17、治療室にて
17話です
そこは暗い部屋だった。
なにもない暗い空間に、俺はひとり立っていた。
「ここは……どこだ?」
夢なのか?
「――あんたが、私の中に入り込んだやつね」
背後から声がして振り返ると、俺と同じ姿をした少女が裸で立っていた。
「おふっ!?」
俺は全力で顔を背けた。いきなり裸の女の子がいたら驚くだろ、しかも今の俺と同じ身体だ。直視なんてできるはずがない。
「何で顔そらすのよ。こっち見なさいって」
いやいや、無理だろ! なんでこんなに裸に対して羞恥心がないんだ、裸族か!?
「あぁん? あんたもしかして男? 別に気にしないから向けよ。それにもうあんたの体なんだから同じでしょ。しかも、あんたも裸だし」
「え、俺も!?」
慌てて下を隠し、もじもじしながら前を向く。
「……はぁ、男の癖に女々しいやつね」
残念なものを見る目で毒を吐いてくるが、気にしない! 恥ずかしいものは恥ずかしいんだ。
「き、君がフェンリルなのか?」
「そうよ、私がフェンリル」
「そのフェンリルが、なぜここに?」
「私だって知らないわよ、何であんたとこうして喋れるのか。でもね、丁度いいから言っときたいことがあるの」
俺は思わず息を呑んだ。
「記憶の大半が抜け落ちてるから上手く言えないんだけど――シヴァには気を付けなさい。いや、シヴァの“ようなもの”? まあ、とにかくシヴァには気を付けときなさい」
シヴァ……知らない名前だが、取り敢えず警戒しろってことか。
「それと――ジンとの戦い見てたわよ。あんた、弱すぎ。雑魚どころかゴミ虫以下。何あのスピード? 亀が走ってんのかと思ったし。魔力の使い方も下手すぎ」
「フェンリルさん、毒舌が過ぎませんか!?」
一般人に何を求めてんだよ! 俺はどっかの戦闘民族じゃねーぞ!?
「し、仕方ないだろ。俺はただの一般高校生なんだから!」
「一般高校生? 何それ知らない。意味不明なこと言わないで。次会ったら鍛えてやるから覚悟しときなさい。このままじゃ、シヴァが来たらワンパンで死ぬわよ」
何だこのイベント。いきなり現れて「鍛える」とか言い出すとか、意味わかんねぇ。ほんとにこのロリ神獣なんなん!?
「いや、遠慮しておきます」
「あ? ふざけんな。手ぇ出せないで見てるだけのこっちがどれだけイライラしてるか分かってんの?」
「勝手だな! お前は死んだんだから大人しく神の所に帰れよ!」
その瞬間、フェンリルの拳が俺の腹をえぐった。
「ふぐっ!!」
体がくの字に折れ、床に叩きつけられる。
「いってぇええ!! なにすんだこの暴力女!!」
「ふんっ、どっちが上か、教えてやる必要があるみたいね」
骨を鳴らし、にやりと笑って近づいてくるフェンリル。青筋まで浮かんでる。
「死ね!」
「ぎゃあああああああ!!!」
――一分後。
床にはボロ雑巾のような俺が転がっていた。
ぼこぼこにされ、蹴り飛ばされ、もはや見るに堪えない。今意識が残ってるのが奇跡だ。
「手加減してあげたんだから感謝しなさい、このゴミクズ」
「は、はひぃ……ずみばぜんでした……」
「でもいいわねここ。どれだけ暴れても壊れない。気に入ったわ」
ああ、気に入って頂けて光栄ですよフェンリル様。くそっ。
「何? 文句でもあんの? 殺すわよ」
「いえっ! 滅相もございません!」
俺は即座に土下座した。いやもう、こういう時は土下座しかない。だが、小さい女に土下座って……屈辱すぎる。
「いいこと? あんたは、私を殺したやつを殺しに行くの。変なとこでくたばったら許さないからね」
「嘘だろ……冒険者でもしてのんびり暮らす予定だったのに、なんで復讐なんて……足どけろや……」
「返事は!?」
「ハイすみませんでしたああああ!!」
――暴君。暴君すぎる。なんで転生先でもこんな仕打ちなんだ。俺って呪われてんのか?
「……ふあぁ、眠くなってきたわ。じゃ、私は寝るから勝手に死ぬんじゃないわよ。じゃーね」
フェンリルはそう言って霧のように消えた。
「……はぁ……もう二度と現れんなこの悪魔……」
情けなさと惨めさで、俺はさめざめと泣いた。
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「ここは……?」
気づけばベッドに寝かされていた。
消毒液のような、保健室を思わせる匂いが漂う。
「お、目を覚ましたようだね」
横から聞こえたのは――ジンの声だった。
あ、このチート野郎……無茶苦茶な試験しやがって……!
「おい、あんな試験ありか!? 強すぎるだろ!」
「あっはは、悪かったね。ちょっとやり過ぎたかな。でも合格だから怒らないで」
「……は? 合格?」
負けたのに? ……まじで? やった、合格だ!!
……でも何で服の腹のところがぱっくり切れてんだ? 斬られた覚えねぇぞ……。
「ところで――君はフェンリルなのか?」
真面目な顔のジン。いつもの笑顔じゃなくて、逆に怖い。
「俺はフェンリルじゃない」
「本当に違うのかい?」
「違います。俺の名前は――ミツキ・カガミだ」
ジンは顎に手を当て、俺を見つめる。……敵なのか味方なのか、判断つかねぇ。
「それなら、君は氷の魔神かな?」
「……っ!」
やべっ、反応しちまった! 雑魚ですみません!
「君は魔神だね。それならなぜフェンリルの体をしている? いや、なぜ操っている?」
ジンがまっすぐ目を覗き込んでくる。いやいや、尋問ですか!? 俺悪いことしてないのに!
「じゃあ逆に聞きますけど、あんたこそ何者なんだよ。俺はあんたのこと知らない」
「私かい? 私は風の魔神、ジン。そしてこの学校の校長でもある」
「校長ぉ!? ……いや待て、風の魔神って……」
頭の中で神に転生させられた時のことを思い出す。確か魔神の名前がどうとか言ってたな……忘れたけど!
「あなたはフェンリルの友達なのか?」
「友達……まぁ、そう呼ばれるならそうなのかもね」
どっちだよはっきりしろ!
……いや、今はそれより。フェンリルが「気をつけろ」と言った名前――シヴァ。聞いてみるか。
「ジンさん、シヴァって人を知ってますか?」
「シヴァ君? 知ってるよ。……でも君がなんでその名前を?」
「フェンリルを殺したのはシヴァだって……そう言われたんだ」
ジンの顔が強張った。
「君……フェンリルに会ったのか!?」
「さっき、夢の中で」
「夢で……だと……」
ジンはしばし沈黙し、やがて口を開いた。
「私は風の魔神ジン。フェンリルとは、かつて並び立った存在だ。そしてシヴァ……フェンリルの右腕に最も近い存在だったはずの彼女が――行方不明になった」
信頼していた仲間に……殺されたのか?
……フェンリル、そんな辛い目に……。
「君が転生者なら話は合う。弱かったのも納得できる。だが――君の存在は、この学園にとって大きな意味を持つ」
「……弱い言うなや」
夢の中でも、ここでも……散々だ。
「おめでとう。正式に君を合格と認める。そして何か要望があったらできるだけ力になりますけど、ちなみに学校内ですが何かありますか?」
要望? 要望ね……。そうだな、学校での要望か。何か不都合なことあったかな?
「ところで、この学校の寮って……どういう仕組みなんですか?」
「基本は二人部屋ですね。違うクラスの人と同室になることもありますよ」
「それなら……その寮の相手をネリーにしてください。あとクラスも同じにしてください」
「あの少女のことですか? えぇ、お安い御用ですよ。それくらいならすぐに調整できます。僕はてっきり“鍛えてほしい”と言ってくるのかと思いましたよ」
いえ、結構です……強制的に約束してくる相手がもういますからね。
そう思ったところで、いきなりドアが開き――ネリーが入ってきた。
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「あんたは僕の言うことだけ聞いていればいいのよなに、何か文句あるの。」←フェンリル
「文句しかねーよ(小声)」←ミツキ
「あ、そうなら死ね!(# ゜Д゜)」←フェンリル
「あ!」←ミツキ
ドゴッ、ドスッ、ボスッ、ドンッ、ボコッ、ボゴッ、ガッ!
(/o\)み、見てられねー←猫さん




