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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
花の 編

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菖蒲の章 第二幕 じゅんび

青い空を、暖かい風が雲を連れて渡ってゆく。


穏やかな朝。


そんな朝から、わたしは役場のあの小部屋。

目の前には、またも村のお偉いさんたち。


村のお偉いさん。

リーダーさん。

和尚さん。

棟梁さん。


そして机の上には、わたしが持ってきた計画書。

みんなでそれを囲んで、頭を抱えている。


「村で池で魚を飼うかあ」

「水路から水を引くのか」

「なかなかのことじゃな」

「荷車に生簀とはなあ」


うーん。

みんな難しい顔。


ーそんなに大変なんですか?


「まずは池だな。掘って作ったばかりの池じゃあ、魚は育たないぞ」

「水路の増設も、なおいそれとはできんのう」


「荷車と生簀は……うん、まあ、なんとかするぞ」

棟梁さんだけ、なんとかなりそう。


でも、池と水路かあ。


「あの、じゃあ、今ある池を使っても?」

「村内の池は非常用と農業用だから駄目だぞ」


「いえ、外苑のひょうたん池とか」


「外苑か」

「はい。外苑。馬さんたちみたいに」


みんなの顔が上がる。


「ひょうたん池を囲むか」

「まあ、現実的な案だな」

「家が終われば、すぐできるぞ」


「水路は?」

「あの池は水が湧いとる」

「勝手に増える?」

「そういうこった」


「水草も苔もたくさんあるな」


「でも、大きくないか?」

「池の中の一部を囲めばいい」

「出来そうだな」


おお。

なんだか、出来そうになってきた。


「持って帰った小魚は?」

「まだ荷車の樽の中です」

「水は? どうしてる?」

「籐吾兄さんが毎朝足してます」


「とりあえず池に放してみるか」

「それで大丈夫なら、囲んでしまおう」


うまくいけば。

生簀が出来るかな?



外苑。

ひょうたん池のほとり。


棟梁さん。

親方さん。

和尚さん。

おじいちゃん。

籐吾兄さん。

そして、わたし。


みんなで池を囲んで、荷車に積んであった樽を見つめている。


「籐吾兄さん、ゆっくりですよ、ゆっくり」

「ん」


籐吾兄さんが大きな樽を傾ける。


ゆっくり。

ゆっくりと樽が傾いて――


ザーーーー。


水と一緒に、キラキラとした魚たちが飛び出した。

陽の光を浴びて、小さな身体がきらきら跳ねる。


そのまま池へ。

ぱしゃぱしゃと水面を揺らして――


すいーっ。

あっちへ。

こっちへ。


「どうだ?」

「普通に泳いで行きましたね」


「見えてるか?」

「んー……」


みんなで池を覗き込む。


……。

「最初に仕切りをした方が良かったです?」

「……見えんくなったな」

「ですねー」


いなくなった。

いや、いるんだろうけど。


見えなくなった。


「どうしましょう?」

「そうさのー」


うーん。

わたしは池を眺める。


それから。

「籐吾兄さん」

「んー?」


「これから、行きましょう」

「? どこへ?」


「鳥もも食べに」

「お! 行くぞ。すぐにか?」


「はい、すぐに。棟梁さん! 親方さん! 仕切りお願いしていいですか?」

「ああー、行ってこい」


「ほら、兄さん行きますよ!」

「御形は?」

「御形姉さんは見回りの日ですよ」


「よし!」

……。

食いしん坊め。



またまた、いつもの三人。

先頭を行く老ハンターさん。


その後ろを、籐吾兄さんの荷車。


荷車には生簀。

たっぷり入れた水が、揺れている。


ガタン。

ガタン。

ガタン。

ガタン。


やっぱり重いかなあ。

それでも馬さんは走ってゆく。


ガタン。

ガタン。


景色がどんどん後ろへ流れていく。

そして、すぐに見えてきた木の外壁。


隣り村。


「こんにちはー!」

「おー、またあんたらか」

「また来ました! まだまだ来るんでよろしくお願いします!」

「ははは」


んー。

すんなり通してくれる。

もう顔を覚えてもらったみたい。


そのまま役場へ直行――


……したいけど。

「籐吾兄さん、ちょっとこっち」

「ん?」


先に食堂へ顔を出す。


「女将さん! 鳥もも焼いてください!」

「あら、あんたかい」

「こんにちは!」

「あー、でっかいにいちゃんのね。はいはい、焼いとくよ。後で取りにおいで」

「お願いしまーす」


よし。

これで大丈夫。


さあ、役場へ。


「こんにちはー! 魚、小さいのくださーい!」



村の池のほとり。

おじさんにお願いして、小魚を分けてもらう。


池の中では、きらきらと小さな魚が泳いでいる。


「あやめー!」

聞き覚えのある声。

「あ、蓮!」

振り返ると、蓮がこっちへやって来る。


「って、さんは? また来たよ」

「菖蒲さん、また来たんだ。ほんとすぐ来るね」


「馬さんだからね」

「そっか」


何気なく手を伸ばす。

蓮も自然に握ってくれる。


……。

――なんか、手なんか握って恋人みたい!


「お取り込み中すまんが、これくらいでいいのか?」

「えっ?」


小魚をすくってくれていたおじさんの声で我に返る。


「あ、はい! わあ、こんなにたくさん? いいんですか?」

「好きなだけ持って行きな。ここ、いっぱいにおるからな」

「ありがとうございます!」


池を見る。

よく見ると、一つの池の中がいくつかに仕切られている。


その一画には、小さな魚がたくさん。


「ここで、大きく?」

「ああ。大きくなるにつれて隣の区画へ移すんだ」

「へー」


隣を見る。

確かに、少し大きい。

その隣は、もう少し大きい。


「なんとなく同じくらいの大きさが揃うんだ」

「そういうこった」

「勉強になります!」

「ああ、いつでもおいで」

「ありがとうございます!」


小魚も分けてもらった。

飼い方も少し教えてもらった。


よし。

「じゃ、蓮! また来るよ」

「うん、気をつけて」

「はーい。じゃあ、おじさんありがとうございました!」


あとは――。


食堂の前。

両手で鳥ももを持って、


もぐもぐ。

もぐもぐ。

幸せそうに食べている籐吾兄さん。


……。

食べ終わるのを待ってから、村を出た。


帰り道。

ガタン。

ガタン。

ガタン。

ガタン。


やっぱり水が重いのかなあ。

馬さんはちゃんと走ってくれている。


でも。

「大丈夫かなあ……帰ったらすぐ見てもらおう」

荷車も、これから何度も使うんだから。



ひょうたん池のほとり。

「戻りました!」

「速いのう」


「馬さんですから。棟梁さん、また荷車見てください。なんか重いみたい」

「そうか? 見てみるか」


棟梁さんが荷車の方へ向かう。


その間に籐吾兄さんが、生簀から小魚を移していく。

今度はちゃんと仕切られた池の中へ。


小魚たちが、ぱしゃぱしゃと水の中へ入っていく。

今度は見える。


よし。

「親方さん!」

「ん?」

「あっちの村では、こう、いくつかに分けて、大きさごとに移してましたよ」

「ほう」


親方さんが池を見る。

「なるほど。だんだん移していって、最後に出荷か。管理もしやすいだろうな」

「お願いしていいですか?」

「おう、任せとけ」


よし。

これで、お魚さんの方もなんとかなりそう。


翌日。

外苑が賑やかになる。


カン!

カン!

カン!

外から金槌の音が響いてくる。


外壁が追加されて。

村の中から外苑へ直接出入り出来るように、新しい出入り口が作られていく。


わたしの家の近く。

馬さんの出入り口。

お魚さんの出入り口。

わたしの作業場。

わたしのお店。


なんか。

どんどん変わるなあ。


カン!

カン!

外から聞こえてくる音を聞きながら、出来上がっていく風景を眺める。


――焼き魚のお店でも出そうかな。

お魚さんを焼いて。

みんなに食べてもらって。

蓮が焼いてくれたりして……。


……なんかいいな。

ふふ。

さて。

まだやることがある。



わたしはふと思いついて、衣屋さんへ向かった。


「こんにちはー」

「あら、いらっしゃい菖蒲さん」

「お姉さんにお願いが」

「なーに?」

「こんな感じの旗を作って欲しくて」


持ってきた紙を広げる。


「んー? 満月定期便と、半分の月定期便?」

「荷車に付けようと思って」

「荷車に?」

「うん。遠くからでも私たちって分かるといいかなと」

「へえ、なるほどねえ」


お姉さんが紙を持ち上げて眺める。


「じゃあ、目立つ色にしなくっちゃね」

「はい。そこはお願いします。あと、かわいく」

「了解しました! なんか楽しそうね」

「楽しいですよ」


「最近、八百屋さんは籐吾さんしか見ないのは、こんなことしてるんだ」

「あはは、ちょっと留守番頼んでるだけだよ」

「そう? いつも座ってるよ」


あはは。

お店を出る。


暖かい風が吹いている。

青い空。

風に揺れる草。


わたしの顔にも、自然と笑顔が花咲いている。


いよいよ。

準備も整いました!


次の満月。

満月定期便。

次の上弦の月。

半分の月定期便。


村と村を行って。

人を運んで。

物を運んで。

お魚さんも運んで。

きっと、いろんなものが行ったり来たりする。


よし!

あとは!

わたしの心を決めるだけ!

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