サイドストーリーず おばあちゃんのきのこ狩
のんびりしたお昼
お茶を飲みながら
「わたし達がまだ、みんなくらいの頃は、じいさんとよくキノコ狩りに行ったもんじゃて」
「へえ、キノコ狩り? 晩ごはんの?」
「いやな、その頃はな……」
採集家。
採って、集めることを生業とする。
問題は、その採るところ。
防護林なら比較的安全だ。
だけど、防護林だけでは揃わないものもある。
村の西。
少し離れたところに、黒い森がある。
まあ、馬で行けば、一日で行って帰ってこられるくらいの距離。
ただ、森。
外界は動物達の世界である。
森は、その世界の中でも、特にその世界そのもの。
草原なら、まだ人の世界が見える。
森は違う。
森はまったく、人には遠慮がない世界。
その温暖季は、村で流行り病が出ていた。
ここ何回かの乾季にも流行り病が出ていて、村は落ち着かない日々が続いていた。
おまけに、防護林もあまり豊かではなかった頃のこと。
「なあ、ひかりたけ採りに行きたいんだけど」
「え?! またかよ」
「熱冷ましがいるんだよ」
「流行り病か」
「ああ、親方のとこの子供が熱を出したそうだ」
ひかりたけ。
真っ白なキノコ。
お日様に当てると、きらきらと輝く白。
熱冷ましの薬になる。
「はあ……やめろって言っても行くんだよな」
「そん時は一人だね」
「ったく」
「馬は?」
「もう用意してるよ」
「行く前提じゃないか」
「行かないのかい?」
「行かないわけあるかよ」
「よろしく頼むよ、ハンターさん」
二人、二頭の馬で防護林を抜ける。
西へと馬の首を向ける。
ぱかぱかぱか。
いい風が吹いている。
「このまま、旅に出たいね」
「そうだな、キャラバンにでも乗るか?」
「流行り病が治らないとね」
「そうなんだよなぁ」
ここ何回かの乾季は、流行り病のせいでキャラバンも出られなくなっていた。
「いい風だね」
「そうだな」
やがて森が見えてくる。
入り口を探す。
動物達の気配を探す。
風を読む。
「いい風だね」
わたしが先導する。
ショートソードを抜いて、森へ入る。
お日様が木々に隠れ、辺りが暗くなる。
たくさんの鳥の鳴き声。
猿だろうか、遠くで鳴き声が聞こえる。
色とりどりの蝶。
大きな蜻蛉。
森は、命で溢れている。
しばらく入ったところで、馬を止めた。
ちょんちょん。
前を指差す。
大角鹿の群れ。
大きな角の雄が、複数の雌を引き連れて、なにかの木の実を食べている。
ゆっくりと迂回する。
しばらくして、また止まる。
ヘルハウンド。
先ほどの大角鹿の群れを眺めている。
うーん。
今は、わたし達が風下。
ゆっくりと戻る。
別の道を探す。
そして、森の奥へ。
やがて、大きな倒木を見つけた。
辺りを見回す。
馬から降りる。
「採集するから見てて」
馬上のハンターがうなずく。
倒木の脇から、白いキノコが顔を出している。
もう一度、辺りを見回してからしゃがみ込む。
ひとつ。
またひとつ。
「今日はたくさん出てるな」
籠いっぱいに採っていく。
一部は、根元の木ごと採集する。
防護林に着いてくれたらな。
籠を確かめる。
うん、十分だ。
「戻ろう」
馬に乗り、来た道を戻る。
後ろを警戒しながら。
早足になるのを抑えて、辺りを見て、静かに。
森の中では、急いだからといって早く帰れるわけではない。
やがて、辺りが明るくなってきた。
木々の間からお日様が見える。
森を出た。
「よし」
無事に抜けられた。
その時。
「うしろ!」
後ろの馬から声が飛ぶ。
とっさに馬から飛び降り、ショートソードを構える。
二頭のヘルハウンド。
こちらを睨んでいる。
ハンターがロングソードを抜く。
二人で睨み返す。
「ぐぅーーーー」
低い唸り声。
ヘルハウンドの後ろ脚に力が入る。
その瞬間。
二人同時に斬り込む。
「ぎゃわん!」
ハンターは一閃。
わたしは切り返して、二回。
二頭が距離を取る。
睨む。
こちらも睨み返す。
一歩、前へ出る。
ヘルハウンドは、森へと戻っていった。
血を流しながら。
「今のうちに離れるぞ!」
「あいよ!」
馬に飛び乗る。
一目散に馬を走らせる。
ぱかぱかぱかぱか!
みるみる森が小さくなっていく。
やがて、十分に距離を取ったところで馬を緩めた。
「ここまででいいだろう。籠は無事か?」
「もちろん」
「やれやれ」
わたし達は、村へと馬の首を向ける。
道に戻ると、風が吹いている。
「いい風だなあ」
「ああ、いい風だ」
「どこか行きたいねえ」
「そうだなあ」
二頭の馬が並んで歩く。
ぱかぱか。
ぱかぱか。
穏やかな風が吹いていた。
「懐かしいのう」
おばあちゃんが、遠くを見るように笑っている。
「ねえ、おばあちゃん」
「ん?」
「それ、キノコ狩りって言うの?」
「キノコ採って帰るだけじゃろ」
「……おばあちゃんも凄腕だった」




