蓼の章 第零幕 わたしの村
わたしの生まれ故郷は、ここから少し離れた別の村。
まあ、母がこの村の出なので。
ここもわたしの故郷と言えば、故郷なのだけれど。
ただ、産まれて育ったところじゃないだけ。
今、わたしはこの村の食堂で働いている。
食堂で働いていると、たくさんの人と会う。
たくさんの人と話をする。
ここの村の人?
とっても暖かい。
暇そうに遊んでいるように見えて。
気がついたら、みんなで保存食なんか作ってる。
とにかく、なんかしてる。
それも楽しそうに。
笑いながら。
雨の日だってそうだった。
外はずっと雨。
どこへ行くにも雨。
何をするにも雨。
それなのに食堂にはみんな集まってきて。
飲んで。
食べて。
喋って。
笑って。
ついでみたいに、ちゃんと仕事もしている。
でも。
やるときゃやるぜ!
みたいなところも、かっこいい。
普段はダレてるおじさんなのに。
いざとなったら、みんな動く。
誰かが困っていたら手を貸して。
何かあったら集まって。
優しい。
でも、それだけじゃない。
暖かい。
そして。
萱。
わたしをここに連れて来た人。
ほんとは、みんなに言われて来たみたいだけど。
これは、キャラバンの秘密。
最初のキャラバンの時。
萱は、ただ見ているだけの人だった。
わたしも、ただ見ているだけ。
名前さえ知らなかった。
次のキャラバンの時。
やっと声をかけてきてくれた。
遅い。
わたしだって、気になってたのに。
そして、今度のキャラバン。
菖蒲さんの計らいで、お店の外でも話せた。
手も握れた。
ほとんどずっと、一緒に過ごせた。
そして決定的だったのが、帰りのキャラバン。
普段、キャラバンは帰りには同じ村へ寄らないらしい。
なのに今回は、帰りにも寄ってくれた。
そこで今度は。
菖蒲さんが、わたしの背中を押してくれた。
迷っていた、わたしの決心を。
この村へ行こう。
萱と一緒に行こう。
そう決めたわたしを、押してくれた。
それだけじゃない。
わたしがこの村で暮らせるように。
働けるように。
ここにいられるように。
全部してくれたのも、菖蒲さん。
なのに。
「お節介してごめん」
なんて、謝られてしまった。
なんで謝るんだろう。
わたしは、こんなに嬉しいのに。
菖蒲さんには、いつか。
ちゃんとお返ししなきゃ。
萱がいる。
菖蒲さんがいる。
女将さんがいる。
毎日、食堂にはいろんな人がやって来る。
笑って。
喋って。
食べて。
飲んで。
たまに働いて。
そんな人達がいる。
わたしが大好きな村。
だから、わたしはここにいる。
ここが。
わたしの村だから。




