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夢の理由

また夢を見た。

この前見た夢と同じ。

私が影に追われている。

少し影と私の距離が縮まっているような気がする。

辺りも前より暗く、霧が立ち込めている。

そんな先の見えない通りをまた同じように影から走って逃げている。

どんなに走っても、どんなに逃げても意味がない。

私はふと思った。

逃げるのをやめたらどうなるんだろう。走るのを止めたらどうなるんだろう。と。

私は足を止め、ゆっくりと振り返る。

視界に追ってくる影が入ってきたところで、急に意識が浮上した。


目を覚ますと、視界が真っ暗だった。

まだ夢の延長なのかと一瞬思ったが、そうではないらしい。

何かが瑠璃の目を覆っている。

おそらく手だろう。

指の間からほんのわずかだが淡い光が入ってくる。

手に目を覆われているのに、どこか安心感を感じていた。

その安心感をくれるものは今は一人しかいない。

「御子神さん?」

声をかけると、目を覆っていた手はゆっくりと離れていった。

少しずつ視界が開けていく。

先程の淡い光は月明かりだったらしい。

目が闇に慣れて、御子神の姿が見えるようになった。

御子神はどこか悲しい顔をしていた。

ゆっくりと瑠璃が上体を起こす。

「どうしたんですか、御子神さん」

御子神の顔を覗き込めば、辛そうな微笑みを浮かべた。

「・・・ごめんね。勝手に部屋に入っちゃって」

小さく御子神が言う。

「いえ・・・。それより戻ったんですか?」

「うん。一時的にだけどね。まだやらなければいけないことがあってね」

そう言うと、瑠璃は少しシュンと落ち込む。

それを見た御子神はやさしく瑠璃の頭を撫でる。

「もしかしてあいつ、瑠璃ちゃんに何かした?」

「いえ! 何もされてないですよ。ただ、いつもと違うから・・・」

瑠璃は即座に否定した。

瑠璃は寂しそうな表情を浮かべて小さく呟く。

「ごめんね・・・。準備が終わるまでの辛抱だから」

申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「準備?」

「うん。終わらせるための準備」

「終わらせる? 何をですか」

瑠璃が首を傾げながら聞く。

「あの影との因縁だよ」

「因縁・・・」

「そう。千年以上、あの影から逃げてきたから。今回は少し本気を出して、この因縁を終わらせようと思って」

「その、準備はあとどのくらいで終わるんですか? あ、別にいつもと違う御子神さんが嫌なわけではないですからね!」

御子神は少し驚いたような表情をしたあと、ふにゃりと笑った。

「・・・本当に優しい子だね」

どこか泣きそうな表情をしていた。

「準備にあとどのくらいかかるかはわからない。でも、早めに終わらせるよ。・・・夢も始まってしまったし」

「夢が始まった?」

「うん。瑠璃ちゃん、変な夢を見たんだろう? 影にいつまでも追われる夢を」

「はい。さっきも見てました」

「どんな夢だった?」

急に真剣な顔つきになった御子神に気圧されて、少し早口で話す。

「前とほとんど同じなんですけど、前よりは暗くなってて、霧も出ていました。ずっと走って逃げていたんですけど、途中で走るのをやめたらどうなるんだろうって思って、足を止めたんです。それから後ろを振り返ろうとしたところで目が覚めました」

「・・・よかった。まだ最後までは行ってはいないんだね」

御子神は安堵の表情を浮かべた。

「最後?」

「ああ。その影に追われる夢、実は今までの守護者たちも見てきたんだ」

「そうなんですか!?」

驚いたように目を見開く。

「うん。全て結末は一緒だったけど・・・」

「結末ってどんなのなんですか?」

瑠璃が居住まいを正して、話を聞く。

「・・・。結末はみな、守護者が影に食われて終わる」

「!」

「影に追われてずっと逃げて、それから瑠璃ちゃんが今日見た夢と同じように、守護者は足を止めて追いかける影を振り返る。徐々に近づいてくる影は逃げるのを止めた守護者に口角を上げて笑って、守護者は抵抗する暇もなく、影に食われる。これが夢で見る内容だ。そして、この夢は未来も予見しているんだよ。影に食われる夢を見た日の夜には、その影が襲ってきて、夢の通りになる」

辛そうに顔を歪めながら御子神は語る。

「じゃあ、もし、私がそれと同じ夢を見たら私も同じ結末を辿るということですね」

「そうなるね。でも、そうならないための準備を今してるんだよ」

御子神が微笑みを浮かべる。

「なるほど。でも、どうして今回なんですか?」

「えっと・・・それは、ね・・・」

御子神は困ったように視線を彷徨わせる。

「?」

「ま、まあ。そんなこと今はいいじゃないかな」

少し狼狽えながら答えると、瑠璃は迫るように顔を近づける。

「と、とにかく。瑠璃ちゃんを食わせたりなんか絶対にさせないよ」

御子神は瑠璃の体をそっと押し返しながら、自分自身も体を遠ざける。

「さあ、まだ夜明けまで時間がある。もう少し寝なさい」

そう言って、御子神はゆっくりと立ち上がる。

「え、もう行っちゃうんですか?」

「休息は大切だよ。休めるときに休まないと。大丈夫、ちゃんと帰ってくるよ」

微笑んで瑠璃を安心させる。

それに少し不満気にしながらも頷く。

「・・・御子神さんもちゃんと休んでくださいね」

「うん」

御子神が頷いたのを見ると、瑠璃は布団にくるまった。

それを見届けてから御子神は障子をゆっくりと閉めた。

耳に静かな寝息が届く。

「はあ・・・」

御子神は大きなため息を吐いた。

「身が保たない・・・」

顔が赤く染まっていくのを感じて、頭を冷やすために洗面所へと早足で向かった。

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