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瑠璃の覚悟

また夢をみた。

今度はこの夢がどんな意味を持っているのか知っている。

だから、足を止めるようなことをしたくない。

足を止めてしまえば、自分が食われるということ。

そうなってしまえばもう、御子神を護ることができなくなる。

また、護れない。

そんなのは嫌だ。

まだあの影を倒せるほどには強くなっていない。

むざむざ影に食われるようなことはしたくない。

どうせなら、影を倒してから死にたい。

それなら御子神を護れるから。

過去の守護者たちと同じ結果になって、御子神を傷つけたくない。

それでも体は勝手に動く。

振り返りたくないのに振り返ってしまう。

もう影はすぐ近くにいるのだろう。

気配を近くに感じるのだから。

ゆっくりと体は振り返った。

振り返った先には影がいるはず。

目線が振り返った先を見る。

「・・・え?」

信じられないという風に目を見開く。

影は追うのをやめ、瑠璃の前に立つ人物をにやりと見ていた。


ゆっくりと瞼を開けると、見慣れた天井がある。

頭がすっきりとしない。

額に一筋汗が浮かぶ。

それを拭いながら上体を起こす。

見た夢の光景が頭から離れない。

頭がぼうっとする。

その時、足音がした。

「おい、瑠璃。いつまで寝てるつもりだ」

障子の向こうから不機嫌そうな御子神の声がする。

それにハッとして、顔を叩く。

一拍おいて、障子がスパンと開けられる。

「瑠璃!」

障子のところには鬼の形相を浮かべた御子神がいる。

それに少し驚いた表情をして、

「勝手に入らないでください!」

と声を上げる。

「勝手に入られたくなかったら早く起きろ」

そう言って、御子神は戻っていった。

「はあ・・・。変な顔じゃなかったかな・・・」

気分が沈んでいく。

夢の光景が表情を暗くする。

それでも、気分を入れ替えなければ。

御子神に心配をかけるわけにはいかない。

もう一度、顔を両手でパンッと叩く。

「・・・よし!」

瑠璃は身支度を整え始めた。


「・・・」

御子神は食卓に並んだ料理を前に胡坐をかいて座っている。

「すみません、遅くなりました」

瑠璃がゆっくりと食卓につく。

「・・・」

「まだ怒ってるんですか?」

「・・・今朝の朝食はお前が作るはずだっただろうが」

「ああ。すみません。少し寝坊してしまって」

「知ってる。・・・・・・・・・洋食楽しみにしてたのに」

ボソッと小さく御子神が言う。

「お昼に洋食なら作りますよ」

そう言うと、御子神は少し嬉しそうに目を輝かせた。

それに小さく笑って、手を合わせご飯を食べ始める。

同じように、御子神も朝食を食べ始めた。

その顔は本当に嬉しそうだった。

朝食を食べながら、瑠璃は考えていた。

どうすれば夢の通りにならなくて済むのか。

どうしたら護ることができるのか。

思考に沈んだ瑠璃は気付かなかった。

目の前で悲しそうに微笑む御子神の姿に。


「瑠璃」

食事が終わり、一息ついているところで御子神が話しかけてきた。

「はい?」

持っていた茶飲みを置いて、御子神を見る。

「今日はどんな夢を見た?」

その問いに瑠璃は一瞬ビクッとした。

「・・・昨日とあんまり変わりませんでしたよ。強いて言えば、影との距離が近くなった気がします」

「・・・」

御子神は嘘をついていないかを探るような視線を寄越した。しかし、その視線はふいに外れる。

「瑠璃ちゃんいる?」

聞き慣れた声に店先を見る。

綾が丁度、店に入ってきたところだった。

「綾さん」

瑠璃は綾を招き入れるために、店へと近づく。

「あのね、瑠璃ちゃんに相談したいことがあるんだけど・・・」

「はい。なんでしょう?」

「えっと・・・」

ちらと綾は御子神を見た。

「・・・チッ」

御子神は舌打ちすると自室に戻っていく。

それを瑠璃は横目で見ていた。

「・・・それで、相談とはなんですか?」

居間へと綾を招き入れながら聞く。

「私が相談するわけじゃなくて、なんていうか・・・。瑠璃ちゃん」

言いづらそうに目線を泳がせながら綾が小さく言う。

「はい?」

「なにか溜めてない? 心配事とか、悩み事とか・・・」

意を決して、瑠璃と目を合わせながら聞く。

「え?」

瑠璃は突然の問いに驚いたような声を上げる。

「私そういうのなんとなくだけどわかるから。瑠璃ちゃんが無理をしてるんじゃないかって・・・」

心配そうに綾は瑠璃の目を見る。

瑠璃はその目から顔を逸らした。

「何もない、というのは嘘になりますけど、綾さんが気になさることじゃありませんから」

微笑みを浮かべる。

綾にはその笑みが力のないものだと感じた。

「私には話せないことなの?」

「・・・」

瑠璃は沈黙で答える。

「それは、あの人にも話せないことなの?」

「・・・」

「そう・・・話せないのね。でも、そのことであなたがとても辛そうにしていることに自分自身気が付いてる?」

「・・・え?」

瑠璃が一拍おいて驚いたように綾を見る。

「とても、とても辛そうだわ。でもその辛さを話すつもりはないって、思ってるんでしょう? ・・・私にはわかるわ。だからこれ以上は何も言わない。でも、本当に辛くなって、自分じゃどうしようもなくなったら話してくれる? 私じゃなくてもいいから、ね?」

綾が心配そうに笑った。

「・・・はい」

瑠璃は曖昧に返事をした。

これから先、御子神にも綾にも話すことはない。

もし、これで綾が巻き込まれでもしたら自分が許せなくなる。

綾が優しいからこそ、瑠璃は固く口を噤んで話すことを拒絶する。

瑠璃は話さない。

自分に何が起きようとも、夢の通りにはさせない。

瑠璃の瞳の奥で強い光が灯り、声が聞こえる。

『あなたならできる』

そう言われた気がした。

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