菖蒲の章 第零幕 定期便
いつもの小部屋。
でも、今日はいつものメンバーではない。
わたしとリーダーさん。
それから、お偉いさんが一人。
机の上には、わたしがまとめた計画書。
では、こちらが計画書です。
紙を一枚、前へ出す。
まず、目的地は第一宿泊地。
そして、編成は――
護衛の馬さんが二頭。
馬さんの荷車が一台。
以上です。
「ふむ、最小構成だな」
「はい。そして、こちらが交易品の例です。時期によって変わりますが」
もう一枚、紙を出す。
お偉いさんが目を通していく。
「ふむ……少ないな」
「その分、早く行って、早く戻れます」
「早く?」
「行程は、行きに一日。一泊して、帰りに一日です」
「つまり、三日で往復か?」
「そうです」
「それで成り立つと?」
そこが大事なところ。
「売買ではなく、交換します」
「交換?」
「はい。うちで必要な物。あちらで必要な物。あちらでたくさん取れる物。うちでたくさん取れる物。それをバランスよく」
たくさん積んで。
たくさん売って。
たくさん買って帰ってくる。
あのキャラバンとは少し違う。
「しかし、一番の商品は情報と連携と信頼です」
お偉いさんが顔を上げた。
「つまりは、お互いの村の発展ということだな」
「その通りです」
うん。
ちゃんと伝わった。
「で、頻度は?」
「温暖季の間、月一巡りに一度程度を考えています」
「月一巡り?」
「はい。満月ごとに行って帰ってくる。それくらいでいいかと」
毎日のように行く必要はない。
必要な物をまとめて。
向こうが必要な物もまとめてもらって。
行って。
交換して。
話をして。
帰ってくる。
それを繰り返す。
「わかった」
お偉いさんが計画書を机に置いた。
「まずは一度、調査として往復してみろ。そこで問題を確認してから正式に許可を出そう」
「え?」
「なんだ?」
「このままで?」
「なにか問題でも?」
「いや、なんか……あっさりしてるなあ、とか」
もっとこう。
これはどうする。
あれはどうする。
本当に大丈夫なのか。
そんな話になると思っていた。
「ん。リーダーがやると言ってるんでな。反対もせんよ」
え?
リーダーさんの顔を見る。
ものすごいドヤ顔だった。
――なるほど。
「あ、あと、もう一つ!」
「ん? まだなにか?」
「リーダーさんも」
「え? 俺も?」
「はい。更に隣村への定期便を」
「隣村と?」
もう一枚。
用意しておいた計画書を出す。
「こちらは更に最小限です。小型の荷車一台で、朝出て昼帰ります」
「一日でか?」
「はい。馬さんならすぐですから」
「積んだり降ろしたりは?」
「それは、あちらにも同じ荷車を用意しておきます」
「……つまり、荷車ごと交換するだけか」
「はい。なんなら、朝出て昼までに帰ることさえ可能ですよ」
こちらから荷車を一台。
向こうにも荷車を一台。
着いたら馬さんを付け替えて、そのまま帰る。
積み替える時間もほとんどいらない。
「確かにそうだが……何しに行くのだ?」
「はい。あちらは川が横にあるということで」
「そうだな」
「おかげで、この間のことも起きましたが」
雨季の終わり。
あの大雨。
増えた水。
救援に向かったみんな。
大変だった。
本当に大変だった。
でも。
「何より、新鮮な魚、食べたくありませんか?」
「魚を持って来るのか?」
「はい。その日に持って帰れば、新鮮なまま食べられますよ」
蓮が話してくれた。
あちらでは、新鮮な魚が食べられるって。
「うちからは?」
「防護林の薬草や、鳥たちなどの産物を」
「お互い、豊富な物同士の交換というわけか」
「はい」
向こうにたくさんある物。
こっちにたくさんある物。
交換すればいい。
お偉いさんが少し考えて。
「ふむ。では、こちらも試してみるか。な、リーダー」
「は? あ、はい。そうですね」
急に振られたリーダーさんが頷く。
それから少し考えて。
「しかし、新鮮な魚ですか。あちらの食堂では美味しいですもんね」
「うちでも食べましょうよ」
「ですね」
決まった。
……いいのかな。
こんな感じで。
役場を出た。
外へ出たところで、大きく伸びをする。
んーっ!
温暖季の空。
青い空には、白い雲が浮かんでいる。
――やった!
通った!
まだ試しだけど。
ちゃんと往復して、問題がないか確かめないといけないけど。
それでも。
――いいのかな、こんなに上手くいって。
あの、かわいい服がやって来る。
第一宿泊地の、あの洋品店。
あそこで作られた服が、この村までやって来る。
蓮が話してくれた、美味しい魚もやって来る。
それだけじゃない。
蓼さんの故郷とも。
蓮とも。
これからも、ちゃんと繋がりを持てる。
よし。
あとは、試しに行ってみることだ。
誰に頼もう。
あ。
和尚さんにも計画を見てもらおう。
大工さんにも荷車を頼まなきゃ。
あ。
馬さんにも報告しなきゃ。
きっと走りたいはず。
忙しくなる。
でも、その間の作業場とお店もあるんだよなあ。
どうしよう。
……あ。
籐吾兄さんに頼まなきゃ。




