出会い
「・・・」
少女はとぼとぼと俯きながら歩いている。
彼女の表情は暗く沈んでいる。
前から見れば、その表情はわからないのだが、彼女の纏う雰囲気で容易に察することができる。
「・・・」
少女は人気のない橋を渡りはじめた。
だが、橋の真ん中あたりで彼女は止まった。
そして、橋の下を覗き込んだ。
川は昨日の雨で茶色く、流れが早い。
「・・・・・・・・・・・・かな」
少女は何かを呟いた。しかし、あまりに小さな声だったので聞き取ることはできない。
彼女は橋の欄干に手をかけ、体を乗り出す。
少しでも背中を押されれば、川に真っ逆さまだ。
それを考えたであろう少女は、欄干から離れた。
「また・・・・・・死ねなかった」
少女はまたとぼとぼと歩きだした。
とぼとぼと沈んだ雰囲気を纏って歩いている少女の姿を見れば、誰もが何かがあったのだろうと容易に想像できる。
少女の制服は所々破け、汚れている。そして、少女の体には傷が多く刻まれていた。
今が夜でなければ、警察に呼び止められていただろう。
彼女は人気のない道を歩く。
街灯もなく、店は閉まっている。ふと視線を上げてみると、一軒だけ明かりが灯っていた。
引き寄せられるように少女は近づいていく。
周りに比べたらとても古い建物だった。
その店の隣にも古い建物はあるが、この店に比べたらまだ新しく思える。
時代で言えば、目の前の店は江戸時代に作られ、その隣の店は昭和に作られたような差があった。
少女は店の中を覗き込んだ。
「入っておいで」
突然店の中から声をかけられ、少女はビクッとする。
少女が声のしたほうを見ると、長髪で二十代半ばだと思われる着物を着た男性が微笑んでいた。
少女はじりっと後退りし、走り去ろうとした。
「行ってしまうのかい? 残念だなあ」
男が心底残念そうにうつむく。
それにちくりと罪悪感を感じた少女は荷物で姿を隠しながら、入り口で男に小さく、
「あの・・・今は入れるような姿じゃないので、明日でもいいですか?」
と聞いた。
すると、男は顔を上げ、
「ごめんね。明日には店仕舞いにしようかと思ってるんだ。明日じゃ、もういないかもしれないんだ」
と、言いながら男は少女に近づいてくる。
「だから・・・今日にしてくれるかな? それに姿なんて、こうしちゃえばわからないし」
そう言いながら、男は少女にふわりと自分の着ていた羽織をかけた。
驚いたように少女が男を見る。
「ね? さあ、自由に見ていっていいよ。うちは何でもあるから」
男は少女の背を店の中へと押す。少女は促されるまま、店の中へと足を進める。
男は少女を店の中に入れると、店の奥の部屋で煙管をふかしはじめた。それを横目でちらりと見たあと、羽織を握って体を隠すようにしながら、店の中を見て回る。
その姿を男が少し口角を上げて見ているとも知らずに。
「あの・・・」
少女がおずおずと尋ねる
「何かお探しで?」
男は煙管を置いて、少女に近づく。
少女は数歩後退さった。
男は部屋と店の間の段差に腰掛けた。
「それで、何をお探しで?」
「ロープ・・・というか、縄というか・・・」
「縄ですね。何に使うんです?」
「・・・」
「まさか、自殺、とかではないですよね。すみません、冗談です」
男がおどけたように笑う。
「・・・」
少女は無言で視線をそらす。
「・・・冗談ですよね?」
男が気まずそうに聞く。
「・・・」
「・・・・・・・・・やっぱりそういう客だったか」
男が顔を手で覆う。
「?」
少女は困惑したように、男を見る。
「ふう・・・」
男は段差から立ち上がると、少女の前に立つ。
「私の名前は御子神と言います。この店はいわくつきで、この店に来るのはなにかしらある人ばかりです」
「・・・なにかしら?」
「ええ。例えば、重い過去を抱えていたり、犯罪者だったり、人間でなかったり・・・」
御子神は思い出すように答える。
「に、人間でなかったり・・・?」
「そうです。妖怪というのは信じますか?」
「妖怪?」
「ええ。かくいう私も妖怪なのですけど」
御子神は怪しい笑みを浮かべる。
「!」
少女はまた数歩さがった。
「ああ、恐がらないで。私はあなたに害なすつもりはありませんから。でも、なんとなくあなたのことはわかりました」
「どういう・・・」
「あなたは暗く重い過去をお持ちですね?」
「!」
少女は体を隠すように、羽織を握る手を強める。
「な、なんのことですか?」
動揺したように聞き返す。
「図星ですね」
その言葉に少女はうつむく。
御子神は溜め息をついた。
「死にたいのでしょう? だったら、取引をしませんか?」
御子神が急にそんなことを言ってきた。
それに、少女は目をぱちくりさせる。
「取引?」
「はい。そのいらない命、私にくれませんか?」




