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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
実り 編

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第六章 ただいま

ガタン。

ガタン。


ガタン。

ガタン。


荷車に揺られる。


こんなに落ち着いて外界を走るのは、初めてかもしれない。

幌の前と後ろから、明るい景色が流れていく。


行きよりも、とっても色鮮やか。

こんなに外界って綺麗だったんだ。


なんとなく隣を見る。

萱が寝てる。


ずっと一緒にいてくれた。

お疲れ様でした。

そして、ありがとうね。


「蓼さん! 防護林見えましたよ!」


御者台の菖蒲さんから声がする。

わたしも御者台の横から顔を出した。


遠くに見える、緑の長い林。


「綺麗……」

「はい、わたし達の村です」


「ただいま」

「はい、帰って来ましたね」

「うん」


防護林の切れ目から中へ入る。

やがて正門が見えてきた。


衛兵さん達がこちらに気がついて、大きく手を振ってくれる。


あ。

荷車の旗。


このためなんだ。

遠くからでも、わたし達だってわかる。


「おかえりなさい!」

「ただいま戻りました!」

「あ、蓼さん! 戻られたんですね」


「はい、帰って来ました」

「おかえりなさい」

「はい、ただいまです」


正門を抜け、そのまま村の中へ。


見慣れた景色。

なのに、なんだか懐かしい。


荷車は食堂の前で止まった。


食堂。

ずいぶん久しぶりに感じる。


そして入り口には、じっとこちらを待っている人。


「御形さん!」

「蓼、おかえり」


荷車から飛び降りる。

そのまま御形さんの胸へ飛び込んだ。


「ただいま! 御形姉さん!」

「あら、妹が増えちまった」


「ふふふ」


「おかえり」

「はい!」


荷車の上を見ると、菖蒲さんが笑ってる。


「菖蒲もおかえり」

「ただいま帰りました!」


菖蒲さんも荷車から飛び降りて、そのまま御形姉さんに飛び込んだ。


三人で抱き合う。

なんだか、おかしくなって笑ってしまう。


「わたしにもお姉さんが増えました?」

「妹ちゃん、よろしくね」

「蓼姉さんもよろしくです!」


みんなで笑う。

食堂の中では、女将さんもカウンターから笑っていた。


やっと帰って来ました。

わたしの村。


「女将さん、ただいま戻りました」

「はい、おかえり」


「また、お世話になります」

「はいよ」


いつもの女将さん。

それだけで、なんだか嬉しい。


「萱も親方さんに挨拶に行かなきゃね」

「あ、そうか」


「一緒に行こ」

「一緒に来てくれるの?」


うなずく。

女将さんが笑った。


「ああ、二人で早いとこ報告しといで」

「はい!」


鍛冶屋へ向かう。


久しぶりの道。

久しぶりの音。


「親方! ただいま戻りました! 長いこと休みをいただき、ありがとうございます!」

「おう。蓼、おかえり」

「ただいま戻りました」


「萱」

「はい!」


「明日から今まで以上に働け」

「はい!」


相変わらずだなあ。


……ん?


「で、そちらの人は?」


鍛冶場の奥。


若い男の子が、大きな革のエプロンにすっぽり着られている。


「ん? おれの弟子だ」

「え?」


萱が固まった。

親方さんが萱を見る。


「お前は出ていけ」

「えーーー、そんな!」


「隣りだがな」

「は?」


親方さんがにやにやしながら外へ出ていく。

わたし達も後についていく。


「ほれ」


隣に建つ、新しい建物。


「お前の工房だ」

「……」


萱が、ぽかんと口を開けたまま立っている。


「来た時、気づかなかった?」

「ぜんぜん見てなかった」

「前しか見てなかったもんね」


「親方からなんて言われるかばっかだった」

「そんなにおれ、おっかないか?」


「とってもいい親方です! こんな綺麗な工房を!」


親方さんが笑う。


「お前が弟子を取ったら、次はお前がする番だ」


萱が親方さんを見る。


「おれも、おれの親方からそうしてもらった」

「はい! 精進します!」


「あとな、まだまだ手伝えよ」

「あ、はい」


ばんばんと背中を叩かれてる。


新しい工房。

まだ新しい木の香りがする。


工房の中のことは、わたしにはよくわからない。


でもきっと、萱が仕事をしやすいように、いろいろ考えて作ってあるんだろうな。


後ろでは、親方さんが工房の説明をしている。


「お前は村で使う道具や物を担当しろ」

「親方は?」

「おれは刀やナイフをやるから」


「あ、それは時々教えてください!」

「そのつもりだ。特に刀は、まだ全部は教えてない」


「……はい」

「おれもしっかりはまってするから、手伝えよ」


「はい! よろしくお願いします!」


よかった。

萱も、顔が生き生きしてる。


親方さんがふと思い出したように聞いた。


「で? 新しい家は入ったのか?」


「あ、まだです」

「あ、まだです」


二人で同時に答えてしまった。


「戻って、新しい家で準備をして来い。今晩寝れなくなるぞ」

「……そうだった!」


工房ですっかり忘れてた。


「では、親方さん! 失礼します」

「ああ。元気そうでなによりだ」


わたしは親方さんに頭を下げる。


「大変ご心配をおかけしました」

「これも親の楽しみさ」

「ありがとうございます」


「戻りましたー」


食堂へ戻ると、御形姉さんが声をかけてくれる。


「どうだった?」

「親方さんですか? とってもご機嫌でしたよー」

「だろうな。親方、食堂に来るたんびに新しい工房自慢してたから」


「そうなんだ」


萱を見る。


「萱、感謝しなきゃな」

「おれ、いっぱい働こ」


すると菖蒲さんがすぐに口を挟んだ。


「ほどほどにしてくださいね。蓼姉さん泣かせたら、わたしが黙ってませんよ!」

「あ、はい。ほどほどに頑張ります」


みんなで笑う。


「あ、そうそう。新しい家」

「あ、見たい!」

「あたしも! 姉さん達みんなで見ようよ!」


わいわいと、みんなで新しい家へ向かう。


いいな。

こんな姉妹。


「ほらほら、まずは姉さんから!」

「わ、ちょっと、菖蒲さん」


ぐいぐい背中を押されて、家の中へ。


「おじゃましまーす」


思わず言ってしまった。


「蓼、自分の家だろ」

「つい」


みんなが笑う。

最初から、笑顔が溢れる家になりました。


ここも新しい木の香りがいっぱい。


見回す。


「素敵……」


明るい。

炊事場もある。

お風呂もある。


雨に濡れずに食堂へ行けるようにもなっている。


「菖蒲、ここに泊まろか?」

「ですね」


「お布団まだありませんよ」

「持って来ます!」


「あはは!」


また、みんなで笑う。


「あ! 姉さん! 姉さん!」

「なーに?」


寝室を覗いていた菖蒲さんが手招きしている。


「ほらほら」


みんなで覗く。


「あ、赤ちゃんのベッド。小さいなあ――」


菖蒲さんの声が止まった。


「あ……姉さん、ごめん」


小さなベッドを見る。


「ううん。もう大丈夫だよ」


胸に手を当てる。


「ちゃんと、ここにいるから」

「姉さん……」


「へえー、広いな」


萱が部屋を見回している。


「そのかわり、部屋が二つですけどね」

「萱、蓼を怒らせたら行くとこないな」


「……ですね。気をつけなきゃ」


また笑う。

どの部屋も笑顔。


「寝室のベッドも大きい」

「みんなのベッドは小さいの?」


「今は籐吾兄さんのとこで寝てますから、広いですよ」

「え? 籐吾さんは?」

「ん? 一緒」


「御形姉さん!」

「わたしも一緒だよ」


「え? 三人で?」


「うん」

「うん」


……ちょっと待って。


「御形姉さんは籐吾さんと、まあまあいいとして……菖蒲さんも?!」


「だよ。姉さん達と一緒」

「籐吾さんは何も言わずに?」


「しょっちゅう文句言ってる」

「でしょうね」


問題はそこじゃない。


「御形姉さんは?」

「ん? わたし?」


「菖蒲さんと籐吾さんが一緒に寝てるの」

「うん、寝てるね」


「平気?」

「なんで?」


御形姉さんと菖蒲さん。

二人そろって首を傾げてる。


……この二人は。

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