キャラバン編 ショートストーリーず
最近。
んー。
帰って来てから?
それとも、その前?
ほんとは、ずっと前から?
なーんか、籐吾さんが気になる。
いつからだろう。
いつからだったかな。
別に、ずっと見てるわけじゃない。
と思うけど。
話しててもいつも通りだし、
お店番を頼む時だっていつも通り。
でも。
時々だけど、
なんとなく目で追ってる自分に気づく。
大きいから目立つだけ?
……違うかな。
たぶん。
きっと。
そういうことなんだと思う。
出来たばかりの作業場。
わたしの作業場。
まだ新しい木の匂いがする。
棚を拭いて、
道具を並べて、
持って来た荷物を片付ける。
籐吾さんにも手伝ってもらって、
ようやくそれらしくなってきた。
「これは?」
「そっちの棚でお願いします」
「これも?」
「それはこっちです」
「はいよ」
籐吾さんが大きな身体を屈めながら荷物を置く。
わたしはその横で、
残った荷物を片付ける。
二人きり。
ふと、手が止まった。
籐吾さんを見る。
大きいな。
いつも見上げてるけど、
今日はなんとなく、
もっとずっと上にいるような気がする。
「籐吾さん……」
「ん?」
上目遣いに見上げる。
「……」
「……?」
言う。
今、言う。
「わたし、籐吾さんが好きです」
「俺には御形がいるから」
早!
「知ってます、でも……」
「うん」
「……」
「……」
なんなのよ。
分かってた。
分かってたんだけど!
「なんでいつもそんなに優しいんですか!」
籐吾さんが少し考える。
そして、
「菖蒲だからかな」
「もう!」
なんなのよ!
ほんとに!
もう!
翌日。
「籐吾兄さん! 今日、店番お願いしますね!」
「おう」
「じゃ!」
「え?」
返事も聞かずに店を飛び出す。
今日は役場に呼ばれてる。
急がなきゃ!
役場へ入る。
「おはようございます!」
「あ、いらっしゃい、菖蒲さん」
リーダーさんが出迎えてくれる。
「実は菖蒲さんにお願いがありまして」
「ん? なんでしょう?」
「昨日から隣の村のキャラバンが来ていまして」
「でしたね!」
確か荷車が何台か入って来てた。
「うちの村の薬草関係と、あちらさんが街で購入して来た品物の交換をすることになりまして。その立ち会いをお願いしたくてですね」
「なるほど。って、わたしがですか?」
「はい。菖蒲さんが一番、在庫なんかに詳しいですからね」
「わたし?」
「はい」
まあ。
確かに。
帰って来てから倉庫の整理もしたし、
在庫の目録なんかも作ったから、
だいたい何がどこにあるかは分かる。
「分かりました!」
というわけで。
わたしが担当者になってしまった。
そのまま役場で、
隣村のキャラバン隊のリーダーさんと交易担当の人にご挨拶。
向こうの希望を聞いて、
こちらから出せる物を確認する。
代わりに何を持って来ているのかも聞く。
一通り話をしているうちに、
なんだか不思議な気分になってきた。
――あ、こんな感じなんだ。
キャラバンに乗っていた時は、
わたしが品物を持って行く側だった。
今日は、
来た人達を迎える側。
立場が違うとなんか新鮮。
大まかなやり取りを終えて、
「では、実物を見て決めましょう!」
となりました。
キャラバン隊の荷車へ向かう。
「しかし、お若いのに在庫を全部ご存じで?」
隣村の交易担当さんが聞いてくる。
「まあ、大体ですけど」
「いや、すごい」
「そんなことないですよ。ただ片付けただけですから」
倉庫を整理したから、
どこに何があるのか覚えただけ。
それだけ。
話しながら歩いていると、
「ん?」
キャラバンの中に、
大きな男の子がいた。
目が合う。
「あ」
途端にそらされた!
なに!
失礼な奴!
もう一度見る。
大きい。
籐吾さんよりは一回りくらい小さいけれど、
わたしよりは、はるかに大きい。
まあ、いいや。
荷車は四台。
それぞれに荷物が積まれている。
「では、見せてもらいますね!」
一台目。
「これと……あれと……そっちと……」
二台目。
「こっちもですね」
三台目。
「あれ? さっき言ってたのどこだっけ?」
「ああ、それは四台目です」
「四台目?」
行ったり来たり。
また戻る。
「あ、これですね!」
やっと見つけた。
ふう。
――やっぱり、わたしの積み方の方が断然仕事しやすいよね。
種類ごとにまとめた方が絶対いい。
今度教えてあげようかな。
向こうの品物を一通り見終わったら、
次はうちの村の倉庫。
「ご希望の品物はこちらです」
「はい」
「次はこちら」
「はい」
「それから、そこ」
「え?」
「次の列の……はい、三段目」
「あ、これですか」
「それです!」
そのまま進む。
「あとはこっちです」
「もう分かるんですか?」
「ありますから」
「どこに?」
「この先です」
棚を曲がって、
「はい、これ」
倉庫を一巡。
終了。
「以上ですね!」
「……」
隣村の交易担当さんが、
なんだかあっけに取られている。
隣でリーダーさんが得意げな顔をしてる。
なんでリーダーさんが得意げなの?
交換する品物も決まった。
「じゃ、品物おろしますか!」
再びキャラバンの荷車へ。
「荷下ろしはこいつがやりますんで」
「はい」
見る。
あ。
さっきの大きな男の子。
「ほら、挨拶」
「……よろしくお願いします」
チラッ。
「はい、よろしくお願いします……ね!」
「はい……」
チラッ。
――なんなの?
荷下ろし開始。
大きいだけあって力はある。
荷物をひょいっと持ち上げて、
わたしのところへやって来る。
「菖蒲さん、これはどこに降ろせば?」
「そっちです」
「菖蒲さん、これはここでいいですか?」
「はい!」
また来る。
「菖蒲さん、こっちでいい?」
「そこそこ」
また来た。
「菖蒲、これは?」
「おまえ! 年下だろが! さんはどーした!」
「……菖蒲さん、これは?」
言い直しやがった。
「それはこっち!」
「はい!」
荷物を持って走って行く。
まったく。
「菖蒲、嬉しそだな」
「え?」
通りすがりの御形さん。
こっちを眺めてる。
「嬉しくなんてありません!」
「あやめー!」
向こうから声。
御形さんがそっちを見る。
「ほら、呼んでるぞ」
「もう! さんでしょう!」
「あやめさーん!」
「はいはい!」
走って行く。
「これは?」
「それはあそこ! そう、そこ!」
「分かった!」
なんなのよ、もう。
それからも、
「あやめさーん!」
「はい!」
「あやめさん、これは?」
「そっち!」
「あやめさん!」
「今行く!」
行ったり来たり。
指示して、
確認して、
また運んでもらって。
ようやく。
「終わったー!」
全部降ろし終わった。
大きな男の子がその場に座り込む。
「お腹空いたー」
「はい、おにぎり」
持って来ていた包みから一つ渡す。
「え? 僕に?」
「あなたしかここにいないでしょ!」
受け取って、
ぱっと笑う。
「ありがとう、菖蒲!」
「さん!」
「ありがとう、菖蒲さん!」
「まったく」




