名前
「さあ、お目覚めだよ」
御子神が目の前にある、薄緑色の液体の入った筒状の巨大な機械を見上げる。
その機械の中には黒髪の少女が浮いている。
御子神の言葉に反応して、少女が少しずつ目を開ける。
少女の瞳は瑠璃色に輝いている。
少女の意識が覚醒するにつれて、機械から液体が抜けていく。
そして、完全に液体が抜けると機械が開き、外に少女が出てくる。
出てきた少女を御子神がやさしく受けとめる。
「話せる?」
御子神が腕の中の少女に聞く。
「・・・はな、せます」
少女は咳き込みながら答える。
「よし」
御子神は少女を椅子に座らせる。
「体がちゃんと自分の意志で動くか確認してみて」
少女はうなずく。
そして、手、腕、肩、足・・・と動かしていく。
「ちゃんと動きます」
少女が力強く答える。
「良かった。成功したみたいだね」
御子神が微笑む。
少女は安堵したような表情を浮かべる。
「いつまでも、その濡れた着物じゃ風邪をひいてしまう。そっちに着替えがあるから着替えておいで」
御子神が指差した方向を少女は見て歩いていった。
少女は御子神から見えないところで、着替え始める。
御子神は使用した器具を片し、電源を切っていく。
「ところで、私の入ってた機械ってどうしたんですか?」
少女が遠くから聞いてくる。
「私が作ったんだよ」
御子神がするりと言う。
「えぇ!?」
少女が驚いた声を上げる。
「ふふふ。驚いた? 言っておくけど、嘘じゃないよ」
御子神が器具を片し終え、入り口近くの椅子に座る。
「・・・嘘でしょう?」
「本当だよ。人より遥かに生きてるんだ。それくらいの知識はある」
御子神が少し心外だというふうに声に険を持たせる。
「御子神さんってすごいんですね」
少女が着替え終えたのか、姿を現す。
「そうだよ」
御子神はうなずく。
「着物ってあまり着たことがないので、こんなのでいいんでしょうか」
おずおずと少女が尋ねてくる。
「うん。大丈夫。似合ってるよ」
御子神が柔らかく微笑む。
「良かった」
「さてと、落ち着いたところで色々説明するよ」
御子神が少女に椅子を勧める。
少女は御子神の座っていた椅子に座り、御子神は椅子を持ってきて少女の前に座った。
「最初に君のその体の説明ね」
「はい」
「その体は人形のようなものだから、壊れても修復できる。でも血は出るし、痛みも普通にあるから注意」
少女は真剣に聞いてうなずく。
「まあ、ほとんど普通の人間と変わらないよ。人並みに子を作ることもできるし、肉体的成長もできる。ただ、違うといえばさっきも言ったけど、腕がもげようが、頭が吹っ飛ぼうが治せる。だから、死ぬのは難しいかな。それこそ、魂を回収されないかぎりは」
少女は頭の中に御子神の言ったことを刻んでいく。
「何か質問は?」
御子神は教師のように聞く。
少女は逆に生徒のように手を挙げる。
「私の名前はなんですか? だって前の名前は使えないし」
「あ、忘れてた。君は何がいい?」
「急に振られても・・・。うーん・・・」
少女は考えるように眉間に皺を寄せる。
御子神も同じように考える。
「身体的特徴から言うなら、瑠璃とか」
少女の瞳を指差しながら御子神は言う。
「瑠璃?」
御子神は少女に鏡を渡す。
「ああ、なるほど。確かに瑠璃色ですね」
少女は納得したように頷き、鏡を御子神に返した。
「じゃあ、瑠璃でいいです」
「あっさりだね。本当にそれでいいのかい?」
「はい。名前にあまり頓着はしないですし」
「そうか。じゃあ、瑠璃ちゃん。今日からよろしく」
御子神が手を差し伸べ、握手を求めてきた。
「はい。よろしくお願いします。御子神さん」
伸ばされた手を掴んだ。
少女―――瑠璃は微笑んだ。




