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隠し事と不穏な影

瑠璃の仕立てが終わり、御子神と瑠璃が並んで歩く。

まだ早朝のおかげで歩いている人は少ない。

だが、少ないといっても通勤していたり、ジョギングしていたり、犬の散歩していたりと人はいる。

その人々が必ず、御子神と瑠璃を見る。

珍しい着物を着ているからだと、御子神は自分自身に言いかけるが、どうやらそれ以外の要因もあるようだ。

すれ違う人は瑠璃を頬を染めて見ている。

それに気付いている瑠璃は御子神に隠れるように歩く。

「・・・大丈夫?」

「大丈夫じゃないです。着物を着ている人ってこんなに見られるもんですか?」

「うーん・・・。私は滅多に外を出歩かないからなぁ」

御子神は苦笑する。

「着物というより瑠璃ちゃんを見ている気はするけど」

御子神がまわりのこちらを見る人々を見る。

視線はやはり御子神の背後にいる瑠璃に向いているようだ。

「瑠璃ちゃんが可愛いからみんな見るんだよ」

「・・・お世辞は結構です」

「あはは。・・・私はお世辞を言ったつもりはないんだけどなあ」

御子神が小さく言う。

「何か言いましたか」

「いや」

「それよりも、いち早く帰りたいです」

「そうだね。確かに・・・」

御子神が周りを見る。

「この視線は煩わしいね」

いつもの軽い口調とは違い、本当に鬱陶しそうな声で御子神が言う。

「少し、黙ってもらおうか」

御子神がそう言って、指をひゅるりと動かす。

すると、今まで瑠璃を見ていた人たちが興味を無くしたように過ぎていく。

「何をやったんですか」

「ん? ん~、みんなから瑠璃ちゃんへの興味を無くしたと言ってもいいし、私たちを認識できないようにしたと言ってもいいかなあ」

御子神が曖昧に笑う。

その軽い口調に瑠璃は小さく笑った。

「やっぱり、御子神さんって妖怪なんですね」

「そうだよ。もしかしたら君の先祖と会ってたかもしれないね~」

御子神が袖の中で腕を組み、微笑む。

瑠璃は御子神の後ろから隣に出て、微笑む御子神の顔を見る。

それを見ているとこちらも自然と柔らかい表情になる。

御子神の横顔を見ていると、御子神が瑠璃を見た。

「ん?」

「何でもありません」

瑠璃が嬉しそうに歩いていく。

御子神は不思議そうに瑠璃を見て、また微笑んだ。


その後、御子神と瑠璃は早朝からやっている八百屋に行き、一日分の食材を買った。

「瑠璃ちゃん。私が荷物を持つよ」

「結構です。お金を支払っていただいたんですからこれくらいはしないと」

瑠璃は野菜や米などの入った袋を重そうに抱えている。

「でも、女の子にそんな重いもの持たせてられないよ」

御子神は半ば無理やりに瑠璃の手から荷物を取る。

不服そうに御子神を見る。

それを気にせず御子神は微笑む。

瑠璃はそれに口を尖らせるが、何も言わない。

その様子に御子神は小さく笑った。

でもすぐに顔を引き締め、

「瑠璃ちゃん。今夜ちょっと話があるんだけどいいかな?」

と少し声を低くして言った。

「?」

瑠璃が不思議そうに御子神を見る。

「実は君に隠していることがあるんだ」

御子神は珍しく暗い表情で瑠璃を見る。

「隠していること? 御子神さんのことでですか?」

「いや。君との取引のことでだよ」

「取引?」

「ああ。詳しくは今夜話すよ。今日は丁度満月だからね」

御子神は空を見る。

朝なのだから月はない。

瑠璃はなんとなく重い話なのだと察すると、頷いた。

「・・・わかりました」

「・・・ごめんね」

「何がですか」

「・・・」

御子神は悲しそうに笑うだけで答えない。

瑠璃はその表情を見て、明るく笑う。

「それよりも、朝食は何がいいですか? やっぱり和食ですか?」

「・・・作ってくれるの?」

「じゃなきゃ、食材を買いませんよ」

瑠璃は微笑む。

それにつられるように御子神も笑った。

「そうだなあ。じゃあ、味噌汁がいいな。あ、でも納豆はちょっと・・・」

「納豆嫌いなんですか? 栄養満点なのに」

「嫌いというか苦手でね。なんというかあの匂いが・・・」

御子神があははと、ごまかすように笑う。

「え~、おいしいのに」

瑠璃が不服そうに答える。

「好き嫌いは駄目ですよ。なので朝食は味噌汁とごはんと納豆です」

瑠璃がきっぱりと言う。

「え・・・」

「料理担当の私が決めたことですから覆りませんからね」

瑠璃がしたり顔で御子神を見る。

それに御子神は溜息を吐いて微笑んだ。

「仕方ないね。私は料理できないし。そういうところは瑠璃ちゃんに任せようか」

そう言うと瑠璃はなぜか嬉しそうに笑った。

「やっぱり、御子神さんといると安心します」

瑠璃が御子神の隣で優しく微笑む。

「そうかい?」

「はい! 最初は男の人が怖かったですけど、御子神さんと会ってからは怖くありません」

「・・・」

御子神は静かに瑠璃の頭を撫でる。

「・・・大丈夫。私が君を傷つける者から護るから。君は、人を嫌いになってはいけないよ?」

「嫌いになったりしません。妖怪も、人間も温かい人たちばかりだから」

「・・・そうだね」

御子神は微笑んで、頷く。

二人は微笑んだまま家路をゆっくりと歩く。

いつのまにか、通りには人の姿が多くなっていた。



「・・・」

通りにある高い建物の上に黒い影がある。

その黒い影は笑うように揺れると、霧のように消えた。



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