取引
いらない命、と少女は呟いた。
「取引の条件はあなたにとって有利にしたい。だから、今まであったことをすべて話してください。きっと、すっきりしますよ。当然、口外は一切しません。約束します」
御子神は真っすぐ少女を見て言う。
少女と御子神は数瞬の間、見合った。
そして、少女はぽつぽつと話し始めた。
御子神は真剣に聞いていた。
話し終え、少女はうつむく。
「・・・そうですか。そんなことが。・・・大丈夫ですか?」
御子神は心配そうに少女に尋ねる。
「大丈夫・・・ではないかもしれません」
少女が少し辛そうな笑みを向ける。
御子神は苦しそうな顔をする。
「・・・思い出したくもないことを、話させてごめんなさい」
御子神が少女に頭を下げる。
「いえ、そんな・・・話せて良かったです。こんなこと親に話せなくて・・・」
「一人で抱えてたんですね。・・・もう大丈夫ですよ。そんな奴らもういませんから」
御子神が少女に笑いかける。
少女もつられるように笑った。
「笑った」
嬉しそうに御子神が満面の笑みを少女に向ける。
「ふふ。なんだか、あなたといると安心するし、何でも話せる気がします」
少女が少し照れながら言う。
「そうですか?」
少女は笑いながらうなずく。
「よし。じゃあ取引をしよう」
「はい」
「まず、こちらが先に取引条件を述べます。何か不満があったら言ってください」
「わかりました」
少女の返答に御子神がうなずく。
「一、あなたの魂を買い取る。
一、あなたに有利な条件・環境を提示する。
一、あなたの魂を買い取ったのち、私の下で働く。
これだけです」
御子神が条件を言うたびに指を立てる。
「なにかありますか?」
「あの、具体的にどうやって魂を買い取るんですか?」
少女が挙手して聞く。
「知りたいですか?」
少女はこくりとうなずく。
「・・・。あなたを、殺します」
御子神が少し声を潜めて言う。
「そして、魂を別の器に移し、終わりです」
「殺す・・・?」
「はい。生きているまま魂を取り出すと、人間的に面倒なことになりますから」
「面倒なことと言うと?」
「魂のない肉体は、植物状態いわば廃人になります。魂はなくとも肉体は生きようとしますから」
御子神は淡々と答える。
「それに、これはあなたにとっていい条件だと思います」
「え?」
「あなたは自分の体は汚れていると思っているでしょう? あんなことがあったんです。当然でしょうが」
「・・・」
少女はうつむく。
「なので、肉体を過去を存在を捨て、新しい自分として生きるのはどうでしょう? 器は選べますし」
御子神が微笑む。
「・・・じゃあ、その条件でお願いします」
少女が頭を下げる。
「取引成立ですね」
御子神はそう言って、少女に手を差し出す。
その差し出された手を少女はつかんだ。
「ちなみにどうやって殺すんですか?」
少女は少し首を傾げる。
「事故死を装うかと思います。殺人は人間的にいろいろ面倒ですから。あ、自殺も同じですからね。ご家族に迷惑をかけたくはないでしょう?」
少女はうなずく。
「ただ、殺すときちょっと苦しいかもしれません」
御子神が苦しそうに顔を歪めながら言う。
「構いません。私が消えることができるなら」
少女の強い光を宿した目が御子神を見る。
「強い人ですね」
御子神はやさしく少女の頭を撫でる。
少女はくすぐったそうに微笑み、頭を撫でる手を振り払わなかった。
「とりあえず、今日は家に帰ってくださいね。家族と過ごすのは、今日が最後ですから」
「明日、なんですね」
「はい。明日、あなたは消えます」
御子神が真剣に言う。
「わかりました。存分に家族に甘えてきます」
少女が満面の笑みを御子神に向ける。
「心残りがないようにね」
御子神も答えるように微笑んだ。
「そうだ。あの、これ・・・」
少女は自分の着ている羽織をつかんだ。
「あげるよ」
御子神は微笑みを崩さないまま、答える。
「ありがとうございます!」
少女が嬉しそうに笑う。
「さあ、お帰り」
御子神がやさしく、帰るように促す。
「はい!」
少女は満面の笑みで駆けていった。




