第一章 ふたつ満月
あれから蓼は、時々下に降りてくるようになった。
朝、食堂へ行くと、カウンターに座っていることがある。
「おはよう」
「おはよう、御形さん」
蓼の顔を見る。
「だいぶ顔もふっくらしてきたな」
「えー、わたし太りました?」
「もっといい物、食べさせてないとな」
「わたしを太らせてどうするつもり?」
「蓼なら美味しいかもな」
「もう」
蓼が笑う。
少しずつ。
本当に少しずつだけど。
笑えるようにもなった。
「あのね」
「うん」
蓼がカウンターに座ったまま、少しだけ目を伏せる。
「わたし、次の満月便で一度戻ろうと思ってね」
「お母さんのところにな」
「うん。母さんにも心配かけてるだろうし」
「いいな。お母さんに甘えて来な」
「わたしだって、お母さんなんだよ」
そう言って、蓼がお腹をさする。
そこにはもういない。
でも――
「ここにいたんだもんね」
「そうだな。忘れる必要はないな」
「うん」
「ちゃんと、覚えててあげないとな」
「うん……ありがとね、御形さん」
「わたしは何にもしてないよ」
「ずっと待っててくれたじゃない。わたしの戻る場所に」
「わたしだって、蓼を待ってただけさ」
少し考える。
「お互いで待ってたんだ」
蓼が小さく笑った。
「そうみたいだな。蓼もありがとな」
「わたしも、御形さんの戻る場所になってた?」
「ああ」
蓼を見る。
「わたしは、蓼に会うためにここに来てるんだよ」
「よかった。少しは役に立ってたんだ」
「うん」
蓼の頭を、そっと撫でる。
ふと見ると、階段には萱が座っている。
ずっとそこにいたらしい。
わたしの後ろには籐吾が立っている。
こいつも、ずっといる。
蓼がいて。
萱がいて。
わたしがいて。
籐吾がいる。
ちょっと変だけど。
とっても暖かい。




