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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
実り 編

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第七章 これからの

蓼の家。

新しい木の香りがする。


今日は引っ越し。

籐吾も連れてきた。


「籐吾さん、お疲れ様でございます」


蓼が丁寧に挨拶してる。


「ん?」

「ほんと、大変ですね」


「ん?」


「籐吾! 運ぶぞ!」

「へーい」


籐吾と萱が、どすどすと二階へ上がっていく。


食堂の二階。

宿泊施設の一室から、蓼の荷物を運び出す。


新しい家では蓼が、


「それはこっちへお願いします」

「あ、それはそこへ」


あっちへ、こっちへ。

籐吾と萱が何度も往復する。


やがて。


「終わりましたー! ありがとうございます」

「蓼もお疲れさま」


「姉さんもお疲れさまでした」

「蓼姉さん! このお鍋達!」


菖蒲が台所で声を上げる。


「あ、親方さんが里帰りしている間に作ってくれました」

「全部、ピッカピカ!」


新品の鍋が並んでいる。


「お料理楽しみ」

「蓼は料理上手いのか?」

「蓼姉さんの料理、美味しいですよー」


「菖蒲は食べたことあるんだ」

「お弁当を何度かいただきました」


蓼が新品の鍋を眺めて、


「今日! 作りましょうか!」

「今からか?」

「はい、みなさんにお礼もかねて」


「女将さんと親方も呼ぶか?」

「いいですね! わたし、腕を振るいますよ!」


「今晩の晩御飯、楽しみだな」

「籐吾はほどほどにな」


「えー」


「ふふふ、籐吾さんにはたくさん作ってあげますよ」

「お! 任せたぞ蓼!」


「はい、任されました!」


初めての新しい家で、

初めての晩御飯。


みんなで笑う。


わいわい。

がやがや。


「蓼姉さん! それ取って」

「菖蒲さん、これも食べて」


「籐吾兄さん! それわたしの!」


「籐吾、ご飯粒ついてるぞ」


ぱく。


「あんたら、みんな仲いいねえ」

「はい、姉妹ですから」


「がはっはっは!」

「親方、顔真っ赤だよ。飲み過ぎ」


「まだまだ! これからだ!」


笑い声が響く。

新しい木の香りのする家。


「ここは賑やかな家だなあ」




次の日の昼さがり。


雲ひとつない青い空。

空気もなんだか乾いてきた。

風が、新しい季節を運んできている。


見回りが終わって、食堂へ。


相変わらず蓼と菖蒲とおしゃべり。


そこへ。

食堂の入り口に衛兵が飛び込んできた。


そして、一言。


「老ハンターが手を振ってる」


衛兵はそのまま役場へ。


わたしは正門へ。

全力で走る。


見えて。


見えて。


見えた!


「おー! 御形ー!戻ったぞー!」

「てめえ!」


ぼかっ!!


「てえな! いきなり何しやがる!」

「いったいどこほっつき歩いてた!」

「歩けねえから今までかかったんだろが!」


「……」


やっと、姿をまじまじと見る。


「じいさん、足どうした?」

「今か? それ。殴っておいて」


「あー、ごめん。あんまり嬉しくてつい」

「おまえは嬉しいと殴るのかよ」


「ごめんって」


「あははは! じいさん殴られてんだ! 大した歓迎だねー」

「いってえな。おまえといい御形といい、なんてやつらだ」


声の方を見る。


「で、こいつ誰だ? じいさん」

「わたしか? このじいさんの命の恩人ってとこだね」


荷車の幌から身体を出している老ハンター。

その横に立つ、茶色の髪の背が高い女性。


しっかりと日に焼けている。


「でかいな。わたしと同じくらいか」

「あんたもでかいな。それに美人だ」

「あんたもしっかり美人だぞ」


「藜だ」

「御形だ。じいさんが世話になったらしいな。礼を言う」


「なに、たまたま落ちてたのを拾っただけさ」

「ここではなんだから、食堂へ行こう」


「では、ご招待されよう」


「じいさん! 自分で来れるか?」

「来れるわけないだろ」


「籐吾をやるから、おんぶしてもらいな」

「えー、おまえじゃねえのか?」


「やだよ」

「ちぇっ」




「じいさんは役場な」


「は? おれも食堂がいいぞ!」

「あんたはまず報告だよ。諦めな」


「ったく。ほれ籐吾、役場だと」

「へーい」


籐吾が老ハンターを背負っていく。


その後ろ姿を藜が眺めている。


「あいつ、でかいなあ」

「ああ、わたしの弟弟子だ」


「へえ」


食堂へ戻る。


「で? 紹介してくれるんだろ?」


蓼と菖蒲が並んで立っている。


「ひゅう、みんな美人ばっかだな、ここ」

「こっちが蓼。妹だ」


「こんにちは。老ハンターさんが大変お世話になったそうで。本当にありがとうございます」

「お、ちゃんとしてるねー。わたしは藜。よろしく頼む」


「で、菖蒲。妹だ」

「菖蒲です。よろしくお願いします。海の民の人ですよね」

「藜だ。こっちは別格にかわいいな。ああ、海から来た」

「海から?」


「まあ、なんだ。立ち話もなんだから座って話そう」


四人でテーブルにつく。


「姉妹か? 美人ばっか」

「血は繋がってないけど、姉妹だ」

「そうか。いいな、家族は」


「まずは感謝する」


わたしは頭を下げる。


「やめてくれ、こそばゆい。さっきも言っただろ、たまたまだって」

「で、詳しく聞いてもいいのか?」


「ああ。そのためにここに来たからな」


藜が話し始める。


「じいさんを見つけたのは、本当にたまたまだ。わたし達はキャラバンで移動途中だった」


「場所は?」

「まあ、分かってるだろ。この先の道の途中だな」

「ああ」


「最初に馬に気づいたんだ。誰も乗っていないのに、じっと待ってる」


この外界で、それはありえない。


「キャラバンを止めて辺りを確認したら、草むらに人が倒れてた。驚いたね。よっぽど運がいいんだろう。たぶん、馬から落ちてすぐだった」


時が経てば外界だ。

その後は目に見えている。


「意識は?」

「なかった。足も骨折してた。キャラバンの神父いわく、落馬した時の怪我だろうって。後で本人に聞いても、馬の上から記憶がないって言うからな」


「じゃあ……」

「馬の上で意識を失って落ちた。そこで足を折って、さらに頭も打った。ってとこだろうな」

「そっか」


「とりあえず載せて行こうってなって、次の村までは連れていった。ただ、意識がなかなかはっきり戻らなくてね。結局、そのままわたし達の村まで連れ帰った。ってとこだな」


「見つけた時の馬や持ち物は?」

「馬は、わたしがじいさんを見つけたら勝手に走っていったよ。偉い子だね。ちゃんと待ってたんだ」


「そっか。持ち物は?」

「そん時はもう、じいさんしか見てなかったよ。なんかロングソード落としたって、ずいぶんしょげてたぞ」


「それはこっちで回収して、じいさんの家に置いてあるよ」

「それは喜ぶだろう。ずいぶん気にしてたからな」


「でも、なんで自分の村まで? 最初の村で降ろしてもよかっただろうに」

「まあね」


藜がわたしを見る。


「あんたならどうした? 降ろしたか?」

「いや。わたしなら、本人が降りるって言うまでは面倒みるな」

「そういうことだよ」


「そっか」

「ありがとう。助かった」


「あれでも、あんたらの大事な人なんだろ?」

「そうだ。この村の大事な人だよ」


「だろうな。遠くの村まで連絡が行ってたからな」


「どこで知った?」

「ん? 直接言われたのは、道の先の城砦都市の分岐点の村」


「あ、担当者さん」

「ん? ああ、美少女が待ってるって、あんたのことか」


「……他にも?」

「あちこちで聞いたよ。ただ、老人を探してる村がある、くらいだったけどな」


「これは伝え方の問題ですね!」


菖蒲が立ち上がる。


「だよね、蓼姉さん。ちょっと役場のお偉いさんに文句言ってくる」


そのまま飛び出していった。


「あいつはいつも、あんななのか?」

「大体は」

「すごいな。役場の偉いのに文句を言うなんて」


「あいつだけだよ、そんなことするのは」

「へえ、見かけによらないね」


「この村で菖蒲を止められるやつなんかいないじゃないか」

「んー、籐吾さんくらいかなぁ」


「籐吾が?」

「たぶん籐吾さんの言うことなら聞くよ、菖蒲さんなら」


「ふーん。籐吾って、さっきのでかいのか?」

「それな」


「へえ」


「で? これからどうするんだ?」

「ん? わたしかい?」

「じいさんを置いて帰るのか?」


「まさか。ってことで、あんたに頼もう」

「なにを?」

「あんたなら村中に顔がきくだろ」


「まあ、御形姉さんなら誰でも言うこと聞くでしょうね」

「……あんたら姉妹、もしかしておっかない人達なのか?」


蓼と顔を見合わせる。


「まったく普通の人だよ」

「まったく普通の人です」


「で? 頼み事って」

「わたしをここに降ろしてくれないか?」

「? ここに残るのか?」


「じいさん、まだまだ足がね。ほっとけなくてさ」

「あんた、じいさんだぞ」


「あんただって面倒みるだろ」

「そりゃまあ」


「どこに住むつもりだよ」

「そこだよ。じいさんの家、まだあるよね」


「当たり前にあるよ」

「そこに一緒に」

「じいさんとか?」


「なんか?」

「いや、別に」


「キャラバンの方は?」

「ん? 今から言ってくる」

「今から?!」


「だって、絶対反対されるもん」

「されるもんって、どうするの?」

「え? 無理やり」


「無茶苦茶だなあ」

「無理やり降りて、ここで駄目って言われたら困るじゃない。だから先に根回しをね」


「ったく。分かった。役場には菖蒲から伝える。村にはわたしから話を通しておく。あとキャラバンの方は自分でどうにかしろ」

「ありがとうな、いろいろ」


「お互いさまだろ」

「頼りになります、お姉さん」

「あんたの姉にはなってない。大体、年下か?」


「さあ? どうだろう? わたし修道院出だからさ」

「菖蒲もだよ。ついでに籐吾もだ」

「へえ。じゃ、ますますお姉さんだ」


「まずはキャラバンと話してきな。それからだ、全部」

「はい! いってきます!」


藜が勢いよく外へ出ていく。


……。


戻ってきた。


「キャラバンって、どこにいるの?」




次の日。


食堂では、前の日の老ハンターの話を、村のみんなであれやこれやと話していた。


そこへ一人の男が入ってくる。


「あの、こちらに……あ! 昨日はうちの藜がお邪魔しまして」


「えっと、どちら様でしょうか?」


蓼が丁寧に聞く。

こういう時はやっぱ蓼だよなぁ。


「あ、すみません。キャラバン隊のリーダーしてます」


めっちゃ腰が低い人!


「その、リーダーさんがなにか?」

「藜がご迷惑をおかけしたと思いまして。そのお詫びと、なにか説明をと」

「まだ迷惑はしてないよ。まだね」


「御形姉さん!」


「あの、リーダーさん。なぜ藜さんは老ハンターさんにあんなに?」

「ああ。藜は修道院育ちで家族がいないんで、それでじゃないかなと」


「一人にしておききれないと」

「たぶんですね。あの老人を保護してから、ずっと藜一人で面倒見てるんですよ」


「へえ、すごいじゃん」

「思ったよりも思い入れがありそうですね」

「本人は弟子入りするつもりみたいですけど」


「ハンターに?」

「はい。ハンターにも憧れてましたし」


「老ハンターさんは受けたんですか?」

「いや、こんな若い娘は駄目だろうと」

「でしょうねえ」


「なんで?」

「……姉さんみたいな人ばっかじゃないんですよ」


「なんか、なんだか、うん」


「で、藜さんは? 無理やり?」

「のようですね」


「なら、いいんじゃない?」

「姉さん」


「反対してるの、老ハンターだけってことだよね」

「まあ、わたし達は本人の気持ちは尊重しますから。ただ、受け入れ先がないのに置いていくわけにもいかず」


「分かった! わたしが言ってくる」

「姉さんったら」


「あの、ご迷惑では?」

「じいさんの恩人だよ。当たり前のことだよ」


わたしは食堂を出て、老ハンターの家へ。


「来たよ! じいさん」

「あら、御形姉さん!」


「姉じゃないって」

「まあまあ」


「って、なんでここにいるの」

「だって、このじいさん一人じゃ何にもできないよ」


奥の椅子に座っている老人を見る。


やれやれって顔してる。


「じいさん!」

「なんだよ」


「一人で買い物行けるのか?」

「籐吾に頼む」


「料理は?」

「女将に頼む」


「洗濯やら風呂はどうする?」

「それは御形だなあ」

「やだよ」


「おまえなあ」


「諦めな! 一人じゃ何にもできないじゃないか」

「待て、待て」

「弟子に面倒見てもらうのは恥ずかしくないぞ。当たり前のことだろ」


「弟子ならな」

「ここにいるじゃないか、弟子が」


「おまえ、それ言いに来たのか?」

「そうだよ」


藜を見る。


「藜! じいさんの面倒、弟子なんだから仕方なくみるんだぞ」

「仕方ないねえ。弟子だもんね」


「弟子は大変だな」

「大変だ。よろしくね、師匠!」


「ったく……あー、分かった! 分かった! お願いするよ」


「お願いします、だろ。じいさん」

「……お願いします、藜よ」


「はい! お願いされました!」


「泣くなよ」

「泣いてない」


「そうか? 目から水が垂れてるぞ」

「雨じゃない?」


「もうすぐ乾季だよ」

「そうだった」


藜が笑う。


「ありがとう。これからよろしく」

「こちらこそ」


どこかからの風が、

村に一人の人を連れてきた。


海の香りと共に。

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