3・今夜のおかず何食べる?
「ひめ! マーチンがかこきゅうになっていますよ」
「あっ、いけません、わたくしとしたことがつい本気に……!」
真ん丸なマーチン様をもふもふしていたら、彼はすっかりもふもふにやられて、ひっくり返っておられました。
「あ、あ、あぶないところだった。いけないいけない、思わず、ごいがチンチラに……ウォッホン!」
マーチン様はひっくり返ったまま咳払いをすると、コロンと後転して立ち上がりました。
「私は君たちに、これからの運命を伝え、導くためにやってきたんだ。おっと、私は同行できないよ。見ての通り、体力が無いんだ!」
マーチン様は、チンチラらしき短い手を振り回して演説します。
そんなに仰け反ると、ころんと転がってしまいそうです。
あっ、転げた。
「マーチン、はなしが進まないじゃないか。そっちょくにのべてくれ」
ピョンスロット様はわたくしの腕からぴょーんと飛び降りて、マーチン様を助け起こしました。
「おお、済まないピョンスロット! どうもチンチラの身体では、上手くバランスが取れなくてね。千里眼も調子が思わしくない。例えば……こうだ。君たちの今夜のおかずは、燻製にした魚とニンジンの漬物。どうだい?」
「あたりだ」
「凄いですマーチン様!」
「ところが、私の千里眼で見えるのは今夜のおかずまでが限界なんだ。だからこれから君たちに伝えられる運命の話は、あくまで私が以前から持っていた知識から来る話になる。いいかい?」
とても理知的に、マーチン様はおっしゃいました。
ですけれど、今にもひっくり返りそうなのをピョンスロット様に支えられていますから、今ひとつ格好がつかなくてとっても可愛いです。
「はい、どうぞお話下さいな、マーチン様」
「素晴らしい、理想的な聞き手の姿勢だ! いいかい、君たちがこれから向かうべき国は、南の隣国であるシュリンプス王国」
「あら、それは運命的です! シュリンプスのオマール王子は、わたくしのお婿さんにしようかどうか、お父様が迷っていましたもの。お互い顔も知っています!」
「だろう! そこは、魔女の手下のチーズの兵隊がうろついてる。これをなんとか切り抜けて欲しい。そして、シュリンプス王国が所有する聖なる鏡を貸してもらうんだ」
「待って下さいマーチン様。ショコラ、とてもそんなにたくさんの事は覚えられません! ええと、南に行って、チーズを食べて……」
わたくし、頭がパンクしそうです。
そうしたら、ピョンスロット様がわたくしの膝をぽふぽふと叩きました。
「ひめ、一度におぼえなくてもいいでしょう。まずは、みなみに行ってオマール王子にあう。これだけかんがえましょう」
「そうですね! 流石ピョンスロット様、分かりやすいです!」
「よし、二人共。また必要な時に、私からメッセージを送ることにしよう。特にショコラーデ姫、君の命をあの魔女に奪われてしまったら、ボンボン王国は永遠の闇に閉ざされてしまうからね」
「私がさせんよ。たとえウサギになったとしても、この剣のわざにいっぺんのくもりもない」
ピョンスロット様は、ニンジンさんを構えてかっこいいポーズをなさいます。
素敵!
あら、ニンジンさんに穴が空いていて、それがみるみる埋まっていきます。
「キャロンダイトは、しぜんになおるようになっているのです」
「まあ! それじゃあ、ずーっと食べられますね」
「そうなのです」
得意げに、ピョンスロット様はむふーっと鼻息を出されました。
おヒゲがひくひくされています。
「わ、私のカリフラワーも凄いんだぞ!」
マーチン様が対抗意識を燃やされます。
なんだか朝から賑やかで、楽しくなってきました。
ウサギさんとチンチラさんがお野菜を比べ合っている間に、わたくしは家に戻り、テーブルを持ってまいりました。
「皆様! 旅立ち前に、一緒に朝食をとりましょう! わたくし、賑やかなご飯って大好きなんです!」
どんっとテーブルを置きます。
ピョンスロット様も、マーチン様も、お互いの野菜をテーブルに並べます。
わたくしは、燻製のお魚とお野菜。
「マーチン、わがしゅくんのごぜんだぞ。あくまで、上品に、上品に」
「分かっているさ。だが私は食事となれば、チンチラの野生に身を任せるぞーっ!」
マーチン様は猛烈な勢いでカリフラワーを食べると、もぐもぐしながら天を仰ぎました。
「君たちの先行きに、幸あらんことを! ボンボン王国の光を守ってくれ!」
こうしてわたくしたちは、旅の幸いを願い、手にしたお野菜を天に掲げたのです。




