2・川の流れのように
わたくしは、えーいっとばかりにお洋服を脱ぎました。
普段は侍女がお手伝いをしてくれるので、わたくしの手では洋服を脱ぎません。
ですけれど、ピョンスロット様と一緒にいるようになってから、井戸での水浴びの際に服を着たり脱いだりを教わったのです!
これでもう、一人で着替えだって出来ます。
わたくしは城から出てきて、一回り大きくなったに違いありません!
「……でも、決してお腹周りとかが一回り大きくなったわけでは……。いえいえ。ピョンスロット様のお宅でいただいた食事が美味しすぎるのがいけないのです! 温かい食べ物があんなに美味しいなんて……。ついついお腹いっぱい食べてしまいました」
お洋服を、川に向かって突き出した枝に掛けます。
「ちょっとだけ、預かっていて下さいましね」
わたくしには、枝が頷いたように見えました。
そして、そろり、そろりと川に近づきます。
流れはゆっくり。
川べりは浅いようですけれど、真ん中に向けて深くなっているようです。
足をつん、とつけると、ちょっと冷たいです。
井戸の水と言い、川の水と言い、こっちも温かくなってほしいなあと考えるわたくしは、贅沢でしょうか。
恐る恐る、足を沈めて行きます。
川底は小石がたくさん。
みんな丸くて、気を抜くと滑りそうです。
「慎重に参りましょう。わたくしが流されたら、ピョンスロット様には重くて引き上げられないかもしれません!」
呟いてみて、ハッとしました。
「待って。待つのよショコラ。わたくし、そんなに重くはないのではないかしら。ほら、お腹の肉だっていつもコルセットで抑えているからこう……」
あっ、プヨンとしました!
これは見なかったことにします。
わたくし、ゆっくりと身体を沈めて、掬った水を髪や身体に掛けていきます。
火照った身体が、すうっと冷えていく感じ。
なんだか気持ちいいです。
森の中は、夕暮れの真っ最中。
木々の間から見える真っ赤な日差しが、水面を照らしています。
鳥たちのさえずりと、川のせせらぎ。
確か、お父様の狩りに無理を言ってついてきた時、明るいお日様を受けて輝く川を見た記憶があります。
緑の中を流れていく水の色は、それはそれは素敵なものでした。
ですけれど、沈んでいく太陽を映す川の姿は、わたくしが見たことがないもの。
「素敵……」
手のひらで水を掬うと、まるで、太陽の一部を手のひらに収めたみたい。
「ケロケロ」
「あら」
わたくしの肩のところで、可愛らしい声がしました。
いつの間にか、カエルさんがいます。
緑色の小さなおててを伸ばして、肩に掛かったわたくしの髪を触っています。
「だめですよ、カエルさん。絡まったら大変です」
「ケロケロ」
「きゃっ」
今度はカエルさん、わたくしの胸に降りてきました。
そこで、踏ん張りが利かず、つるーんと落ちていきます。
ぱちゃん。
「ひめ! ひめいが聞こえたようですが……ああ、いや、また歌をうたっておられたのですかな?」
「ピョンスロット様! 大丈夫です! カエルさんがいたんですよ!」
「それはけっこうなことです! ですが、やせいのどうぶつを、あまりさわらない方がよろしいですよ。なにがあるか分かりませんから」
「はい、心得ました!」
カエルさんはわたくしを見ながら、後ろ向きに川を流されていきます。
わたくし、小さく手を振りました。
身体が冷えてきたので、水から上がります。
タオルで水を拭き取るのですが、これがとても難しいです。
背中には手が届きませんし、髪はどれだけ水気を吸い取らせても、湿ったままです。
「むむむー」
唸りながら、一生懸命に身体を拭くことに致しました。
ふと、何か流れてくるものがあることに気づきます。
「あら?」
「……………」
スーッと何か、灰色の何か、もじゃりとしたものが……。
「……………」
あっ、目が合いました。
あれは、なんでしょう。灰色の毛むくじゃらで、毛の一本一本がとても太くて、ぼんやりした顔をしています。
前歯が長くて、多分げっ歯類だと思うのですが、わたくしの太ももくらいまでの高さがある気がします。
とっても大きい!
「……かわ、つめたあい」
あっ、喋りました!
川は冷たいですよね、うんうん。
わたくしも同意して、目を閉じて頷いていました。
そして目を開けると、もうそのげっ歯類の姿はありません。
流れていってしまいました。
一体、何だったのでしょうか……?




