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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
キャラバン編

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第十節 わたしの

帰って来た翌日。


目を覚まして、最初に見えた天井。


――なんか不思議。


ここは御形さんの家でわたしの家。


昨日の朝までは、まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。


キャラバンから帰って来て。

村に帰って来て。

そして、わたしの帰る場所まで決まった。


まだちょっと変な感じ。


でも。

「おはようございます!」


居間へ行って、おばあちゃんに挨拶する。


「はい、おはよう。寝れたかい?」

「はい! ぐっすりと」

「よかったな。今日にでもベッド、大工に頼むからね」

「何から何までありがとうございます」

「弟子なんだよ。当たり前のことさ」


弟子。

なんだか、その言葉がくすぐったい。


「はい!」


ここがわたしの家。




さて。

今日はとりあえず、お店の様子を見に行こう。


八百屋は家から農地の方へ少し入ったところ。


歩き慣れた道。

見慣れた村。


なのに、なんだかちょっと違って見える。


たった半分月くらい留守にしただけなのに。


お店の前に着いて、戸を開ける。

久しぶりの八百屋さん。


ガラン。


棚には何もない。

陳列台にも何もない。


そりゃそうだ。

仕入れしてないんだから。


「まずは空気を入れ替えよう!」


表を大きく開ける。


ふわっ。


乾いた風が店先から入って、そのまま奥へ抜けていく。


乾季の風。


帰って来たんだなぁ。


「あら、菖蒲さん! お店開けたんですね!」


通りから声をかけられた。


「こんにちは! 今日は仕入れしてないので、販売はまだ後日ですけど」

「待ってるからね」

「はい、ありがとうございます!」


その人が行ったと思ったら、


「あ、菖蒲さん!」

「はい!」


今度は別の人。


「おかえり!」

「ただいまです!」


……。


開けただけなのに。

途端にみんなが声をかけてくれる。


――みんな優しいな。


なんか嬉しい。




さて。

遊んでる場合じゃない。


わたしはカウンターに座って、今回の帳簿を開く。


それから、キャラバン中に書き溜めた紙の束。


宿泊地での交換。

販売。

購入。


目的地での取引。

帰路での取引。


あれやこれや。


その場その場で控えておいた紙を、一枚ずつめくっていく。


日付ごと。

立ち寄り先ごと。

取引先ごと。


分類して。

まとめて。

帳簿へ転記する。


「えーっと……これは、こっち」


次。


「これは……あれ?」


紙をひっくり返す。


「あ、裏に書いてる」


また次。

……。

……。


――ぜんぜん終わんない。


その間にも、


「菖蒲さん、おかえりー」

「ただいまです!」


「あら、今日は野菜ないの?」

「明日から仕入れます!」


なんて、お客さんがやって来ては声をかけてくれる。


嬉しい。

嬉しいんだけど。

帳簿が進まない!


それでも一枚ずつ整理して。

書いて。

確認して。

また書いて。


気づけば、あっという間にお昼になっていた。


「うーーーん!」


カウンターで思いっきり伸びをする。


――こんなに時間かかるなんて。


次は、先々での控え方も考えなきゃ。

帰ってからまとめやすいように。

日付と場所と取引先を最初から分けておけば……。


うーん。


……。


そういえば。

馬さん、どうなったかな?


「ちょっと見に行こう」


――気分転換も必要よね!


うん。

必要必要。


自分に言い聞かせて、お店を閉めた。




正門の方へ歩いていく。


「こんにちはー!」


衛兵さん達に声をかける。


「あ、菖蒲さん! こんちわっす」

――なんかわたしには気安いな。


まあ、いいけど。


「昨日連れて来た馬さん達は? 外苑で飼うって聞いたんだけど?」

「あー、それなら西の櫓の、ハンターさん達の家の方ですね。ハンターさん達が出入り出来るように門作るらしいですよ」

「ありがとう!」


手を振って別れる。

――なんだ。うちの近くなんだ。


そのまま西の櫓の方へ。


しばらく歩くと、


トンテン、カン。

コン、カン。

トンテン。


音が聞こえてきた。


大工さん達が四、五人。

塀のところで何かを作っている。


「こんにちはー!」


塀の上で作業している棟梁さんに声をかける。


「おー、菖蒲ちゃん。どした? あ、ベッドのことか?」


――もう頼んでくれてるんだ!


「いえいえ、今日は馬さんのお家を見に」

「そっちか! ここから外に出れるぞ」


棟梁さんが足元を指差す。

見ると、塀の一部にぽっかりと空いた空間。


まだ作りかけの門だ。

そこから外を覗いてみる。


「あ!」


さらに外側にも塀が出来ている。


その中に――


馬さん達三頭!


草を食べたり。

走ったり。

ふんふんしたり。


「かわいい!」


一頭がわたしに気づいた。

こっちを見る。


そして。

のっし、のっし。


近づいて来て――


すりすり。


「わっ!」


顔が大きいから、すりすりも大きい。


「かわいい!!」


馬さんの顔を両手でなでなで。


大きい。

あったかい。


「馬は撫でてやると喜ぶからな。いっぱい撫でてやんな」


頭の上から棟梁さんの声。


「はーい!」


なでなで。

すりすり。

なでなで。


――うん。

これは癒しだなぁ。


しばらく撫でてから、改めて周りを見渡す。


ん?


「あれ?」


外側の塀にも、なんか門がついている。


「棟梁さん?」

「ん?」

「あそこから出入り出来るんですか?」

「馬専用だな。わざわざ正門に回る必要もあるまい」


棟梁さんが金槌を腰に引っ掛けて、外を指差す。


「ハンターが家から出て、内門からここに来て、外門を開けて外苑に出る。便利だろ?」

「さっと出れますね!」

「そういうこった」


満足げにうなずく棟梁さん。


なるほど。

馬さんを飼う。


それだけじゃない。


どう使うのか。

誰が使うのか。

どうしたら一番便利なのか。


そこまで考えて作るんだ。


――よく考えてあるな。


よし。

わたしも頑張らなきゃ。




お店に戻る。


椅子に座って。

帳簿を開いて。

紙の束を置く。


「さあ! やるぞ!」


気合いを入れる。


日付。

場所。

取引先。

販売。

購入。

交換。


ひとつずつ。

ひたすら。


書いて。

計算して。

確認して。


そして――

夕方。


空が赤く染まり出す少し前。


最後の数字を書き込んで。

確認。

もう一度確認。


「……」


うん。


「終わったーーー!!」


椅子の背にもたれかかる。


――やった!

やってやった!


わたし偉い!


満足げに帳簿をパラパラとめくる。


うん!

ちゃんと出来てる。


「役場に出しに行こ! 暗くなる前に!」


帳簿を抱えて、お店を飛び出した。




「すみませーん!」


役場へ入って声を上げる。

奥から顔が出てきた。


「あ、リーダーさん!」

手を振る。


「はいはい、なんでしょう? 菖蒲さん」

「帳簿出来ました!」

「え? もう?」

「はい! 頑張りましたよー」


胸を張って帳簿を差し出す。

リーダーさんが受け取って、目を丸くする。


「乾季の間に出来ればくらいに思ってたのに」

「え? そんなに?」

「普通、そうですよ。でも、お預かりします」


――そんなもんなの?

今日一日、必死になって終わらせたんだけど。


「中身確認して、またお話ししましょう。暗くなる前にお帰りなさい」

「はい! では、また明日来ますね!」

「はい、お待ちしてます」




「ただいま戻りました!」


家の戸を開ける。


「おかえりー」

「おかえりなさい」


御形さんと、おばあちゃんが迎えてくれる。


――やっぱいい!


「すぐ晩御飯だからねー」

「はーい!」


ご飯を囲んで。

今日あったことを話す。


「今日は役場に帳簿出して来ました」

「へえ、もうかい?」


おばあちゃんが驚いた顔をする。


「あんな物は雨季までに出すもんじゃないのかい?」

「そうなんですか?」

「昔はそうだったよ」

「そうなんだ」

「でも、すごいね、あんたは」

「えへへ」


褒められた。

嬉しい。


よし。

明日も頑張ろ!




翌日。


さて。

あとは――


「服だよねー」


というわけで。

わたしは衣屋さんを訪ねていた。


「おはようございまーす」

「はーい。あら、菖蒲ちゃん! いらっしゃい」

「実はですね……」


衣屋さんのお姉さんに、持ち帰った見本の服をいくつか見せる。


一枚。

もう一枚。


形の違うもの。

色の違うもの。


お姉さんが広げて、表を見て、裏を見て。


「素敵な服ですねー」

「なんて言うんですか? センス? ですかね」

「そうねぇ。形も面白い」


よし。

反応はいい。


「これを、他と一緒に置いてもらえないかなぁって」

「いいね! 大きさも色々あるんでしょ?」

「大きさ、種類、色んなパターンで作られてます」

「大きさ毎にずらっと並べて……いや、掛けてずらっと並べて、その中から『これ!』ってのを選ぶ!」


お姉さんの目が輝く。


「宝探しみたい!」

「絶対売れますよね!」

「そうね。物はいいし、売れると思うけど……ただ……」

「やっぱ、どうするかですよねー」


二人で腕を組む。

オーダーメイドでもない。


でも。

標準でもない。


「標準よりも高いよね?」

「標準よりはですね」

「ポイント?」

「でも、オーダーメイドみたいに、その人用でもないですもん」

「だよねー」


うーん。


品物はいい。

欲しい人だって、きっといる。

なのに、今の仕組みだと、どこに置けばいいのか分からない。


――これは役場だな。




午後。

役場へ。


「こんにちはー」

「はい! 菖蒲さん、お待ちしてましたよ。とりあえず部屋に行きましょう」


リーダーさん。


昨日の帳簿を持って、なんだかホクホク顔。


部屋に入って、向かいに座る。


「まずは、キャラバン成功おめでとうございます」

「いえ、そんなには儲かってませんよ」

「なにを言ってますか。これ以上の結果はないですよ!」


リーダーさんが帳簿を開く。


「帳簿残高に馬三頭入れれば爆盛りじゃないですか!」

「あれは、まあ、なんかおまけみたいな物ですから」

「いえ! あれもしっかり菖蒲さんの手柄です!」

「そんな」


――リーダーさん、褒め過ぎです。


そこからも、


ここが良かった。

この取引も良かった。

この判断も良かった。


なんて。


めっちゃおだてられた。


……悪い気はしない。


いや。

かなり嬉しい。


「あ、そうそう。少しご相談がありまして」

「なんです?」

「あの、服のことですけど」

「あ、それもありますね! この在庫まで入れると――」

「いやいや、もう入れないでください!」

「?」


リーダーさんが首を傾げる。


「では、服のなにを?」

「売り方と言いますか、どう標準と分けて販売するかと」

「ん? そんなの標準と枚数を変えて配れば?」

「枚数を?」

「ええ。標準、五枚まで一度に交換ですよね」

「はあ」

「この服は二枚くらいにして、追加の人はオーダーメイド扱いにするとか」


……。


あ。


「あ、普段着は毎日、お出かけは半月で一つ、みたいな感じですね!」

「そうそう。これなら作業着もおしゃれ出来ますよ」


なるほど!

普段使いする標準品。


ちょっといい服。

完全にその人用に作るオーダーメイド。


服そのものを無理にどこかへ押し込むんじゃなくて、交換出来る枚数を変えればいいんだ。


「最初にオーダーメイドさえすれば、後は交換で繋いでいけます」

「つけ帳を分けて書くだけで出来ますね」

「ですね。枚数なんかは、ちょっと詰めないとですけどね」

「ありがとうございます!」


やった。

これならいける。


「では、その話はわたしから役場に話しておきましょう」

「いいんですか?!」

「少しはわたしも働かないと」


リーダーさんが笑う。


「じゃ! お願いしちゃいます!」

「はい、了解です」


なんか決まった!

なんか、どうにかなりそう!


衣屋さんのお姉さんに報告しなきゃ!




早々に役場を後にして。

そのまま衣屋さんへ。


「お姉さん! なんとかなりそうですよ!」

「そうなの?」

「はい!」


さっき聞いたことを、最初から話す。


標準とは交換枚数を変えること。

もっと欲しい人はオーダーメイド扱いにすること。


そして。


「わたしが帳簿を分けるだけでいいんだ」

「です!」

「やりましたね!」

「やりました!」


二人で笑う。


これで。

旅先で見つけた素敵な服が、この村でも着られる。


誰かが選んで。

誰かがおしゃれして。

その人が歩いているのを見た誰かが、


――わたしも欲しい。


なんて言ってくれたら。

きっと、もっと楽しい。




衣屋さんを後にした。

わたしの足は、めっちゃ軽かった。


さあ。

帰ろう。


夕方の村を歩く。


見慣れた道。

見慣れた家。

見慣れた人達。


だけど。

旅に出る前とは、ちょっとだけ違う。


わたしの帰る場所。

我が家。


わたしの仕事。

八百屋さん。

時々、交易担当者。


わたしの手柄。

馬さん三頭。


わたしのおしゃれ。

とってもいいセンスな服。


そして。


そう。

ここは――


わたしの村。


なんて素敵なんでしょう!

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