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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
素晴らしき世界 編

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お仕事の章

穏やかな一日が始まる。

長かった雨季も明けた。


空は青く。

陽射しは明るく。


雨の間、じっと耐えていた草木も。

人も。

動物も。

世界ごと、みんな賑やかになる。


わたしの村。


村の中なら、端から端まで歩いても半時くらい。


その村をぐるりと囲んでいる外壁。

今日は、その外壁の外側を見ながら歩いてゆく。


雨季の間に何か変わったことはないか。

変なものが居ついていないか。

壁が傷んでいないか。

ぐるりと一周。


だいたい二時ほどのお仕事。


さて。

行きますか。


カン、カン、トン、カン。

歩き始めてしばらくすると、木を叩く音が聞こえてきた。


カン、カン。

トン、カン。

大工達が外壁の補修をしている。


雨季明けの、いつもの光景。

長く降り続いた雨は、どうしたって木を傷める。


「おはようございます!」

声をかける。

真っ黒に日焼けした棟梁が振り向いた。

真っ白な歯が見える。

「御形か! おはよう!」

「おはようございます!」


周りの職人達も応えてくれる。

「雨季明けは、お互い大変だな」

「そーだね」

棟梁が外壁を見上げる。


「こないだ牛を食べたしな。頑張らんと」

「あはは。次は鳥を狩ってくるよ。棟梁の肩が軽くなるようにね」

「おー!」

棟梁の顔が一気に明るくなった。


「楽しみが増えたな。仕事終わりの焼き鳥と酒か。楽しみだ」

「無理しないようにね」

「御形に心配されるとは、俺も歳かな」

「何言ってんだ」

「あはは!」

「じゃあ」

「おう、またな!」

手を振って歩き出す。


すると背中から。

「おら、働け! 焼き鳥食わさんぞ!」

「へーい!」

職人達の声。

思わず笑う。


――明日にでも狩りに出るかな。


少し歩く。

少し離れたところ。


外壁の柵の上から元気な声が飛んできた。

「あ、御形の姉さん! おはようございます!」

「あ、おはよう!」


若い見習いだ。

「すみません、その下の袋取ってもらっても――」

「ばかやろう!」

下にいた職人さんの怒鳴り声。


「おめえが御形使ってどうする! 自分で動け!」

「あっ、はい!」

怒られてる。


「いや、いいんだって」

袋を拾い上げる。


「ほら」

「ありがとうございます!」

「御形、おはよう」

「おはよう」

職人さんとも挨拶。


せっかくだし。

「なんか手伝おうか?」

「あ、姉さんならですね――」

「ばかやろう! お前が御形使うなんざ――」

「はははは! いいって」

別にこれくらい。


どうせ今日は歩いて見て回るだけだし。


下から部品を取ったり。

道具を渡したり。

木材を抱えて運んだり。

気がつけば――。


一時ほど。

普通に一緒になって汗を流していた。


「ふぅー」

ひと休み。

額の汗を拭う。


見習いが隣で水を飲みながら、わたしを見る。

「やっぱ、姉さんすごいっすね」

「そうか?」

「絶対、喧嘩なんか売りたくないですもん」

「それ、女子に言ったらダメなやつだろ」

「あはは!」

職人さんまで笑う。


「こいつに喧嘩なんか売るのは、ここじゃ籐吾ぐらいなもんだ」

「おじさんもそれ言っちゃう?」


まったく。

笑いながら立ち上がる。


さて。

仕事、仕事。

……いや。

今のも仕事か?

まあ、いいや。


朝の間。

そのまま外周を見て回った。

雨季の間に大型の獣が居ついた様子もない。

新しい巣穴もない。

目立った足跡もなし。


大工達が直しているところ以外、外壁にも大きな異常はなさそう。


うん。

大丈夫だね。


昼から。

わたしは鍛冶屋へ向かった。

「こんにちは!」

「おう、御形か?」

親方が顔を上げる。


「どうした? なんか壊したか?」

「壊してないって」

わたしはそんなに毎回何か壊してるのか。


「実はさ、朝、大工の見習いの子に会ってさ」

「ああ。頑張ってたか?」

「それは大丈夫だと思う。それでね」

壁に並ぶ道具を見る。


「金槌でも贈ってやろうかと思って」

「ほー」

親方がこっちを見る。


なんだ、その顔。

「なんだよ」

「お姉さんしてるじゃねえか」

「うっさいな」


親方は笑いながら壁へ向かい、並んだ金槌の中から一つ取った。


「あいつなら、これくらいだな」

「うん」

「どうする? なんか手を加えるか?」


朝の見習いを思い出す。

木材。

袋。

道具。


それから。

「あいつ、手が小さいからな」


「なら、柄を少し加工するか」

親方が金槌を見る。


「上も少しだけ軽くして」

「そうか。バランス良くな」

「そうだ」

親方がニヤリとする。


「片方だけじゃあな」

「……」

「フルオーダーになるじゃないか」

「あはは」

「御形と俺からの就職祝いだわな」

親方が袖をまくる。


「待ってろ。すぐ加工しよう」


「御形さん、お疲れ様です」

奥からお弟子さんが出てきた。


暑そうだ。

鍛冶場だもんなぁ。


「お疲れ」

手を上げて応える。

「暑そうだな」

「暑いです」


即答。

そりゃそうだ。


「親方、柄はこれくらいで?」

「そうだな。細くするから、あっちの硬いのを」

「なるほどですね」


材料を選ぶ。

削る。

握る。

また削る。

途中で弟子にも握らせる。


また削る。

親方から柄を渡された。


「御形、こんなものか?」

握ってみる。

「ん。いい感じだ」

「お前のじゃないぞ」

「あ、そうだった」

ついつい自分基準で考えてしまった。


「うん。でも大丈夫だと思う」

「後は頭だな」

柄と頭を組み合わせる。


削る。

合わせる。

また削る。

親方が全体のバランスを見る。


弟子へ渡した。

「どうだ?」

弟子が何度か軽く振る。


「少しだけ、頭が重いと思います」

「よし、上等だ。削ってみろ」

「はい」

弟子が慎重に削る。


少しずつ。

「どうでしょう?」

親方が受け取り。


今度は、わたしへ。

「御形、どうだ?」

「金槌はよくわからないけど、いいのか?」

「刀と同じだ。感じたままでかまわん」

なるほど。

軽く振ってみる。


「うん。なんとなくなら、いい感じ」

「ふむ」

親方が受け取り。


ほんのわずか。

削る。


「こうなら?」

もう一度握る。


「あ」

違う。

「違うね」


弟子にも渡す。

「あー、なるほど」


親方が満足そうに頷いた。

「後で棟梁に渡しておくか」

「ああ、お願いする」


完成した金槌を見る。

明日のあいつの顔が楽しみだ。


鍛冶屋を出る。

さて。

……あ。

少し先に防具屋。

――ついでに顔出しておくか。


「こんにちはー」

「おう、御形か」

親父さんが顔を上げる。


「胸当て壊したか?」

「壊してないって」

今日はみんなそれ聞くな。


「なら、またキツくなったな。どら、見てやろう」

「大丈夫だよ。仕事しろよ」

「仕事だろーが」

「目が仕事してないよ」

まったく。


「また、御形さんに怒られてるんですか?」

奥からお弟子さんが出てきた。

「いらっしゃいませ」

「こんにちは」

「どうかしました?」

「いや、寄っただけ。忙しそうだね」

「はい」

奥を見る。

ずらり。

防具や革製品が並んでいる。

修理待ちの依頼品。

「御形さん達みたいに、雨季に準備してなかった分です」

「あー」

なるほど。


雨季が明けて、みんな一斉に動き始めた。

当然、使う道具も防具も必要になる。

「では」

弟子が一つのカゴを抱えて奥へ戻る。

「頑張ってね」

「ありがとうございます」


「で?」

親父さんが言う。

「今日は冷やかしか?」

「親父さんが仕事してるかね、見に来た」

「してるだろ」

「もう。目がいやらしいって」

「相手してくれるのは、おまえくらいだからなぁ」

「まあ、普通の女の子はここにはねぇ」

「まあ、ゆっくりしていけ」

店の中を見る。


「いっぱいあるねー」


「あ、そこ持ってくれ」

「ここ?」

「そう。引くぞ」

「うん」

ぐん!

革紐を引く。


縫い目がぎゅっと締まる。

「修理?」

「そうだ。大事に使えば、まだまだ役に立つ」


「ふーん」

「そっち」

「あ、はい」

「しっかりピンと持ってろ」


接着剤を塗った革同士を合わせる。

「よし、渡せ」

親父さんが受け取り。

丁寧に。

本当に丁寧に押さえてゆく。


こういうところは昔から変わらない。

「親父さん、相変わらず仕事は丁寧だね」


「いつもだろーが」

「わたしの扱い雑だけど」

「御形だからな」

「なんだよそれ」

「ほら、締めるぞ。そこ押さえておけ」

「はい」

ぎゅっ。

押さえる。


……。

わたし。

皮職人見習いになった?

うん。


防具屋を出る。


さて。

次はどこへ行こうか。

今度は足を、外壁の内側へ向ける。


そのまま歩いてゆく。

半周もしないうちに農地へ出た。


「あ、こんにちはー!」

「おう、こんにちは。見回りか?」

「まあ、そんなものだね」

「?」

農家のおじさんが首を傾げる。

「なんだ、その曖昧な答えは」

「ははは」


自分でも、だんだん何の仕事してるのかわからなくなってきた。


「どうだった? 外周りは?」

「ああ」

それなら。


「うん、大丈夫! 雨季のあいだに変なのとかは居ついてないし」

「そうか」

おじさんが外壁の向こうを見る。


「なら、この辺まで植えても大丈夫だな」

「うん、大丈夫。なんかあったら言って」

「ありがとうよ。じゃあ」

「?」

「これから種芋植えるんで、運んでもらっていいか?」

「え?」


いや。

そんなつもりの「なんかあったら」じゃないんだけど。


「まあまあ」

「えぇ……」

そして。

わたしは今度は農家の見習いに転身した。


種芋を運ぶ。

ひとしきり運び終えたら、今度は畑。


畝を軽く掘って窪みを作る。

上下を確認しながら、おじさんが種芋を置いてゆく。

その横から土を被せるのが、わたし。


「ほい、ほい、ほい」

なんか。

リズミカル。


「ほい、ほい、ほい」

なんか楽しい。

……腰にくるけど。


「終わったーー!」

ぐーっと背中を伸ばす。


腰が。

腰がぁ。

「助かったよ」

「いやー」

おじさんは慣れたものだ。


「ちょいと寄って行きな」

「いいよ」

「そのまま返したら、ばあちゃんに俺が怒られる」

「なら」

それは仕方ない。


「あ、おばあちゃん! こんにちは!」

「はい、こんにちは」

農家のおばあちゃんが笑う。


「ありがとうね、手伝ってもらって」

「いえ、通りすがりだから」

「まあ、お茶でも飲んで行きなさい」

「ありがとうございます」

ありがたくいただく。

働いた後のお茶。

美味しい。


隣の倉庫から、おじさんがカゴを抱えて戻ってきた。

「ほら」

「ん?」

「形が悪いやつだけど持ってけ。後、こっちは間引いたやつな」


カゴいっぱい。

野菜達。


「こんなに?」

「持ってけ、持ってけ」

「ありがとう! 今日の晩御飯に使うよ」

「うん」


さて。

お土産まで増えてしまった。


農家を離れる。

さてと。


残りの半周見て帰ろうか。

カゴを抱えたまま、また外壁の内側を歩いてゆく。


壁を見る。

地面を見る。

周りを見る。


……。

穴。

「ん?」

なんだ?

近づく。

外壁の木と木の隙間。

地面に小さな穴が掘られている。


「あ」

ネズミだ。

困ったな。

ここに巣でも作られたら面倒だ。


うーん。

でも。

手には、さっきもらった野菜のカゴ。


「あ、そうだ」

カゴの中を見る。

細いにんじんを一本。

これでいいや。

穴の前に置く。


少し離れる。

待つ。

……。

待つ。

……。

しばらく待つ。


ヒョコ。

「あ」

やっぱりネズミ。

しかも、そこそこな大きさ。


腰へ手を伸ばす。

投げナイフを一本。


投擲。

一撃。

しっかりと仕留めた。


ネズミを拾い上げる。

柵の外へ放り投げる。

ネズミは使い道がない。


それから穴を埋める。

土を踏み固める。

「よし」

これでいい。


さあ。

帰ろう。


正門まで帰って来た。

「お疲れ様!」


門番へ声をかける。

「お疲れ様です! ……って、なんですかその格好」

「ん?」


自分を見る。

木屑。

どこかでついた煤。

革仕事の跡。

畑の土。

そして腕には、野菜のカゴ。


「あはは。一周して来たら、こうなってた」

「今日、お仕事でしたよね?」

「そうだよ」

間違ってない。


「大変、お疲れ様でした」

「ありがと」

「報告はあちらで」

「はいはい」


今日の調査結果を共有する。


雨季の間に大型獣などが居ついた形跡はなし。

目立った足跡もなし。

外壁の補修は大工達が進めている。

農地周辺も問題なし。

内側にネズミ穴を一つ発見。

処理して、穴は埋めた。

以上。

問題なし。


「じゃあね!」

「はい、お疲れ様でした!」

「おつかれー」

正門を離れる。

カゴいっぱいの野菜を抱えて。

家へ向かう。


一日が終わった。

なんて充実した一日。

……。

いや。

しすぎだろ、これ。


翌日。

朝。


いつもの正門前。

「おはようございます!」

「おはようございます!」

いつもの挨拶。

今日も穏やかな朝。

すると。


「御形の姉さーん!」

ん?

声の方を見る。

少し離れた柵の上。

昨日の見習いが、大きく手を振っている。

腰には。

昨日までなかった金槌。

「あ」

渡ったんだ。


「はい、おはよう!」

「ありがとうございます!」

嬉しそうだ。

よかった。


「わたしだけじゃなく、鍛冶屋の親方とお弟子さんからだよ」

「はい! 大事に使います!」


すると棟梁の声が飛んだ。

「道具は使ってなんぼだ!」

見習いが振り向く。


「使い倒して鍛冶屋に持ってけ! 喜ぶからな!」


「はい!」

「ほら、働け!」

「はい!」

元気な返事。


やがて。

カン。

カン。

トン。

カン。

新しい金槌の音が、朝の村に混じってゆく。


昨日と同じように。

今日も誰かが働いている。

外壁を直す人。

畑を耕す人。

道具を作る人。

防具を直す人。

門を守る人。

そして。

その外を歩く、わたし。


青い空を見上げる。

雨季は明けた。

今日も世界は賑やかだ。


「んー、今日も平和だな」

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