第二章 そういえば
朝、目が覚める。
菖蒲はすでに起きている。
籐吾は当たり前のように――
んごー。
……こいつ、心配事とかないのか?
「おはよう」
「はい、おはようさん」
「おはようございます!」
「じいちゃんは?」
「裏で朝から剣振ってますよ」
「元気だなあ」
裏に出てみると、
シュッ。
シュッ。
シュッ。
じいちゃんが剣を振っている。
基本動作を忠実に。
ひとつひとつ、念入りに。
「じいちゃん元気だね」
「おう、御形か。老ハンターが戻るまでは、代わりをする者がいるじゃろうて」
「じいちゃんも出るんだ」
「あくまで代わりだがな」
「そっか」
「おまえも身体動かさんと鈍るぞ」
――そう言われてみれば、ずいぶん仕事してないな。
今日から仕事を再開することにした。
今まで代わってもらった分、と言うわけでもないけど。
毎日、朝と昼、籐吾と外苑を見回ることにする。
馬の練習もしとこうかなあ。
菖蒲に頼んでおくか。
籐吾と外苑を見回る。
腰に長剣を下げるのも、なんだか久しぶりだ。
「籐吾、大剣重くない?」
「んー、なんか、違うな」
「だよねー。なんだろ?」
そんな話をしながら、防護林や外壁を見て回る。
ハンターなんて、何も起きなければ歩いているだけ。
時々、防護林で採集家の人と会うくらい。
わたし達が見回っていれば、少しは安心らしい。
櫓の下では見張りの人と話をして、
正門では衛兵達と情報を共有する。
外苑の一部を囲った厩舎では馬達の様子を見て、
同じように囲われた池の周りでは魚を眺める。
「ずいぶんでっかくなったな」
「そろそろ出荷できますよ」
菖蒲が得意そうに言う。
「うまそうだな」
相変わらずな籐吾。
「……籐吾兄さんに一番に食べさせてあげますよ」
菖蒲、めっちゃ嬉しそうな顔をしてる。
「菖蒲、おまえ隣村に定期便で行ってんのか?」
「わたしは最初と、こないだだけですね。することは決まってますし、時々顔を出すだけですね」
「そんなものなのか?」
「何かあれば、すぐ次で行けますし」
「まあ、うん。そういえばそうだな」
お昼に食堂へ顔を出す。
また菖蒲がいる。
「おう、菖蒲」
「あ、姉さん。おつかれさま」
「ここにもいるな」
「保存食の納品ですよ」
「菖蒲の親方印の保存食、人気なんだよ」
女将さんが教えてくれる。
「へえ」
また菖蒲の得意そうな顔。
ずいぶんいろんなところにいるなあ。
昼からも外苑を歩く。
防護林の木を眺めながら、ふと足を止める。
「籐吾」
「ん?」
「あの木の実、なんだっけ?」
「ん? あの緑の木の実か?」
「そう、あの木の実」
「……木の実だな」
「……そうだよね」
しばらく歩く。
「あ、籐吾。キノコだ」
「食えるのか?」
「どうだろう?」
しゃがんで眺める。
そういえば、ばあちゃんに習った。
食べられる実。
美味しい実。
美味しいキノコ。
毒キノコ。
でも――
なんだっけなあ。
「たくさんなってるよなあ」
「ん」
今回の温暖季は、外苑は豊かなようだ。
次の朝。
起きて、剣を振る。
じいちゃんと一緒に。
シュッ。
シュッ。
シュッ。
ひとつ、ひとつ、確認しながら。
こんな朝も、なんだか久しぶり。
シュッ。
シュッ。
シュッ。
ブオッ。
「うわ?!」
振り返ると、籐吾もいつの間にか後ろで大剣を振っていた。
「腹減った」
「ああ、朝御飯前だもんね」
朝御飯。
籐吾は今日もモリモリ食べている。
「姉さん、今日は馬さんの練習出来ますよ」
「お、そう? なら朝の見回りが終わったら行くよ」
「厩舎の方には言っておきますから」
「ありがとな」
「いえいえ」
頼んでおいたことは、もう済んでいる。
ほんと、仕事が早い。
昼から。
そういえば、鍛冶屋はどうだろう?
ちょっと顔を出してみる。
「親方ー、元気かあ?」
「ん? 御形か。ちょっと手伝って行け」
「やっぱ、萱がいないと忙しい?」
「なんて事ないぞ!」
……
「って事もないな。やっぱりな」
「だよねー」
親方は手を動かしながら笑う。
「乾季には独り立ちさせるし、また弟子でもとるかあ」
「場所はどうするんだい?」
「ん? 大工には頼んでる。隣に建てるつもりさ。いざと言う時に近い方がいいからな」
「へえ。寂しいからじゃなくて?」
「ばか言ってんじゃねえぞ」
親方は笑ってる。
うん。
大丈夫そうだな。
晩御飯が終わって、
みんなでお茶でも飲みながら、たわいもないお喋り。
お腹もふくれたのか、籐吾は眠そうな目をしている。
「風呂行って来るー」
籐吾が席を立って、ふらふらとお風呂へ。
その後ろ姿を目で見送って、
また、わたし達はお喋り。
しばーらくたって、
「上がりましたー」
シャツ姿の籐吾が出てくる。
頭には大きな布を乗せてる。
「じゃあ、わたしも入ってこよ」
「あ、姉さん、わたしもいく!」
「ん? 一緒にいくか」
お風呂でも、
まだまだ、お喋り。
「上がったよー」
椅子の上で半分くらい寝ている籐吾の横へ行く。
「んーーー!! って、服! って! 菖蒲も!」
上半身、大きな布一枚のわたし達二人。
「うるさいですよ、兄さん」
「そうだそうだ」
「そうだじゃあねえ! 早く服着ろ!」
「うるさいなあ、もう」
「ったく、おれはもう寝るからな」
「はいはい、おやすみな」
「兄さん、おやすみなさい」
籐吾はさっさとベッドの部屋へ行ってしまった。
また菖蒲とお喋りしながら、
わたし達もベッドの部屋へ。
んごー。
籐吾はもう寝てる。
「そうだ、そういえば蓼がな」
「ん?」
「萱と寝ると、とっても落ち着くって言った」
「ふーん」
「なんか、落ち着く匂いなんだと」
「籐吾兄さんの匂いも落ち着きますよね」
「まあ、そうだなあ」
……
んごー。
「試してみるか?」
「ですね」
籐吾の横に潜り込む。
菖蒲は籐吾の背中にくっついてる。
「どう?」
「んー、あったかいですねー。これは寝れるかも」
「思ったより狭くもないな」
「でっかいですもん」
籐吾サイズのベッド。
普通よりはかなり大きい。
「おやすみー」
「おやすみ姉さん」
……
くーー。
くーー。
すーー。
くーー。
すーー。
…………。
朝?
んー、なんか動いてる。
「うおぉい!!!!」
「ん? 籐吾うるさい」
「兄さん静かに……」
くーーーーー。
「なんだ! おまいら!」
「うるさい!」
ばふ!
枕を投げる。
「兄さん静かにして」
「あ、菖蒲まで!!」
「……なにやってんだよ?」




