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序の章

「はあ・・・今日もお客がこないなぁ」

長髪で和服を着ている男が店と部屋を仕切る段差に腰掛けて、溜め息をつく。

「一番最後にお客が来たのはいつだったか・・・。確か、六十・・・いや、七十年前か?」

男はふむとあごに手を当て、店の暖簾をくぐった。

「今思えば、この町も昔と随分変わったな」

店先で腕を組みながら、周りを見る。

昔は低い建物ばかりだったのに、今は高い建物が多くなった。

この一帯で変わらない建物は男の店とその店の隣の古本屋、そして向かいの呉服屋のみだ。

それ以外はすべて作り替えられてしまった。

「・・・昔はそれなりにお客が入っていたんだがなぁ。まあ、昔に比べれば数段明るくなったんだから仕方がないか」

男はそう呟くと店の中に戻っていった。

店の中を見てみると、ところどころ埃が溜まっている。

「面倒だな」

そう言って、店の奥に男は引っ込む。男は部屋の中で煙管をふかしていた。

男は掃除する気はないらしい。

畳の上に正座をして、動かない。積極的にお客をとるつもりもないらしい。

男はただお客が来るのを待つだけ。

「さて、次に来るお客はどんな人間かな。あと何年後に来るかはわからんが」

男は口角をあげて、にやりと笑った。

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