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御子神の料理

差し込む朝日で目が覚める。

昨夜の出来事を頭の中で反芻すると、徐々に頭が冴えてきた。

「もう、いつもの御子神さんじゃないんだろうな・・・」

自分で言って、落胆する。

細く溜息を吐くと、リズミカルな音が耳に届いた。

それにバッと起き上って、軽く身支度を整えると音の場所へと早足で向かう。

今はリズミカルな音は止んでいるが、ぐつぐつと何かを煮込んでいる音が聞こえる。

「朝から騒々しいぞ。静かに出来ねえのか」

台所に着くと、着物をきっちりと着た御子神が料理をしていた。

「・・・・・・え?」

御子神が料理をしている。

前に料理はできないと言っていた。

この御子神は料理が作れるのか。

それに瑠璃が驚いていると、

「瑠璃。そこの胡椒取ってくれ」

「あ、はい」

と、思わず胡椒を手渡す。

「って、御子神さん料理できるんですか!?」

「あ? ああ。いつもの俺はできねえだろうけど、俺はできるよ。だって趣味だし」

料理が趣味。

その事実に瑠璃は驚く。

今の御子神は解放されて余裕があったら料理を作るのが日課となっている。

ただ、作りはしても自分で食べる前に封印されてしまうため、きちんとは食べたことがない。

「あ、味見してもいいですか?」

「おお」

御子神は出来上がっているものを味見皿に盛って瑠璃に渡す。

瑠璃は戦々恐々とその皿を受け取って口に運ぶ。

「お、おいしい・・・」

「そうか!」

御子神が嬉しそうな表情を浮かべ、鼻歌を歌いながら料理を再開する。

瑠璃はわなわなと空になった皿を見つめていた。

自分の作ったものよりもおいしい。

その事実に瑠璃は落胆した。

「朝飯は俺が作るからゆっくりしてていいぞ」

「あ、だったらお店の・・・」

「開店準備ならやっといたぞ」

瑠璃の仕事がなくなっている。

「え・・・。じゃ、じゃあ店先の掃除は・・・」

「それも終わった」

後手後手に回っている。

今まで瑠璃のやっていたことを御子神がすでにこなしている。

「他にやることはないですか」

「ないな。あるとしたら、居間で朝飯ができるのを待つくらいだ」

そう言うと御子神は火を止めて、新たなおかずを作り始める。

それを見ていると、本当にやることはないようで、

「わかりました。ちゃぶ台拭いておきます・・・」

とぼとぼと台所を後にする。

「あ、瑠璃!」

「・・・はい?」

傷心の瑠璃に御子神が声をかけ、うらめしいように振り返る。

「あとででいいからよ、洋食の作り方教えてくれ。俺、和食しか作れねえんだ」

その言葉にパアッと顔を輝かせて、

「はい!」

と元気よく瑠璃は返事した。

返事した瑠璃はるんるんと居間に向かう。

そんな瑠璃の背を見送りながら、御子神は呆れたように笑っていた。


「いただきます」

瑠璃が少し楽しそうにしながら手を合わせ、目の前に並べられた料理を口に運ぶ。

「・・・」

目の前でおいしそうに食べる瑠璃を御子神は慈しみのこもった目で見守る。

「・・・なんですか?」

少し冷静になったらしい瑠璃が自分を見ている御子神を睨む。

「いや?」

ふふふと御子神は笑って誤魔化す。

それに怪訝な表情を浮かべながらも瑠璃は追及しない。

「御子神さんは食べないんですか?」

「食うよ。ただもう少ししたらな」

「・・・」

瑠璃が料理を見ると、ほとんどが湯気を上げている。

猫舌ではない瑠璃は普通に食べることができた。

「もしかして、猫舌ですか?」

「・・・」

それに御子神はすいーと視線を瑠璃から逸らす。

「・・・へえ」

視線を逸らしたことを肯定と取った瑠璃が面白いというようににやりと笑う。

「別に猫舌なんかじゃねえし。ただ、熱いもんが苦手なだけだ!」

今更取り繕うとしても意味はない。

「ふうん。へえ」

ニヤニヤと笑う瑠璃に御子神は何も言えない。

「そうだよ、猫舌だよ! 何か文句でもあるか!」

ダンッと机を叩いて、瑠璃を睨みつける。

「いーえ。何の文句もありませんよ」

ニヤニヤと笑いながら、瑠璃は言う。

「クッソ・・・」

弱みを握られた御子神は悔しそうに顔を歪める。

「これなんか、あまり熱くないと思いますよ」

瑠璃がそう言って、小皿に盛って御子神の前に差し出す。

御子神はその皿に盛られたものをちらと見て、ゆっくりと箸でそれを食べやすい大きさに切る。

切ったところから湯気が上がる。

「まだ駄目じゃねえか!」

「そんなに猫舌なんですか?」

「俺は相当な猫舌だと、自覚してる」

もう、隠すのをやめたのか素直に頷く。

「え~。じゃあ、どうするんですか」

「冷めるのを待つ」

真剣な表情で御子神が言い放つ。

そのどうでもいいところで、真剣な顔になる御子神に瑠璃は笑った。

「何がおかしい」

「御子神さんがおかしいです・・・」

笑いを堪えながら瑠璃が答える。

「・・・」

それになぜかふてくされたように唇を尖らせて視線をそらす。

またそれに瑠璃は笑った。

少しして、料理が冷めはじめるとやっと御子神は料理に手を付け始めた。

その頃には瑠璃はすでに食べ終わっており、一人皿を片していた。

御子神は片づけをする瑠璃をちらちらと見ながら料理を食べていた。

「なんですか?」

「いや・・・なんでもない」

何かがあるような表情でそう答える。

それに瑠璃は何か引っかかったが、それ以上追究せず、片付けに戻る。

御子神はその姿をちらと見ると、何かを思い出したように外を見た。

「・・・そういえば天使の野郎を見ねえな」

と、小さく御子神は呟いた。

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