13、宿屋での騒動
13話です
取りあえず夕飯だ。俺とネリーは一階の食堂へ。
相変わらず人だかりで、皿と椀のぶつかる音、笑い声、焼けた肉の匂いでむせ返りそうだ。なんとか二人席を見つけ、向かい合って腰を下ろす。メニュー表を手に取る――が、読めない。はい、知ってました。
「ネリー、お願いがあるんだけど。僕、字が読めないから、同じのを頼んでくれない?」
「まぁ。もちろん構いません。よろしければ字もお教えしますよ?」
優しい。俺はどこまで世話になるのだろう。
「ほんと?助かる。読めないと、食堂で食べたいものを選べないのがつらくてさ」
「ふふ。では任せてください。――すみませーん」
ネリーが店員さんを呼び、手際よく注文していく。その間、頭の上のドラをテーブルに下ろした。
いつも思うけど、頭の上って退屈じゃないのか、お前。
指でつつくと、「ピー」と鳴いて、指を口らしきところでくわえた。
おわっ。……痛くはない。くすぐったい。なんだ、これ――何かを吸ってるような……体の内側がほんの少しだけ軽くなる感覚。
(これが魔力ってやつ? だとしたら“抜かれてる”感じなのか?)
次の瞬間、ドラが指先からすうっと体の内側に溶けていった。
「うわっ!」思わず声が出て、手を振る。が、食堂の喧騒に紛れて誰もこちらを気にしない。助かった。……けど、ネリーは目を丸くしていた。
「ど、どうしたんですかミツキさん!」
「い、いや。ドラが指の中に入って……」
「えっ、テイムしてなかったんですか?」
「テイム?」
「契約者の魔力の中にしまって、必要なときに呼び出す古い系統の魔法です。最近は使える人が少ないですが……まさか今までテイムせずに、ずっと頭に乗せていたんですか? てっきり“スライミー頭乗せ愛好家”なのかと」
初耳だよそのジャンル。
でも、じゃあ今のって“勝手にテイム完了”ってこと? ドラ、お前自主搭載するタイプだったのか。
「ドラちゃんは、よほどミツキさんを気に入っているみたいですね」
褒められているのか、呆れられているのか判然としないが、ともかく呼び出し方を試す。
(来い、ドラ)と念じて手を差し出すと、テーブルの上に「ピー?」と現れた。
よしよし、洞窟の**“ステータスオープン惨劇”の二の舞にならずに済んだ。
戻すのは……と思ったら、ドラは自分の意思**でふっと薄れ、消えた。なるほど、往復自由らしい。賢いな。
と、ちょうど店員さんが料理を運んできた。
皿にステーキ、湯気の立つコンソメスープ、そして――白い米だ。おお、米あるんだこの世界。
箸は無いのでフォークで一粒ずつすく……のは無理だ。スプーンでいただきます。
――が、その時。テーブル脇に少年三人組が現れ、一人を中心に二人が控える形でずいっと近づいてきた。
「お嬢さん方、ご一緒にどうですかな。私はレナルド・ロジャー・マガフ。栄えあるマガフ家の嫡男だ。よろしく」
金髪オールバック、絹の上着、指輪、背筋。テンプレ貴族が握手を求めてくる。
顔は整っているが、目つきがちょっとイヤらしい。値踏みされてる感じ。いや、今まさに値踏みされたな。
(今から食べるところなんだよ。邪魔すんなや。こういうの、面倒なプライド貴族が多いんだよな物語では)
脳内でため息をついた瞬間――
「申し訳ございません。今は親しい友人と楽しく食事をしているところです。お引き取り願えますか?」
ネリーが、にっこりと、しかし一切の余地なく断った。
後ろの取り巻きのひとりが、剣呑に声を荒げかける。
「女風情が、レナルド様の――」
言い終わる前に、レナルドが手を上げて制した。
「それは失礼した。ではまたの機会に。縁があれば、そのとき改めて」
あっさり引いた。……あれ? 思ったよりまとも?
ただし取り巻き二人は露骨に睨んで去っていった。なるほど、“本人は引ける”タイプか。
「ネリー、助かった。正直、どう追い払うか迷ってた」
「これくらいお安い御用です。それに――私のミツキさんに、あんな男を近寄らせるわけにはいきませんから」
サラッと所有権を主張された。
すみません、俺はネリーさんの物になった覚えはこれっぽっちもないのですが。
「料理が冷めます。早く食べましょう」
「はいはい、いただきます」
ステーキは驚くほど柔らかい。塩と肉汁の旨味がじゅわっと広がる。スープは野菜の甘みがしっかり出ていて、薄すぎず濃すぎず絶妙。
そして米。――うん、米だ。ただそれだけなのに、心が落ち着く。胃袋が「ただいま」と言っている。ホームシックってこういうことを言うのかもしれない。
ドラも呼び出して、小さくちぎった肉と米をお裾分け。「ピー」とご機嫌。
ネリーはというと、同じペースで、圧倒的に上品に平らげていく。所作が美しい。育ち、出てる。
「僕の食べ方、汚いとか思わない?」
「思いません。ナイフとフォークを頑張って使っているミツキさん、可愛いです」
「……さいですか」
満腹。満足。最高。俺たちは会計を済ませ、部屋に戻った。
---汗を流さないと流石に嫌だな――そう考えて、ふと思った。
……あれ? 風呂、どうしよう。
1日半もお風呂に入っていない。日本人なら分かるだろ、このどうしようもない不快感。
やっぱり風呂は入りたい。
けど問題はそこじゃない。
そう、俺は今――男じゃないのだ。
この姿、少女なんですよね。……あはは、どーしよー。
現実逃避をしていたら。
「では、お風呂入れてきますね♪」
ネリーがご機嫌で鼻歌を歌いながらお風呂場へ。
すぐに蛇口をひねる音が聞こえて、水が流れ、浴槽にたまっていく。
俺は部屋の中であたふた、うろうろ。
どうする、どうするんだ俺!? と混乱していると――。
戻ってきたネリーが目の前に立った。
逃げようとしたが、両肩をがっちり捕まれ、鼻息荒く言い放つ。
「一緒に入りますよ!」
ちょ、ネリーさん!? 肩痛い、痛い、痛い!
しかも鼻息やめて! なにこの「貞操の危機」的空気!?
「ね、ネリー、一人ずつ入ればいいんじゃないかな?」
「何を言ってるんですか。すべて私にお任せください!」
いや答えになってねーよ!? 任せたら俺が危ないでしょ!?
……だが、万力のようなネリーの手から逃れることはできなかった。
なんでこんなに力強いんだよネリー!?
次の瞬間――。
服を一瞬で脱がされ、あっという間に素っ裸にされた。
「ちょっ、待っ……!」
体の上下を必死で腕で隠す。恥ずかしすぎて死ぬ!
しかも当然だが、俺の“息子”は消えている。
「うっ、まだ心の準備が――!」
言いかけたところで、目の前でネリーが脱ぎ始めた。
「ちょ、嘘だろ!?」
慌てて後ろを向く俺。
ネリー、いきなり脱ぐな! しかも堂々とすぎるだろ!
……とりあえず分かったことが一つ。
――俺の体は、まな板だった。
いや、考えてる場合か! と自分にツッコミを入れたその時。
後ろからネリーに抱きつかれ、そのまま持ち上げられた。
身長差のせいで足がぷらぷら浮く。
背中に――柔らかい感触。
直接、押し付けられている。
「や、柔らか……!」
じゃない、落ち着け俺!! 全力で暴れて逃げようとするが――。
ネリーはそのまま頬擦りしてきた。
「肌がすべすべで気持ちいいです。ずっとこうしていたいですね」
……いやいやいやいや!?
これ女同士だったら「やめてよーもう」で済むかもしれないけど!
俺、心は男なんだぞ!? リアル男子だったんだぞ!?
結局そのまま、俺はネリーに風呂場へ拉致された。
浴槽は白く濁った湯に薔薇の花びらが浮かんでいた。
薔薇の香り――なるほど、これか。
ネリーは俺を抱き上げたまま湯船へ浸かる。
そして、いつの間にかシャンプーを手に取り、俺の頭を洗い始めていた。
「ちょ、ネリー!? 俺、全然落ち着けな……」
そう言いかけたけど。
頭を洗われていると、なぜか心が落ち着いてきて。
むしろ眠くなってきた。
――気づいたら、眠りに落ちていた。
---
「ウフフ……やっとかかりましたね、私の魔法に」
ネリー視点。
こっそり《スリープ》を手から直接流し込んでいたのだが――ようやく眠った。
最初、後ろから抱き上げて頬擦りした時に軽くかけたのに全く効かなくて。
やっぱりミツキさんは異常に魔法耐性が高い。
「それにしても……肌はすべすべで白く、可愛い耳としっぽ。
顔は小さく、少しつり目。まるで人形……いえ、天使ですね」
(※あくまでネリー視点です)
無防備な寝顔が可愛すぎる。
髪を洗い終えて、お湯で優しく流す。顔にかからないよう細心の注意を払いながら。
次に、体の隅々まで丁寧に洗い上げる。
時折「んっ……あっ……」と艶っぽい寝言を漏らすものだから――。
「おっと……吸血衝動が来てしまいますね」
危ない危ない。
ミツキさんに嫌われるのは絶対に嫌。ここは我慢だ。
ブラシで擦って傷でもつけてしまったら、それこそ大問題。
本当なら《クリーン》で一瞬で済む。
服だって一緒に綺麗にできる。
――けれど私は、お風呂が大好きだから。
それに、いつかはばれてしまうのだろう。
私が吸血鬼だと。
その時、ミツキさんが離れていってしまったら……。
「……その時、私はどうするのでしょうか」
思わず言葉が漏れる。
……暗いことは考えるのはやめよう。
体を洗い終えたミツキさんを浮かせて、大きなタオルで包み、丁寧に拭き取る。
《フロート》でふわりと浮かせながら。
服には《クリーン》をかけ、清潔にしてトランクの中にしまった。
最後に――。
明るい部屋の中を、裸のままお姫様抱っこしてベッドまで運ぶ。
可愛い寝顔をそっとベッドに寝かせて、電気を消す。
自分も横になり、ミツキさんの頭を胸元に抱き寄せる。
そして額に小さなキスを落とした。
「おやすみなさい、私のミツキ」
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ミツキさんの裸ミツキさんの裸はあはあ(///∇///)←ネリー
すー、すー(-.-)Zzz←ミツキ




