1/22
序の章
「はあ・・・今日もお客がこないなぁ」
長髪で和服を着ている男が店と部屋を仕切る段差に腰掛けて、溜め息をつく。
「一番最後にお客が来たのはいつだったか・・・。確か、六十・・・いや、七十年前か?」
男はふむとあごに手を当て、店の暖簾をくぐった。
「今思えば、この町も昔と随分変わったな」
店先で腕を組みながら、周りを見る。
昔は低い建物ばかりだったのに、今は高い建物が多くなった。
この一帯で変わらない建物は男の店とその店の隣の古本屋、そして向かいの呉服屋のみだ。
それ以外はすべて作り替えられてしまった。
「・・・昔はそれなりにお客が入っていたんだがなぁ。まあ、昔に比べれば数段明るくなったんだから仕方がないか」
男はそう呟くと店の中に戻っていった。
店の中を見てみると、ところどころ埃が溜まっている。
「面倒だな」
そう言って、店の奥に男は引っ込む。男は部屋の中で煙管をふかしていた。
男は掃除する気はないらしい。
畳の上に正座をして、動かない。積極的にお客をとるつもりもないらしい。
男はただお客が来るのを待つだけ。
「さて、次に来るお客はどんな人間かな。あと何年後に来るかはわからんが」
男は口角をあげて、にやりと笑った。




