうしてなんでしょう?」
「ふむ、おそらく、シュリンプ王国にはまじょがおそれるなにかがあるのかもしれません。手下であっても、えいきょうをうけるのでしょう」
「なるほど! 確かに、それならわたくしを必死に妨害します! さすがはピョンスロット様です!」
疾走するミルクレープさんに手を伸ばして、後ろからピョンスロット様をわしゃわしゃします。
ピョンスロット様は、ふおおおーと声を上げながらバンザイしました。
危険なところは抜けましたので、このように、わたくしのもふもふも少しは許される状況なのです。
「ホッホーウ」
「ヴィヴィアンさん! おかえりなさい!」
ヴィヴィアンさんが、馬車の幌の上に留まります。
大活躍だったこのフクロウさんは、どこかでご飯を捕まえてきたようで、わたくしが見えないところで丸呑みにしていました。
何を食べるんでしょう?
お野菜?
「ひ、ひめ! そろそろかいほうして下さい!」
「あっ、ごめんなさい! 上の空でもふもふしていました」
わたくしが手を離すと、ピョンスロット様はよろよろっとして、ミルクレープさんの首にもたれかかりました。
「おそるべきもふもふの技……! いえ、それでもこっきょうせんをこうして、くぐりぬけられたのは幸いでしたな。すでにここはシュリンプ王国のなかです。ひめ、すこし休まれてはいかがですか?」
「わたくし、お昼寝したのでまだ全然元気です!」
ピョンスロット様がわたくしを気遣ってくださいます。
こういう、常に気配りを忘れない細やかな所、素敵です!
ですけれど、ショコラは若いのです。
まだまだいけます!
「いいでしょう。では夜のたびとしゃれこみましょう! 行くぞ、ミルクレープ! よるをてっして走れば、みやこにつくだろう! はいよー!」
「カタカタカタ!」
ミルクレープさんが骨を鳴らして答えます。
まるで疲れを知らないかのように、彼はどんどんと道を走りました。
びゅんびゅんと、夜の森が左右を流れていきます。
ふと、あることに気付きました。
「ピョンスロット様。わたくし、この国の森とわたくしの国とでは、違って見えるんです。こちらの方が、木々が細くて迫ってくる感じがないと言うか」
「きづかれましたか。おそらく、ボンボン王国はまじょのちからをうけて、森がへんかしているのかもしれません」
「まあ。怖いですねえ」
「なに、私がいればおそれることはありません。そしてまじょをたいじすれば、森はもとどおりでしょう」
ピョンスロット様は向かい風の中、振り返りながらおっしゃいました。
暗いのであまり表情は分かりませんが、きっといつものウサギさんみたいな表情に、笑顔みたいな雰囲気をまとわせているんじゃないかな、と思いました。
とっても頼りになるウサギさん。
彼がいれば、見知らぬ夜の森だって怖くはありません!
「これからもよろしくお願いしますね、ピョンスロット様」
「かしこまりました、わが君。このけんは、ショコラーデひめさまのためにのみふるわれます」
ピョンスロット様が、ニンジンさんを構えました。
あっ!
掲げられた瞬間、ニンジンさんが風を切り裂きました!
向かい風がピタリと止みます。
すごいニンジンさんです。
ピョンスロット様は、これを剣だと仰るので、きっと剣なのでしょう。
美味しく食べられる剣です。
「ピョンスロット様は、騎士なのですねえ」
「ええ、そうです。ながい間きしをやってきましたが、あるじとふたりきりの旅というものははじめてですね」
ははは、とピョンスロット様は笑います。
「いままで、部下たちをひきいてきましたから。きょうだいなてきと戦うときは、かれらとともにけんをとったものです」
「まあ! ピョンスロット様のお仲間さんがおられるのですね! 皆さん、ウサギさんなのですか?」
「さあ、どうでしょう……。かれらも私どうよう、のろいをうけてどうぶつに変わっているはずです。ですが、あれいらい会っていないのですよ」
どうやら、ピョンスロット様には波乱の過去があるご様子です。
とっても気になって聞きたくて仕方ないのですが、ショコラはその辺りを踏み込まない、分別ができたレディです。
ぐっと自分の太ももをつねって我慢します。
と、ここで気付きました。
わたくしが川で見た、喋る灰色のボサボサした大きい動物さん。
あれ、やっぱりピョンスロット様のお仲間さんだったのです。
それに、チーズの兵隊たちは、カピバラという生き物がふんをして、それを盾にして国境線を抜けたと言っていました。
あの動物は、きっとカピバラさんなのです。
「ピョンスロット様、きっと、シュリンプ王国で仲間が増えますよ! ショコラ、そんな予感がするんです!」
「すばらしいよかんですな。ひめが思うことは、きっとかなうでしょう。このピョンスロットも信じています。さあ……みえてきましたよ、シュリンプ王国のおうとが!」
ピョンスロット様は、ぴゅーっとミルクレープさんの首を駆け上がります。
そして、可愛い手で行先を指し示しました。
そこには……夜なお明るい、大きな都が広がっていたのです。
いよいよ、シュリンプ王国到着です!




