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取引の真実


今回いつも以上に長いです。

タイトルにたどり着くまで長いです。

それでもお付き合いくださいませ。

御子神と瑠璃は朝食を済ませたあと、急に掃除を始めた。

店の商品に埃が被っていることが許せなかったらしい。

瑠璃は動きやすい格好に着替え、布を口に巻き、三角頭巾を頭にかぶって店を隅から隅まで掃除をしていた。

瑠璃は忙しなく店の中を動き回っている。

店主である御子神は忙しなく動く瑠璃を見ながら、煙管を吸っていた。

ちなみに御子神はきちんと朝食を完食した。納豆を食べるのに時間はかかったが。

瑠璃は今も掃除をしている。

御子神も掃除を手伝おうとしたしたのだが、邪魔と言われ、することもなく煙管を吸うしかなかった。

そんな時、瑠璃が急に動きを止めた。

「?」

御子神が不思議そうに瑠璃を見ていると小さなスノードームを手に取った。

「どうしたの?」

「このお店にこんな物まであったんですね」

「ああ。商品の中じゃ新しい方だからね。私が発注したわけじゃないんだけど」

御子神が手に持っているスノードームを覗き込む。

「じゃあ、誰が発注したんですか?」

「君の前任だよ」

「前任ですか?」

「そう。・・・もう死んでしまったけれどね」

御子神が悲しそうに顔を伏せる。

瑠璃はそれを見て、御子神の頭をふわりと撫でる。

「・・・御子神さんは人間以上に生きているからたくさんの死を見てきたんでしょうね」

撫でながら優しく微笑む。

それに自分の頭を撫でる瑠璃の手を取って、優しく握る。

「・・・ありがとう」

御子神は悲しそうに笑った。

「・・・」

「ちょっと出かけてくるね。店番よろしく。隣の古本屋にいるから何かあったら来てね」

御子神は手を離すと、暖簾をくぐって店を出て行った。

「・・・」

瑠璃はそれを見送り、掃除を再開させた。

たくさんの疑問を胸に抱えながら。


「はあ・・・」

「店に来るなりなんだそのため息は」

本を整理している眼鏡をかけた男性が店に入ってきた御子神を見て言う。

「どうしたらいいと思う?」

御子神は店の奥の椅子に座りながら、男性に聞く。

「自分の好きなようにしたらどうだ」

「何も知らないくせに」

「お前が何も言わずに聞いてくるからだろう」

御子神を見もせず、本を整理しながら男性は答える。

「統吾、俺本当にどうしたらいいと思う?」

統吾と呼ばれた男性は本をその場に置くと、御子神の前に椅子を持ってきて座る。

「・・・何があった」

「俺、また雇っちゃったんだよ。どうなるのかわかってるのに」

御子神は机に突っ伏しながらもごもごと言う。

「今度の子は?」

「優しい子だよ。優しくて強くて可愛くて、脆い」

「・・・それで、お前はどうしたいんだ? 今までのやつらと同じようにしたくはないと思ったんだろ?」

統吾がため息を吐いて、腕を組む。

「・・・壊したくない」

「・・・」

「初めてなんだよ。ここまで護りたいって思ったのも、雇って後悔したのも。・・・だって、あの子は普通の女の子なんだよ。ただ馬鹿な男のせいで辛い人生になっちゃっただけなんだから」

顔をあげて、目を細める。

「・・・お前は雇うことでその辛い人生からその子を解放したんだろ? だったら良かったじゃないか」

「良くない。全然良くない」

「巻き込んだ、なんて思ってないだろうな」

統吾が御子神をまっすぐ見る。

「思ってるよ」

御子神はそれを受け入れるように統吾を見る。

「その子に直接聞いたか?」

「まだ言ってない」

「まさか、何も言ってないのか?」

「・・・」

「はあ・・・」

統吾は頭を抱えた。

「お前、不器用すぎるぞ。今までそんなことなかっただろうが」

統吾が睨むように御子神を見る。

「・・・そんな事言ったって仕方がないだろ。俺はそういう奴なんだから」

御子神はふいっと顔を背ける。

「まったく。それで悩んでここに来たわけか」

「・・・」

「長い付き合いになるが、初めてだな。そこまで悩んでる顔は」

統吾が御子神の顔を見て笑う。

「・・・笑い事じゃねえよ」

御子神が眉間に皺を寄せる。

「ははは」

「・・・はあ」

「まあ、なんだ。今日言うつもりなんだろ? じゃないと今来ないもんな」

「ああ」

「正直に話せよ。そうすれば、大丈夫だ。お前の目に狂いはないことを俺は知ってる」

統吾は立ち上がり、また本の整理をし始めた。

「あ、そうだ。その子って何歳なんだ?」

「確か、十七だったかな。高校生だったし」

「花の女子高生を殺したのか?」

「人聞きの悪いことを言うなよ」

むっとした顔で統吾を睨む。

「そういうことだろ」

統吾は軽く笑って本を棚に入れていく。

「とりあえずは、きちんと正直に言って、それからどうするかその子に聞けよ。それでここにいるって言うんだったら、お前が死ぬ気で護れ。護りたいって思ったんだろ? だったら護って護って護りぬけ」

統吾は真剣な目で御子神を見る。

「・・・当然だ」

統吾は満足そうにうなずく。

「犬に言われなくても分かってる」

「犬神だ。馬鹿にしてるのか」

統吾が御子神に厚い本を投げる。

御子神はその本をキャッチする。

「その本、後ろの棚に置いておいてくれ」

「はいはい」

御子神はその本を棚に置く。

「それで、いつになったら帰るんだ?」

「・・・掃除が終わるまでは帰るつもりはない」

「掃除?」

統吾が不思議そうに御子神を見る。

「ああ。店の商品に埃が被っててそれが許せないって掃除を始めたんだよ」

「掃除をしてなかったのか?」

「・・・面倒でやってなかった」

「お前、それでも商売人か? 桜華屋とまでは行かなくてもちゃんと掃除はしろよ」

「・・・」

「あ、そうか。お前の店、客入らないんだもんな。悪い悪い」

統吾が笑いながら、本をきれいに拭いていく。

「・・・消すぞ」

「やれるもんならやってみろ」

統吾が面白そうに御子神を見る。

「はあ・・・帰る」

「おう。邪魔だ早く帰れ」

統吾が笑う。

「それから、いい加減金を入れろ。土地を貸してるんだからな」

「わかってるよ」

御子神はまた一つため息を吐くと、古本屋を出た。


瑠璃はやることもなく部屋でお茶を飲んでいた。

店の中の掃除は終わったし、商品の在庫の数の確認も終わった。

食材は十分にあるし、買い出しする必要はない。

なので、瑠璃は一人茶の間でお茶を飲んでいた。

「暇だな~」

瑠璃は庭をぼんやりと眺めていた。

その時、御子神が帰ってきた。

「おかえりなさい」

「うん、ただいま」

御子神は瑠璃の向かいに座る。

「今、お茶入れますね」

「ありがとう」

瑠璃が台所に立つ。

御子神は小さくため息を吐いた。

瑠璃がお茶を持って戻ってきた。

瑠璃の入れたお茶を御子神は静かに飲む。

御子神も瑠璃も喋らない。

沈黙の時間が流れる。

この部屋にテレビなどの電子機器はない。

二人が喋らなければ、必然沈黙になる。

「・・・」

「・・・」

気まずい雰囲気が流れる。

瑠璃は庭の方向を見て、御子神は反対の店の方を見ている。

「・・・」

「・・・はあ」

瑠璃がため息を吐いた。

御子神が瑠璃をちらと見た。

瑠璃は目を閉じていた。

「もう耐えられません。なんですかこの気まずい雰囲気は」

「なんだろうね」

御子神が苦笑する。

「・・・御子神さん。今、話せないんですか?」

「今か・・・出来れば夜がいいかな。夜のほうが妖怪としてはやりやすいから。あ、でも話しても大丈夫なことは話すよ」

「じゃあ、お願いします。夜まで時間が余っちゃてて・・・」

「そうだね。お客さん全然来ないしね」

御子神が明るく笑う。

「そうなんですよ。掃除をしてる時も、掃除が終わった後も人が全然来ないどころか見向きもしなくて」

「そりゃねえ。君が七十年ぶりくらいのお客様だったからね。次に来るのは多分数十年後だよ」

御子神が瑠璃に微笑みかける。

「・・・そんなのでよくお店続けられますね」

「まあ、そう感じるのは仕方がないけれど。でも、ここら一帯は私の所有地だからね。桜華屋も隣の古本屋も通りの入り口の高いビルも私が土地を貸し出してるんだよ。だから、定期的にお金は入るんだ。それに聞いた噂によると、私が貸した土地に会社を建てると、成功するんだって。だからなぜか競争率が高いらしいよ」

御子神は煙管を吸いながら淡々と言う。

「・・・ちなみにどこからどこまでですか?」

「橋を渡ったところの公園から、反対側の駅の近くまでかな。範囲は正方形にあるよ」

「大地主だったんですね」

「まあね。ここに何もないときからここにいるし。ここには国も介入できないみたいだよ」

「へえ・・・」

瑠璃が驚いたように御子神を見る。

「他に聞きたいことは? 聞きたいことに答えるよ」

驚いている瑠璃を御子神は微笑みながら見る。

「じゃあ、私の前任ってどれくらいいるんですか?」

「そうだね・・・。百二十六人いたよ」

御子神が悲しそうに言う。

「その人たちってみんな私みたいな人たちなんですか?」

「ほとんどそうだね」

「じゃあ、なんで今居ないんですか?」

「・・・」

御子神は黙ってしまった。

「・・・質問を変えます。この店の周辺に桜華屋の奥さんたち以外に妖怪はいるんですか?」

「いるよ。隣の古本屋の店主は犬神の妖怪だし、公園の先の高い所にある神社の神主は狛犬の妖怪だし、他にもたくさんいるよ」

御子神が指を折りながら言っていく。

「へえ。思った以上に妖怪ってたくさんいるんですね」

「まあね。人間の中には妖怪だって知らずに結婚する人もいるし。純粋な妖怪より半妖のほうが多いかもね」

「そうなんですか。・・・他に聞きたいことって、多分夜じゃないと聞けないんですよね」

瑠璃が考えるように唸る。

「じゃあ、どうしようか」

「うーん・・・」

瑠璃は考えるように目を閉じ、御子神は瑠璃の答えが出るまで静かに待つ。

「やっぱり、やめておきます。とくに浮かばなかったし」

「そうかい?」

「はい」

瑠璃は微笑む。

「何か欲しいものはある?」

「何でですか?」

「夜まで暇だし、何か欲しいものがあるなら買い物しに行けばいいかなと思って」

「・・・また着物でですか」

「それが嫌だろう? だったら洋服を買いに行こう。そうすれば少しはマシになるだろうから」

「洋服・・・欲しいです。でも、あとできちんとお金は返しますから」

「いらないよ。取引条件にあるだろう? 君に有利な条件・環境を提供するって。だから服も環境のうちさ。それでも返すというのなら、給料から引いておくよ」

「・・・それでお願いします」

「わかった。じゃあ、服を買いに行こうか。あ、でも私には服の良し悪しなんてわからないから自分の好きなように選んでね。値段とかは気にしなくていいから」

御子神が立ち上がりながら言う。

「え、でも・・・」

瑠璃が困ったように中腰の姿勢で止まる。

「いいからいいから」

御子神は笑みで返す。

それに何も言えなくなった瑠璃はうなずくだけした。


通りの中にあるお洒落で大きな洋服屋に瑠璃と御子神は入っていく。

瑠璃は目を輝かせて、服を見ている。

御子神は店の奥の休憩スペースに座って、店の中を右往左往している瑠璃を見ていた。

「お客様は一緒にご覧にならないんですか?」

「私には女性の服なんてわからないからね。自分で選んだほうがいい」

「そうですか? 一緒に選んだほうが楽しいと思いますが・・・」

店員の女性が瑠璃を見ながら言う。

「御子神さん!」

御子神が店員と話しているとき、瑠璃に呼ばれた。

「呼ばれたときに行けばそれで充分だと思うけどね」

御子神はそう言って、店員から離れていく。

店員はその背中を送った。

「どうしたの?」

「これ、御子神さんに似合うと思って」

瑠璃が男物の洋服を見せてくる。

それに困ったような顔をする。

「洋服はなあ、私着たことがないから着方がわからないんだよ」

「じゃあ、試しに着てみてくださいよ!」

「といってもねえ」

困ったような顔のまま笑う。

「店員さん、試着したいんですけどいいですか?」

「ちょ、ちょっと、瑠璃ちゃん?」

瑠璃は御子神を気にすることなく、店員と話をしている。

「ありがとうございます」

話し終えたらしい瑠璃は御子神の腕を引っ張っていく。

「本当に着方わからないんだけどな」

御子神は頬をかく。

「着方は教えますから。これはこうやって着て、このズボンはこうやって着るんです。覚えましたか?」

瑠璃が身振り手振りで教えていく。

「・・・どうしても着なくちゃいけないかい?」

「いけません!」

「・・・わかった」

瑠璃はその返答に満面の笑みで返す。

御子神は困った表情のまま瑠璃の手から服を受け取り、試着室に入っていく。

数分して、御子神が試着室から出てきた。

「こ、こんな感じでいいのかな?」

おどおどした感じで御子神が試着室から出てきた。

瑠璃はその姿を見て、頬を赤く染める。

「それでバッチリです! すごくかっこいいですよ!」

「そ、そうかな・・・。なんか恥ずかしいな」

御子神は着なれない洋服で恥ずかしそうに笑う。

その時、通りがかった店員が御子神の姿を見た。

「お客様! とてもお似合いですよ。ここまでその服が似合う人は本当に初めて見ました」

店員も頬を赤らめながら感嘆する。

「そうなのかな・・・わからないな」

御子神は自分の服装を確認する。

見た感じでは若者が着るような服だ。

でも御子神自身は若者と言えるような年齢ではないため、若者の恰好が恥ずかしい。

「店員さん、これ買います!」

「ちょ、瑠璃ちゃん?」

「似合う服があったんですよ? 買わないと! それに着物だけじゃなく洋服も着てみるといいことがあるかもしれないですよ!」

瑠璃は目をキラキラさせながら、言う。

それに圧倒された御子神は従うしかなかった。

それから、瑠璃は何着も御子神に着せた。

まさに着せ替え人形。

そして、それらすべてを購入。

瑠璃自身も試着して何着も洋服を購入していた。

それには御子神も女の子だな、と感心していた。

服を選んでいたら、いつの間にか夕方だった。

「ありがとうございました~」

店員の明るい声に見送られ店を出る。

御子神と瑠璃の腕には抱えきれないほど洋服の入った袋。

御子神自身こんなに服を買うとは思っていなかったらしく、すごく驚いたと同時に疲れた。

瑠璃は対照的に生き生きしている。

「楽しかったですね~」

「・・・そうだね」

疲れた表情で御子神は答える。

御子神は初めて若い子との年齢の差を感じた。

「・・・もうそろそろ夜になりますね」

「うん。月も高く昇ってきたし、そろそろかな」

御子神が月を見る。

見事な満月だ。

周りを見ていくと、徐々に店を閉めていっている。

「いつも思ってたんですけど、この通りってお店が閉まるの早いですよね」

「まあね。私が営業時間を限定しているから。それ以上の営業は出来ないようになってる。ずっと昔からね」

御子神が閉まっていく店を見る。

「夜っていうのは妖怪の活動時間だ。当然、私も妖怪だし夜のほうが活動しやすいんだよ」

「そうなんですか」

「うん」

御子神と瑠璃が家に着いた時には、ほとんどの店が閉店していた。

「そういえば、このお店は夜に閉店しないんですね」

「まあ、君みたいに夜来るお客さんのほうが多いからね。夜まで開けてないと、折角のお客さんを逃すことになってしまうだろう?」

瑠璃に微笑みかける。

「ああ、なるほど」

御子神が店を開け、瑠璃を中に入るように促す。

瑠璃は促されるまま中に入る。

「真っ暗で何も見えませ・・・きゃっ」

ガタっという音がした後、瑠璃が倒れそうになった。

「おっと」

御子神がなんとか受け止め、瑠璃は倒れずに済んだ。

「大丈夫かい?」

「は、はい」

御子神は瑠璃を起こすと、きちんと立たせる。

「今、明かりをつけるから待っててね」

御子神の足音が遠ざかっていく。

それを追っていくと、店の奥の部屋に電気が灯った。

「これで大丈夫かな」

瑠璃はその明かりを頼りに店の奥に行く。

御子神はすでに荷物を部屋の隅に置いていた。

「御子神さんには見えてたんですか?」

「見えてたよ」

御子神は微笑みながら座る。

瑠璃も向かいに座る。

「とりあえずは、荷物を置いて、夕飯を食べてから話そうか」

「そうですね。じゃあ、洋服の選別をしちゃいましょう」

瑠璃は荷物を一つ一つ開けていく。

御子神はそれを見ながら煙管を吹かす。

「よし。選別終わりました!」

瑠璃が御子神の服が入った袋を御子神に差し出す。

「これが御子神さんの洋服です。こっちは私の」

満面の笑みを浮かべて、洋服を見る。

「こんなに買って・・・楽しかったみたいでよかったよ」

御子神は自分の服を困ったように見る。

「箪笥に入るかな・・・」

呟くように御子神が言う。


御子神と瑠璃がそれぞれ自分の部屋に洋服を置きに行く。

御子神は早く部屋に戻ってきた。

瑠璃はそれから十数分遅れて戻ってきた。

御子神は先に戻って、煙管を吹かしつつ店じまいをしていた。

「今、お夕飯作っちゃいますね」

瑠璃はそう言って、台所に向かう。

御子神はそれを見送り、店を閉め、商品に布をかぶせていく。

「随分と振り回されてるなあ」

自分自身に苦笑する。

店じまいをし終わり、部屋に戻る。

台所の方からは、リズムのいい音が聞こえる。

それに耳を傾ける。

御子神がここに住むようになってから初めての和やかな時間。

今まではほとんど無音に近かった。

自分ひとりでここに住んで、お客もそうは来ず、いつも静寂しかなかった。

でも、瑠璃と出会ってたったの三日でこの家にたくさんの音が聞こえるようになった。

生活感を感じることのできる音。

御子神とは無縁だったもの。

御子神にはひどく似つかわしくなかったもの。

目を閉じ、料理をする音を聞きながら細く息を吐く。

ゆっくりと目を開け、夜闇に浮かぶ満月を見る。

「・・・きっと、逃げてしまうだろうな。あの子が元気に暮らせるというなら私はそれでもいい。いや。むしろそっちのほうがいいのかもしれない」

御子神は満月を見ながら小さく呟く。

「すべてはあの子の気持ち次第、か・・・」

その時、瑠璃がお盆を持ってやってきた。

「お夕飯できましたよ」

お盆の上の物を座卓に並べていく。

御子神は微笑みながらそれらを見ていた。


夕飯を食べ終え、一息をついている時。

「・・・そろそろ話そうか」

御子神が小さく言う。

それに瑠璃は御子神を見る。

「はい」

瑠璃は姿勢を正し、御子神に向き合う。

「まず取引内容で隠していること。三つほど取引条件を提示したのは覚えてる?」

「はい。一、私の魂を買い取る。一、私に有利な条件・環境を提示する。一、私の魂を買い取ったのち、御子神さんの下で働く。でしたよね」

指を折りながら述べる。

「うん。その中の最後の一つが一番重要なんだ」

「御子神さんの下で働く、がですか?」

「うん。それに隠していることがある。私に魂を買い取られ、私の下で働くことになった者にはある使命が下される。それは、『御子神本人を敵から命をかけて護ること』だよ」

御子神が真剣な表情で言う。

「御子神さんを・・・護る?」

瑠璃が首を傾げる。

「そう。私が妖怪なのは知っているだろう?」

瑠璃がうなずく。

「私は妖怪の中でも特別でね。どんな妖怪かはまだ言えないけれど、とりあえず言えることはある」

「それは一体なんですか?」

「私は人間が誕生する前、日本神話の伊邪那岐と伊邪那美、創世神話のアダムとイブの誕生する以前からこの地に住まう妖怪。私には国を滅ぼす力も生み出す力もある」

瑠璃は驚いたように御子神を見る。

その視線を受け入れながら御子神は続ける。

「だから、私には敵が多い。私の力に恐れる者。私の力を奪おうとする者。それらから私は常に狙われる。今の時代となっては私の力を利用しようとする者が多いけどね。そして、狙うのは妖怪であったり、人間であったり、天上に住まう者だったり色々だよ。でも、ここ数千年は妖怪に狙われてばかりだ。そこで、私は魂を買い取り自分を護らせる者を作った」

「それが私、なんですね」

「ああ。私は狙われる。だから、敵から私を護るために魂を買い取り雇った。君の前任にあたる百二十六人は皆、私を護るために散って行った・・・」

「で、でも、私みたいに魂を買い取った場合、魂を回収されない限りは死なないって・・・」

「そう。魂自体が消滅しない限りは死なない。でも、百二十六人は魂を喰われ、天にも黄泉にも行けず、私を狙い続ける妖怪の腹の中にいる」

御子神は顔を伏せる。

「・・・」

「だから、君もいずれは私を護って死ぬことになるかもしれない。君には選択肢がある。もし、死ぬのが嫌ならここを出て行ってくれて構わない。取引は無効にするから」

御子神は表情のない顔で瑠璃を見る。

「ここにいます」

「え?」

「私にはここ以外に帰る場所も居場所もありません」

瑠璃は凛とした態度で御子神を見る。

「でも・・・」

「私には、瑠璃には御子神さん以外に知り合いはいません。御子神さんが邪魔だと言わない限りはここを出ていくつもりはありません」

御子神を見れば、困ったような顔をしていた。

「・・・」

「御子神さんにとって私は邪魔ですか?」

瑠璃が御子神を真剣な目で見る。

「・・・邪魔なんかじゃないよ」

御子神は悲しそうに微笑む。

「じゃあ、ここにいてもいいですよね?」

「・・・本当にいいの? ここにいることを選べば、死んでしまうかもしれない。やっと過去を捨てられたのに、それ以上に辛い人生になるかもしれない。それでもいいのかい?」

御子神が探るように瑠璃を見る。

「構いません」

瑠璃が毅然と言い放つ。

「・・・」

御子神が苦しそうな表情をした後、顔をそらす。

「まったく、この子は・・・」

「それに、私がいないと御子神さん、ちゃんとした生活を送らないような気がするんですよね」

考えるように瑠璃が上を向く。

「・・・瑠璃ちゃんは強い子だね」

「そうですか? そうは思ったことないですけど」

きょとんとした表情で瑠璃は言う。

それに御子神は軽く笑った。

「そうだよ。ここにいると言ったのだからもう一つ隠していることを言わないとね」

「もう、なんですか」

呆れたように御子神を見る。

「その体」

「?」

「瑠璃ちゃんの魂の入っている器のその体は自動的に敵を探知して、私を護ろうとするんだ」

「へえ。それは便利ですね。でも、戦う手段なら私も持っていますよ」

「?」

御子神が首を傾げる。

「私の実家は合気道の道場なんですよ。戦う手段と言うよりは護る手段と言った方がいいかもしれません」

「そうだったんだ」

「はい。だから、御子神さんのことは護ってみせます!」

瑠璃がガッツポーズをして見せる。

「ははは・・・まったく、君には敵わないな。よし、私がどんな妖怪か教えてあげる」

御子神が大きな声で笑う。

「本当ですか!?」

目をキラキラさせながら御子神を見る。

「うん。でも姿は見せないよ? 何かがないと姿を見せないことにしてるんだ」

「へえ。それで何の妖怪なんですか」

「狐だよ」

「狐・・・九尾の狐とかっていますよね」

「私の尾も九つあるよ」

「まさに九尾の狐なんですね!」

「ちょっと違うけど、まあそういうことかな」

楽しそうにしている瑠璃を見て御子神は微笑ましそうにしている。

「あ、他に隠していることとかないですよね?」

「・・・」

御子神は無言で視線をそらす。

「あるんですね?」

「・・・」

「まあ、いいでしょう。どんなことがあってもここを出ていくつもりはないですから」

瑠璃は笑みを浮かべる。

それに驚いたような表情をして、瑠璃を見る。

「でも、いつかは狐の姿も見せてくださいね。私、狐好きなんです。触ってみたくて・・・」

「・・・いつかね」

期待のこもった視線で見られ、困った表情をする。

「とにかくはこれで話は終わりですよね。じゃあ、次の話をしましょう」

「次の話?」

「お店のことです。定期的にお金が入るとはいえ、お店なんだからちゃんと商売をしたいんです」

「うん」

「それで色々提案が・・・」

瑠璃はお店のことを色々提案していき、それに御子神はうなずいていく。

瑠璃は御子神に隠されていることを知った。

それでも、ここにいることを瑠璃は選んだ。

御子神はまだ瑠璃に隠していることがある。

それでも、瑠璃は気にしない。

それに御子神は感謝していた。

これから起こるであろうことを危惧しながら・・・。


読み終えた皆様、お疲れ様でした。




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