1・森の道行く一人と一羽
「はいよー!」
ピョンスロット様が、見事な手綱さばきを見せます。
ウサギさんなのに、ずっと大きなお馬さんをコントロールするなんて凄いです!
「カタカタカタカタ」
お馬さんが骨の軋む音を立てます。
見た目は、カボチャの兵隊たちが乗っていた、骨のお馬さんです。
朝にピョンスロット様が退治したカボチャの兵隊でしたが、乗り捨てていった骨のお馬さんがいたのです。
これを、マーチン様と協力して作ったオープンな馬車につなげて利用することにしたのです。
「いいぞ、馬よ! ほねのすがただが、すばらしい走りだ! ……と、名前がないといろいろふべんですな。ひめ」
「まあ、わたくしが名付けていいのですか? そうですねえ。うーん……それでは、お尻の辺りが白い生地を重ねたあのケーキに似ていますから、ミルクレープと名付けましょう!」
「よい名ですな! よし、いくぞミルクレープ!」
「カタカタカタカタ」
「ミルクレープさんもご機嫌ですね! 無理をなさらないで下さいね!」
「カタカタカタ!」
「ほう、ひめにほめられて、ミルクレープもよろこんでいるようですな! ようし、シュリンプ王国までいっちょくせんにいくぞ!」
馬車が速度を上げます。
お馬さんが飛び跳ねるように走るたび、ピョンスロット様が鞍の上でポイン、ポイン、と弾みます。
ウサギさんを包む毛皮はふっかふかなので、ちょっとの衝撃でもああやって跳ね返してしまうのですね。
わたくしは、あのもふもふな手触りを思い出し、指先をわきわきとさせます。
ちなみに、わたくしの隣には箱が置かれていて、そこでヴィヴィアンさんがお休みになっています。
流石のわたくしでも、熟睡しているもこもこフクロウさんをもふる事はしません。
起きたら存分にします。
周囲は、昼でも日差しがあまり差し込まない街道。
森が今にも左右から迫ってきそうです。
「ピョンスロット様ー!」
「なんですかな!」
ピョンスロット様が顔だけ振り返ります。
「これは大丈夫なのですか? まるで、森の木々がこうして、襲ってくる怪物のように見えて……」
「へいきです。しぜんのものというのは、人がのぞむようにはできていないものです。分からないからこわく、不安になる。ならばどうすればよいと思いますかな」
「ええと……森のことを知ればいいとか」
「そのとおりです。みちすがら、私がウサギのみでしったことをおしえ伝えましょう」
そのようなわけで、旅の道行きは、わたくしにとっての教室に早変わりしました。
ピョンスロット様は博識です。
ウサギさんなのに、人の社会のことにもとてもお詳しいのです。
ただ、知識が少し、昔のお話を元にしている気がしました。
どれくらい経ったでしょうか。
途中の休憩を入れて、そろそろ空が夕方になる頃合いには、わたくしは森のことを少し分かるようになってきました。
切り開かれた街道は、陽の光を遮るものがありません。
だから、木々は争うようにして枝を街道に向けて伸ばすのです。
彼らも、少しでも多くの光を集めたくて必死なのですね。
「ですが、森をおそれることはとてもたいせつです。森はきけんなばしょですからね。人がいきるべきところは、やはり人がすむばしょなのですよ」
「はい、ピョンスロット様!」
「ホッホーウ」
あら、ヴィヴィアンさんがお目覚めです。
もうすぐ夜が来るということなのでしょう。
「こんやはここでキャンプをしましょう。馬車にしましたから、テントになるざいりょうもつんでおります」
「今度はわたくしもお手伝いしますね! ショコラは案外力持ちなんですから!」
わたくし、腕まくりをしてむふーっと鼻息を吹き出しました。
おとといのわたくしとは違うのです。
一回り大きくなった、ニューショコラーデなのです!
「ではひめ、このくいをじめんに打ちこんでください。テントのどだいになりますので」
「はい! えいっ! あーっ! 地面を叩いてしまいました! 手がしびれます!」
「もしかしてハンマーをつかうのははじめてでしたか」
「はい! 生まれて初めてハンマーというものを握りました! でもショコラはくじけません! 行きますよ! えいっ! あーっ!」
「ひめ! すじはいいですよ! がんばってください!」
凄まじい戦いでした。
四隅に杭を打ち込むために、わたくしは都合、二十回くらい地面を思いっきり叩いてしまい、腕がじんじんです!
ですが、ピョンスロット様が励まして下さったので、諦めること無く挑戦が出来ました。
すっかり汗だくですが、達成感に満ちあふれています!
「では、あとはテントは私がよういしましょう。近くで川のせせらぎがきこえます。ひめはあせをながしてこられてはいかがですか?」
「まあ、自然の水浴びですのね! はい、喜んで!」
「ピンチのときは、このピョンスロットの名をおよびください。すぐさまかけつけましょう!」
「頼もしいです!」
わたくしは、小脇にピョンスロット様お手製の入浴セットを持って川に向かうのでした。




