16、ネリーの試験
16話です
しばらくミツキさんと他愛ないおしゃべりをしていましたら、前方に人影が現れました。
先生でしょうかしら? 場の空気が一瞬で張り詰め、ざわめいていた広間が静まり返ります。
「――それでは試験を開始します。お手元の受験票を破ってください」
……あぁ、先ほど渡された紙のことですね。
改めてよく見れば、複雑な紋様が刻まれ、転移魔法の術式が絡められておりますわ。
ならば――破るしかありません。
紙を裂いた瞬間、視界がぐにゃりと歪みました。
足元がなくなったような、頭を鷲掴みにされて引きずられるような、不快な浮遊感。
「っ……これは……なかなか気持ちの悪い感覚ですわね」
瞬きを繰り返すうちに、やがて視界が澄み――気づけば、私は円形の闘技場の中央に立っておりました。
結界空間……高度な術式で構成されたものに間違いありません。ここならば確かに、死なぬ程度に戦いを試せるでしょう。
前方に、ローブ姿の人物が一人。顔は影に覆われ、男か女かも分かりません。
……人間味が感じられませんわね。やはり分身でしょうか。
「では今から試験を開始します。一騎討ちです。どちらかが倒れれば自動的に戻されますので安心してください。痛みは伴いますが死には至りません。全力で挑んでください。
それでは――五、四、三、二、一……開始!」
号令と同時に、試験官が剣を構えて突進してきました。
「まぁ……随分と遅い剣筋ですこと」
上段からの一撃を軽やかに横へ躱す。薙ぎ払いはステップでかわし、突きは身を捻ってすり抜ける。
靴音が石床に響き、衣服がひらりと舞う。
――まるで舞踏会でのダンスのように、攻撃を避け続ける私。
「避け続けるだけというのも……そろそろ退屈でしてよ」
横薙ぎの剣を右手で掴み、そのままへし折りました。金属が鈍い悲鳴をあげる。
そして返す足で胸元を蹴り飛ばすと、試験官の体が鈍く弾かれ、床を擦って後退していきました。
それでも冷静に体勢を立て直し、距離を取る。ふふ、なかなか落ち着いていらっしゃいますわね。
さて、次はどのように出てくるのかしら?
「炎の槍よ、敵を貫け――《ファイアランス》!」
赤々と燃え盛る槍が生まれ、矢のように迫る。
熱風が頬を焼き、前髪がぱちりと焦げた。
「詠唱……おそいですわ」
「――《ウォーターランス》!」
無詠唱で放った水槍が炎を貫き、蒸気を撒き散らして相殺する。
白い霧が一瞬、視界を覆いました。
すぐに次の呪文が響きます。
「風の刃よ、敵を切り裂け――《ウィンドカッター》!」
空気が震え、鋭い刃となって奔る。
これは真正面から受けるのは危ういですわね。
「《ウォール》!」
土壁が隆起し、風の刃を受け止めました。
鋭い音と共に切り込みが走る。壁の表面が裂けるも、突破は許さない。
「……あぁ、つまらなくてよ。そろそろ終わりに致しましょう」
これは少し難しい魔法。私も詠唱を必要とします。
「原初なる雷よ――今、目の前の敵に裁きを下しなさい。《ジャッジメント》!」
掌に現れた雷球が、バチバチと音を立てる。
青白い光が空間を照らし、髪が逆立つ。
空気が焦げる匂いが漂い、床石がパキパキとひび割れていく。
次の瞬間――
轟音と共に光線が走り、壁を薙ぎ払い、爆発が炸裂した。
「きゃっ……!」
耳を打つ轟音、目を焼く閃光。
衝撃で床が揺れ、煙と瓦礫が舞い上がる。
まるで戦場の惨状。試験官の姿は、もうどこにもありませんでした。
「……少々、やり過ぎてしまいましたわね」
肩を竦め、深呼吸で胸の鼓動を落ち着ける。
その瞬間、視界が再び揺れ、気づけば元の広間に。
どうやら試験は終了のようです。
近くの先生らしき方が声をかけてくださいました。
「合格者ですね。本日はこれで終了です。そのまま寮へ。二日後に入学式がありますので、その時はまたこの部屋に集合してください。寮までは《ライト》の光が導きます」
淡い光球がふわりと浮かび、私を導く。
「……寮、ですか。ミツキさんと同じ部屋であれば……」
胸が少しだけ高鳴ります。
案内の光を追い、私は56号室に辿り着きました。
中は二人部屋。ベッドが二つ、机が二つ。窓からは中庭が見え、木々のざわめきが心を落ち着けます。
殺風景ながらも清潔で、学舎で過ごすには十分すぎる環境でした。
「ふふ……二人部屋ということは、もしや……」
頬が緩む。ミツキさんと共に学べる未来を夢想しながら、私は再び会場に戻り、彼女を待ちました。
しかし――いくら待っても、ミツキさんは現れない。
「まさか……不合格に……?」
いいえ、そんなはずありません。あの方が落ちるなど……。
焦燥が胸を焦がし、指先が冷えていく。
私は寮の廊下にいた合格者に声をかけました。
「すみません、少しよろしいかしら」
「はい? あ、合格者の方ですね。不都合でも?」
「いえ、お友達を探しているのです。ミツキ・カガミさんをご存じありません?」
「ああ……それならジン様が試験を担当された方ですね。今、治療室にいるはずですよ」
「治療室……! 怪我をなさったのですか!?」
血の気が引きました。
頭が真っ白になる。足元が崩れ落ちるような錯覚。
「その場所を――はやく教えてください!」
慌てふためく私に、その生徒は《ライト》を飛ばしてくれました。
光を追い、息を切らしながら廊下を駆け抜ける。
靴音が響き、影が揺れる。心臓は早鐘のように打ち、喉が痛いほど乾いていた。
やがて辿り着いた治療室。扉を押し開ける。
「――ミツキさん! 大丈夫ですの!?」
震える声が室内に響き渡った。
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戦闘書くのが難しいです、すみません




