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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
実り 編

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サイドストーリーず 拾われた老人

わたし達を足止めしていた雨季が明け、

やっとキャラバン隊が動き出した。


今回は、とにかくついてなかった。


行きで動物達に散々進路変更を余儀なくされ、

大幅に遅れて都市に着いた時には、もう雨季に入ってしまった。


雨季の間中、雨。


荷車の中での野営。


カビが生えるかと思った。


結局、キャラバンの儲けはほぼ失ったまま帰るという、

なんともやるせない旅となった。


やっと明けた雨季。


もう交易もなにもない。

ひたすら、自分達の村を目指すだけの旅。


半分くらい戻った頃。


それは現れた。


道端にたたずむ馬が一頭。


この外界で、馬だけがいるのはありえない。


即座にキャラバンが止まる。


距離は取ったままだ。


わたしは御者台に立ち上がり、前方を見る。


右。

左。


動物達の姿はない。


馬の足元に――


ん?

人か?


近くに動物の気配はない。


わたしは荷車から飛び降り、

馬の元へ走る。


「藜! 止まれ! ハンターが先だ!」


後ろから声が飛んでくる。


止まると思うか?


馬にそっと近づく。


「いい子だな」


首筋を撫でてやる。


ぶるる。


馬は一声鳴くと、

わたし達が来た方向へ走っていった。


「へえ、主人を守ってたのか」


足元に倒れている人を確認する。


老人?

まだ、生きてる。


怪我は?

足と頭か。


「藜! 先に出るなといつも言ってるだろ! って、生きてるのか?」

「ああ、大丈夫そうだ。意識はないが」


「怪我か?」

「頭と足だな。神父を呼んでくれ」


一人がキャラバンへ戻っていく。


しばらくして荷車が横付けされ、

神父さんが降りてきた。


「どうだろう? 神父さん」


「んー、足は折れてますね。頭は落ちた時でしょうか。ひどくはないですが、打撲の跡があります」


「助かるか?」

「息は正常なので、あとは意識が戻れば」


「そっか、よかった」


道端に横たわる老人を見て、安堵する。


老人を拾ってしまった。


このじいさんはわたしにとって、

ついているのか、いないのか。


「とりあえず、載せよう」

「連れて行くのか?」

「わたしが拾ったんだ。わたしが面倒を見るよ」


「そうか?」


「とりあえず足の固定と頭を手当てしましょう。載せるのはその後です」

「よろしくお願いします」


「はい、藜さん」




近隣の宿泊地に着いた。


交易でもないのに、

村の中央広場に入れてもらい、野営までさせてもらえた。


やたらと親切にしてくれる。

交易の担当者もそう。


今回は交易でもないのに、

食堂の女将さんまで、わざわざ差し入れにおにぎりを持ってきてくれた。


なんだか不思議な村。


交易担当者が言っていた。


「これくらい、なんでもないですよ。お互いさまですし」

「いいのか?」


「投資ですよ」

「投資?」


「次に来た時は、しっかり儲けさせてもらいます」


そう言って笑っていた。


なんか、素敵な村だな。


食堂で差し入れのおにぎりを食べていると、


「藜! 気がついたぞ!」


わたしは急いで荷車へ走る。


荷車の中では神父さんが老人の横についていた。


「どうだい?」

「はい、気がついたようです」


わたしは老人の横に座り込み、顔を覗き込む。


額の皺。


気難しそうな眉間。


でも、なんか頼り甲斐がありそうな顔。


眉間の皺が、さらに深くなる。


目が開いた。


覗き込む。


「大丈夫か?」

「ん? 御形か。酒をくれんか」


「は?……」


――なんだ、このじいさん。


「いきなり酒かよ?」


「んー? おまえ誰だ?」


「藜だ」

「で? ここは?」


「荷車だな」

「みたいだな」


老人は首を回して辺りを見回す。


「あいててて!」

「足折れてるよ」


「みてえだな」


神父さんが水を差し出す。


「まずは、水を」

「ありがとよ。って、いてえな!」


「だから、折れてるって。ほら」


背中を支えて起こしてやる。


「ありがてえ」


水を飲み干し、


「さて、帰りたいのだが」

「あんた、どうやって帰るんだよ?」


「そうか、馬!」

「わたしが見つけるまで、ちゃんと横であんたを守ってたよ」


「そうか。帰ったか?」

「ああ、わたしに託してな」


「俺のロングソードは?」

「あー、すまない。あったかもしれんが、持ち物は探さなかったな」


「そうか。あれ気に入ってたんだがな」


ずいぶん呑気なじいさんだ。


「あんた、一人で馬に乗って外界へ?」

「ああ、馬の散歩さ」


「外界へか?」

「いつもの事よ」


「へえ、ハンターなんだ」

「まあな」


「すげえな」

「単に運良く長生きしてるだけだな」


「ふーん」


神父さんが老人に尋ねる。


「どこまで覚えていますか?」


「ん? そうだな。馬の散歩中に目の前が真っ暗になって、次は馬の足で……あーー、腰についてるのが邪魔だったな。あとは良くわからん」


「やはり、落馬での骨折ですね。あとは頭を打たれているので、しばらくは安静にしてください」


「まあ、動けないな。これじゃ」

「たしかに」


わたしは老人を見る。


「うちの村まで来るか?」

「そうだなあ。知らないところに降ろされるより、おまえさんの方が良さそうだ」


「なんだよそれ」

「まあ、しばらくはやっかいになるか」


「しょうがないね」


神父さんを見る。


「と言う事だ神父さん。この人はわたしが預かる」

「わかりました。リーダーには伝えておきましょう」


「すまんの」


「なんだよ、急にしおらしくなって」

「うるせえな」


「わたしと神父さんに対する態度、違いすぎないか?」

「そうか?」


「まあ、いいや」




キャラバンは進んでゆく。


じいさんが荷車の中から外を見ていた。


「温暖季か」

「ああ、まだ入ったばかりだよ」


「そうだったな」


しばらく空を眺めて、


「雨が降るぞ」

「え?」


空を見上げる。


「雨か?」

「ああ、風が変わったろ?」


「そうか?」


わたしは御者台から手を出して合図する。


キャラバンが止まる。


「どうしました?」


先頭のリーダーが声を上げる。


「じいさんが雨だって」

「え?」


リーダーも空を見上げる。


「雨?」

「高いところに移動しな」


荷車の中から声が飛ぶ。


周りより少し高いところへ移動し、

キャラバンが止まる。


風が出てきた。

雲が流れる。


空が黒くなる。


ポツリ。


いきなり、


ザーーーー。


「ほんとに来たよ」

「だろ」


「すごいな」

「すぐ止むさ」


「……」


少しして、

本当に太陽が戻ってきた。


「へえー」




別の日。


「なあ」

「ん?」


「寝てるのも暇なんだ」

「仕方ないだろ」


「御者台に座らせてくれんか?」

「仕方ないなあ。ただ、一緒に座るぞ」


「ああ、ここよりずっといい」

「わたしの横はそんなもんかよ」


「まあ、気にするな」


じいさんと二人、

御者台に座る。


ゴトゴトと荷車が揺れる。


「おい」

「ん?」


「止まれ」


わたしは手を出して合図する。


再びキャラバンが止まる。


「今度は?」

「聞こえんか?」


「……」


耳を澄ませる。


しばらくして――


「遠くで鳴いてる?」

「すぐに迂回しろ。左側だ」


「リーダー! 左へ迂回!」


キャラバンが道を外れ、左手へ進む。


しばらくして。


「あそこ!」


遠くに大きな影。


「サーベルタイガー……」

「ビッグボアの親子を追ってるな」


じいさんはじっと様子を見る。


「しばらくは様子見だ」


「……あんた」

「ん? なんだ」

「ほんとに、ただ運が良かっただけか?」

「運も大事だぞ」


「ふーん……」




また後日。


御者台で御者と一緒に、

じいさんと二人で揺られている。


キャラバンが止まる。


今日はここで野営らしい。


じいさんが周りを見回した。


「おい、リーダーを呼んでこい」

「ん、ああ」


わたしは走ってリーダーを連れてくる。


「どうしました?」

「悪い事は言わん。今日ここはやめておけ」


「なにか理由が?」

「風が良くない」


「風?」

「今日は森に向かって吹いてる」


「え? そういえば……」

「夜になると動物達に囲まれるぞ」


「……」


「良くあんたら無事にここまで来たな」

「いや、行きは散々でした」


「だろうな」


じいさんは森の向こうを見る。


「あの森を越えてから場所を探した方がいいぞ」

「そうします」


キャラバンは再び動き出した。




それからは――


「なあ、じいさん。あの声は?」

「気にするな」


しばらくして、


「なあ、あの雲、なんだか変に流れてない?」

「気にするな」


またしばらくして、


「風が向きを変えたね」

「ああ」


「これは?」

「気にするな」


わたしは、とにかく聞きまくった。


じいさんはなんでも知ってた。


ほとんど、

気にするな、

だったけど。


ある日。


御者台で並んで揺られていると、

じいさんがわたしを見る。


「お前さんはハンターか?」

「違うよ」


「だよなぁ」


「ハンターに見える?」

「ぜんぜん」


「だよねえ」


流れていく景色を見る。


「まだ何も決まってないんだよ、わたし」

「ふーん」


「修道院出だし」

「それ、なんか関係あるか?」


「んー……」


じいさんは前を向いたまま言う。


「自分がなりたいと思う物になればいい」


……。


「じゃ! ハンターに!」

「ハンターか?」


「じいちゃんみたいになりたい!」

「は? おれにか?」


「うん!」

「なんで?」


「自分で運を引き寄せれる人になりたい!」

「運がいいだけだぞ、おれは」


「それがいいんじゃない」


「なんか良くわからん嬢ちゃんだな」

「藜! 藜ってちゃんと呼んで」

「で、おれはじいちゃんか?」


「えへへ、いいじゃん、じいちゃん!」


ゴトゴトゴトゴト。


御者台で揺られる二人。


温暖季の空。


まだまだ旅は続く。


拾われた老人に


わたしも拾ってもらえた。

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