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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
素晴らしき世界 編

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剣の世界 ショートストーリーず 読後の皆様へ感謝を込めて

      その一 すごい発見


「なー、じいちゃん」


「ん?」


庭先。


孫が、なにやら石を二つ持ってしゃがみ込んでいる。


朝からずっと、拾ってきた石を並べては、叩いたり、削ったり。


まあ、子供なんてものは、よく分からんことをして遊ぶものだ。


「この石と、この石な」

「おう」

「混ぜて叩くと――」


石を重ねて。


ごつん。


ぶしっ。


小さな火が散った。


「ほら! 少し火が出るだろ?」

「だな」


「すごいだろ!」

「知ってるぞ」


「え?」


孫が固まった。


「……知ってるの?」

「知っとる」


「なんだよぉ」


せっかく大発見だと思ったのに。


少し肩を落とした孫だったが、すぐに顔を上げた。


「でもな、じいちゃん。ここからがすごいんだ」

「ほう?」

「これに、この燃え残りの炭を混ぜるだろ?」


小さく砕いたものを混ぜ合わせる。


「それで――」


石を振り下ろす。


バン!


「うおっ」


じいちゃんが、ほんの少し身体を引いた。


白い煙が、ふわっと上がる。


「ほら!」


孫は満面の笑み。


「すごいだろ!」

「おう。まあ、すごいな」


「だろ!」


胸を張る。


「これで動物、獲れるんじゃないか?」


じいちゃんは煙の消えた地面を眺めた。


「どうやって動物に当てるんだ?」

「スリングショットで!」


即答だった。


「何に詰める?」

「え?」


そこまでは考えていなかったらしい。


しばらく考えて。


「あ! 鬼くるみの殻!」

「そんなもん、撃った途端にそこで破裂するぞ」


「……そっか」


また考える。


「じゃあ、鉄!」

「まあ、鉄ならいけるかもしれんな」


「だろ!」


「で?」

「ん?」


「鉄を捨てるんか?」

「……え?」


「破裂したら粉々じゃぞ」

「……」


「鉄じゃぞ?」

「……でも、動物は獲れるよ」


「まあ、何発も撃てばな」


孫は腕を組んだ。


なんだか思っていたほど便利じゃない。

そんな顔をしている。


「でもな」


じいちゃんが言った。


「それより、いい手があるぞ」

「なんだい?」


じいちゃんは腰の袋へ手を入れた。


取り出したのは一本の投げナイフ。

ただし、鉄ではない。


白く、硬く磨き上げられた――動物の骨。


「これじゃ」

「投げナイフ?」


「そうじゃ。これも何発か当てれば動物が獲れる」


「でも、当てるの難しいじゃん」

「練習は必要じゃな」


「ほらぁ」

「しかもじゃ」


「なに?」


じいちゃんは骨の投げナイフを、孫の鼻先へ突き出した。


「獲物を仕留めたら、投げた投げナイフの材料が、投げた以上に取れる」


「……あ」


肉が取れる。

皮も取れる。


そして。


骨も取れる。


孫は地面に並べた石を見る。


炭を見る。


もう一度、骨の投げナイフを見る。


「そうかぁ……」

「うむ」


「こっちのほうが楽じゃん」

「じゃろ?」


じいちゃんは笑った。

孫も笑った。


そして翌日から。


庭先では――。


ひゅん。


からん。


ひゅん。


からん。


「じいちゃーん! 当たらん!」

「練習せい!」


世紀の大発見は。


ひとまず、庭の隅へ置いておかれることになった。




        その二 楽する方法


鍛冶場。


かん。

かん。

かん。


今日も鉄を叩く音が響いている。


炉の火は赤々と燃え。

その横では、大きな吹子が忙しく空気を送り込んでいた。


そんな仕事の合間。


「なあ、親方」

「はん? なんだ?」


若い職人が休憩用の湯を沸かしていた。


そのやかんを、じーっと見ている。


「この、やかんの蓋」

「おう」


カタカタ。

カタカタ。


湯気に押されて、蓋が小さく跳ねている。


「お湯ができたら、カタカタなるだろ?」

「なるな」

「これさ」


若い職人は吹子を見る。

やかんを見る。

また吹子を見る。


「これでなんか、水車の代わりに吹子を動かせないか?」


親方は金槌を置いた。


やかんを見る。


吹子を見る。


「まあ、できるな」

「え?」


「できるぞ」

「親方、できるの?」


「そんな難しいことでもないな」

「すげえ!」


若い職人の目が輝いた。


「じゃあ作ろうよ!」

「なんで?」


「楽できるじゃん!」


「そうか?」

「そうだろ!」


親方は腕を組む。


「吹子を動かすのに、お湯を沸かすのか?」

「そうなるな」


「お湯を沸かすのに、火を焚くわけだ」

「そうなるな」


「火を焚くには薪がいるな」

「いるな」


「火を強くするには空気がいるな」

「いるな」


親方が吹子を指差した。


「その吹子、誰が動かすんだ?」


若い職人も吹子を見る。


「……俺かな?」

「最初に戻ってねえか?」


「……」


カタカタ。


やかんの蓋だけが元気よく動いている。


若い職人はやかんを見る。


吹子を見る。

親方を見る。


もう一度、やかんを見る。


「……確かに」

「だろ?」


「やっぱ親方すげえな」


「そこなのか?」


親方は呆れながら金槌を拾った。


かん。

かん。

かん。


若い職人も吹子へ戻る。


ぎゅう。

ごうっ。


炉の火が大きくなる。


カタカタ。


その横では今日も、やかんの蓋が楽しそうに踊っていた。



       その三 八百屋の看板娘


街の八百屋に。

かわいい娘がいる。

僕の憧れだ。


いつも明るくて。

笑顔がかわいくて。

背はすらっと高くて。

髪の毛もきらきらしてる。


店先に立っているだけで、野菜まで少し美味しそうに見える。


……いや、それは言いすぎかもしれない。


とにかく。

かわいい。

天使だ。


彼女になってくれないかなぁ。


そう思っている。


まだ言ったことはない。


というか。

言えるわけがない。


だから今日も。

僕は母さんに頼まれた買い物袋を持って、八百屋へ向かう。


あくまで、お使いだ。

決して彼女に会いたいからではない。


……たぶん。


「こんにちは!」

「あ、いらっしゃい!」


いた。


今日もかわいい。


「今日も来てくれたんだ」

「え? あ、うん。お使いだけど」


「毎日、ご苦労様です」


にこっ。


……かわいい。


「いや、君こそ毎日お店で番をして、すごいよ」

「そんなことないよ」


彼女は笑いながら、頼まれた野菜を袋へ入れていく。


いいなぁ。


やっぱりかわいいなぁ。


どうしたら、もう少し仲良くなれるんだろう。


そんなことを考えていた、その時。


ぶぅぅぅん。


「あ」


ハエだ。


この世界のハエは、そこそこ大きい。


食べ物を扱う店にとっては、なかなか困った相手でもある。


店先を飛び回り。


野菜の上へ――。


しゅこん!


「ひっ!?」


なにかが僕の横を、ものすごい勢いで何かが通り過ぎた。


ほんの一瞬。

風が頬を撫でた。


何?


今の何!?


恐る恐る振り向く。


壁。


そこに。


細いスパイクが突き刺さっている。

そして、その先には。


さっきまで飛んでいたハエ。


見事に仕留められていた。


「……」


僕はゆっくり振り返る。


そこには。

いつものかわいい八百屋の娘。


にっこり笑っている。


「ごめんね、びっくりした?」

「……う、うん」

「毎日お店にいるとさ」


彼女は何でもないことのように、次の一本を指先で弄んだ。


「こんなのばかり上手になっちゃう」

「……そ、そうなんだ」


にこっ。


かわいい。


やっぱりかわいい。


かわいいんだけど。


僕は自分の腕を見る。

細い。


彼女を見る。

かわいい。


壁を見る。


ハエ。


スパイク。


もう一度、自分の腕を見る。


「……」


よし。

もっと身体を鍛えよう。


もっともっと鍛えて。

もっと努力して。


それから。

もう一度、ちゃんと彼女の前に立とう。


僕は出直すことを、心に決めた。


「ありがとうございました!」

「うん。また来てね!」


「はい!」


八百屋を出る。

今日のお使いも無事終了。


そして僕には。

新しい目標ができた。


――まずは、鍛えよう。


告白は。


それからだ。

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