蓼の章 第三幕 ささえ
青い空。
白い雲。
そして――
ま新しい木の骨組み。
「うわあー」
組み上がった木を見上げて、思わず声が出る。
「おう、蓼。どうだ?」
「あ、棟梁!」
木材を抱えた棟梁が、こっちを見ている。
「これ、なんかおっきくないですか?」
「あ? そうか?」
「だって、おばさんの部屋よりずっと……」
「まあな。風呂も炊事場も付けてるからな」
「は? 家じゃないですか?!」
「家だろ?」
「えー!」
再び見上げる。
太い柱。
梁。
まだ向こうの景色が丸見えの木の骨組み。
これが、わたしの部屋?
いや。
家?
「なにこれ?」
後ろから声がした。
「あ、萱」
「なにこれ?」
「ん? わたしの部屋?」
「でかくない?」
「だよね」
「うん」
二人で見上げる。
「女将さんが?」
「そう」
「おー! 萱!」
棟梁が大きな声を上げた。
「はい! なんです、親方?」
「後で釘と鎹、追加で頼むわ!」
「はい! 持って来ます」
「あと、かまど作るから材料な」
「は? かまど?」
「炊事場だって」
「部屋にかまど? 家じゃん」
「だよね」
二人して、ぽかんと口を開けて木の骨組みを見上げる。
その後ろには青い空。
白い雲。
お日様が笑っていた。
それから。
だんだんと骨組みに屋根がつき。
壁がつき。
窓がつき。
入り口が出来る。
少しずつ。
本当に家になっていく。
最近は棟梁が毎日のように食堂へやって来る。
「蓼! このテーブルはどれくらいのがいい?」
「え? テーブルですか?」
「そうだ。ちょっと来い」
「はーい」
連れていかれる。
次の日には、
「蓼! 椅子は?」
「椅子?」
「何脚いる?」
「えーっと……」
また連れていかれる。
その次には、
「蓼! こっちの台の高さ確認してくれ」
「またですかー?」
「お前が使うんだから、お前が見ないでどうする」
「はいはい」
またまた連れていかれる。
食堂へ戻ると、女将さんはいつも後ろでニコニコしてる。
何を聞いても、
「いいじゃないか」
とか、
「好きにしな」
とか。
そんなことばっかり。
萱はというと。
「へえー」
なんて言いながら、外から出来ていく家を眺めてる。
わたし一人、なんかばたばたしてる。
「お! 蓼来たよ」
「あ、おつかれさま、御形さん」
御形さんがやって来た。
「おー、できたねー」
二人で家を見上げる。
屋根もある。
壁もある。
窓も入った。
もう最初に見た木の骨組みとは全然違う。
「ですねー」
「家だね」
「家ですよ」
顔を見合わせる。
ふふっ。
二人で笑った。
御形さんが、もう一度家を見上げる。
「これなら赤ちゃん大丈夫だね」
「やっぱ、そういう事ですよね」
「そういう事だよ」
そっか。
やっぱり。
わたしも家を見上げる。
「萱には? まだ?」
「うん、まだ」
「そっか」
「うん」
少しだけ、お腹に手を当てる。
まだ何も分からないくらい。
でも。
ここにいる。
「早く言いたい?」
「うん」
「あと?」
「そろそろ」
「そっか。あいつ、どんな顔するかな」
「うーん……少し怖いかなあ」
「ん? 不安?」
「ちょっとだけね」
御形さんは家を見たまま。
「そん時は一緒にいるから」
「御形さん」
「わたしも心配だもん」
思わず笑った。
「じゃあ、お願いします」
「うん」
よし。
大丈夫が揃った。
女将さんが、居場所を作ってくれた。
御形さんが、心を支えてくれた。
棟梁が、部屋を――
家を作ってくれた。
あとは。
彼が決める事。
明日。
彼に告げようと思う。
わたしの中にいる、小さな命のこと。
わたしの新しい場所。
ま新しい家を見上げる。
青い空。
白い雲。
太陽がさんさんと降り注ぎ、ま新しい木を照らしている。
大丈夫!
そう言っているかのように。




